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ミナモは森の中で鼻歌交じりに友人のシャルロッテに連絡を試みる。
『やあやあ、久しぶり』
『久しぶりでもないだろ、昨日話したんだから。
で、その上機嫌は何? なんか用事? 忙しいんだけど』
『清廉の子兵に出会ったよ』
その名前にシャルロッテが息を飲む音が聞こえた。
『冗談でしょ?』
『やーい、節穴ー、この半年ヴァルアクの痕跡ゼロー、ざーこざーこ』
『うざぁっ、……第一ボクは君と違ってクランに縛られてて上手く探せないんだ、根無し草の君と違うんだから仕方ないだろ』
『まあ、私も全然調べてなかったから、偶然だったんだけどね、いやあ、運つよつよでごめんね』
『腹立つわぁ』
そんな談笑しつつシャルロッテは清廉の子兵について尋ねる。
『それで強さはどうだったんだい?』
『雑魚なのは変わらないよ』
『なんだ、安心した』
『そう安心できるとは限らないよ』
『どういう事?』
ミナモは清廉の子兵についての評価は一切変わらない。
ヴァルアクの時同様の強さで、どこにでもいる雑魚敵、それ以上でもそれ以下でもない。
しかしプリスターやメイアの戦闘を見て、WLMのプレイヤーの方に問題を見つけた。
『ヴァルアクをプレイした切っ掛けって覚えてる?』
『切っ掛け? ……なんだっけ?』
『上級者向け』
『あっ、ああ、そうだったね。そういえば最初はそんな触れ込みだったね』
MMORPG上級者に向けた少し難易度の高いゲーム、それがヴァルハラアクセスであった。
敵が少しだけ強く、プレイヤーは立ち回りを要求される。魔法なども手軽には発動できない、そういった要素が重なり初心者がプレイする難易度ではない。
『ひょっとしてこのゲームのプレイヤーが弱いって事?』
『多少そんな面はあるけど、問題はそこじゃない』
『じゃあなにさ?』
『アバター自体の性能、そして装備』
『アバターの性能、……言われてみればこのゲームは一般的なものと同じだね』
『ヴァルアクは結構アバター自体の強さがあったからね』
ゲームによってアバターの性能が違う、ヴァルアクは物語の設定からWLMよりも強くなっている。
運動性や耐久といったものが引き上げられていて、ヴァルアクの敵と対等に戦えるようになっていた。
『攻撃を受けきれない?』
『私は無傷だった』
『今の君は分からないけど、君基準で言うのは止めな。
それで、装備については?』
『ヴァルアクの武器って、対天使対策に竜の素材が入ってるって設定だったじゃん』
『……そうだっけ?』
『そうだよ。
つまり、ダメージを与えられないわけじゃないけど、決定打にはならないんじゃないかな?
他のプレイヤーが紙装甲みたいにやられてたし』
『そのプレイヤーの強さは?』
『さあ? そこそこレベルあるんじゃない? どう思う?』
『見てないから聞かれても困る。
けど、……そうか、今のままじゃキツイか』
シャルロッテの中でどうにか強化できないか模索するが、思いつくのは竜の素材を使った装備だけだ。
『そう言えばさ』
『ん?』
『そのプレイヤーって言うのはどうしたの?』
『一人は街に逃げ帰って、もう一人は村人を守ってるよ』
『ヴァルアクについて話したの?』
『話してないけど、他のゲームの要素があるって事と、清廉の子兵の名前は教えてあげたから、探そうとすればそこに辿り着くんじゃない?』
『ま、早かれ遅かれ分かる事だろうし』
別に隠そうという気はない、世間に伝わっても2人は何も問題ないと思っていた。
『清廉の子兵が居たんなら親玉、清廉の化身はどうしたの?』
『居なかった、正確には居た、けど騒ぎが起きた時にはどっかに消えてた』
清廉の化身は羽から生まれた清廉の子兵とは別の存在だ。
化身から子兵が生み出されるが、化身を倒しても子兵が消えることは無い。
『逃げたの?』
『したたかな奴だよ。
戦闘が始まる前から逃げてたみたい』
『ふ~む、じゃあ何処かで眷属を増やす感じかな』
『そうだろうね、どこ行ったんだか』
清廉の化身は下部を作る数がある程度決まっていて、その最大数以上は作れない。
しかし子兵が潰された場合、その潰された数だけ補充が可能であった。
『どこで潜伏してるんだか』
『何処って、君今どこいるの?』
『ん? えっと最初にプレイヤーが降り立つ街、なんだっけ?』
『メルテトブルクだけど、……まさかそこで?』
『いいや』
『なんだ違うのか、ならいいや』
『その近くの村』
シャルロッテが盛大に倒れる。
休憩しながら座っていたとはいえ、その衝撃的な事実に倒れずにはいられなかった。
近くでシャルロッテの仲間が目を白黒させて心配しているが、周囲に構っている暇はない。
『それを早く言え!』
『な、なんだよ、急に興奮して、どうしたんだ?』
『メルテトブルクに潜伏してるなら大惨事になるだろ!』
『別にいいじゃん、潜伏したきゃしてて。暴れるわけじゃないんだ、潜伏させとけ』
『暴れた時が厄介だろ、ヴァルアクと違って結界が無いんだ、ノーガードで腹の中に居座られてる状況だぞ。
これで一国の王でも手玉に取られてみろ、一大事だぞ!』
結界とは、天使の行動を抑制する結界の事だ。
竜の加護と言われる結界で、それらがあるおかげで、清廉の子兵が潜伏することが出来ない。
『それは楽しそうだね』
『くっ、君に話したボクが馬鹿だった……』
『ばーかばーか』
愛着を持たない者に話しても仕方がない。その事を痛感する事になる。
『まあ、ヤバい状況ってのは分かった』
『分かってもダメなんだって。
あぁ、どうするのよ……』
『頭を抱えてる姿が見える見える』
『呑気な、あ、ちょっと待って、リーダーが帰ってきた』
『リーダー? ああ、クランのか』
通話を中断し、ミナモは森を抜けてメルテトブルクへと向かう。
20分ほどするとシャルロッテから呼び出しがかかった。
『話は終わったの?』
『終わった、というか身が縮まる思いだった』
『何かしたの?』
『君が言った件』
『私?』
『さっきの清廉の子兵だよ』
『なんでそっちまで話が飛ぶのさ』
『君が居たところに雷光のメイアって人が居たんだよ』
『雷光のメイア? ……そう言えばそんな奴居たな、結構コミュ障拗らせてた。
けど暇つぶしにテイマーにありつけたからいいけど』
『その人有名な人だよ』
『なんかそんなこと言ってた様な。
その人がギリギリ勝ってた』
『テイマーの中じゃトップクラス、いや、トップよ。
その人が苦戦してるとなると、……考えたくないなぁ』
強さで名を挙げた者が接戦したとなると、自分が果たして善戦できるのかと不安になる。
シャルロッテは群を抜いて強いのだが、それでも不安は一切拭えない。
『アウトセンス磨いてる? というか無理に体動かすとステータス上昇量増えるの教えたよね?』
『やってるよ。
……もうアバター作り直そうかな、取り返しのつかない致命的な欠陥を抱えてる様だよ。
PTだと好き勝手に動けないし、最近は頭を悩ませることばかり、……解放されたい』
『けど、今の居場所を捨てたくは無いんでしょ?』
『その通り、仲の良い人たちもいるからね。
だけれど、……どうしよう、作り直そうかな』
『何時かレベルリセットが発見されるんじゃない?』
『リセットって言ってもこれまで苦労して上げたのに、それが無になるのも嫌』
『それはそうか。
けどステータスの方が重要でしょ? 結構簡単に三桁行くからいいんじゃない?』
『君みたいにポンポン上がるわけじゃないけど、……確かにそうだよなぁ』
シャルロッテの心は揺れていた。
このまま続けていてもしこりが残るだけだ、だからこそ心残りにならないように一から、という考えが半々ある。
『一応聞いておくけど、君、レベル三桁行ってたりする?』
『……まあ、行ってる』
現在噂ではそろそろ99レベルに到達するというプレイヤーが現れると噂されている。そんな中でミナモはすでに到達していた。
『……よし、決めた。
一からやり直そう』
『おいおい、さっきと言ってる事違うじゃないか』
『このまま頭を悩ますよりはマシだよ、三ケタ台に行ったら余計引き返せなくなる。
それにどの道、しばらくは探索ができそうにないからね』
『どういう事?』
『さっきも言っただろ、清廉の子兵の件、そのせいで街にしばらく留まって警戒する事になった。
化け物が人間に化けてるって言うのが、このゲーム最大の危機だからね』
シャルロッテはプレイヤーがNPCの虐殺を行う可能性がある事を話し、今回の騒動が解決の兆しを見せない限り街を離れられないと語った。
『クランが分裂するのも厭わないみたい。
このまま探索したいものはクランを抜けてくれって、かなり強い口調で言われたよ』
『へぇ、だからついでに抜けると』
『結果的にそうなるね。
けど今回の件はかなりの大事だってみんな分かってるから受け入れて残留してるよ』
『踏み切ったね』
『ネットゲームは一期一会って言ったのは君だろ。
それに同じゲームをしてるんだ、ゲームが続いてる限り何処かで出会うさ』
覚悟は決まっているようで、ミナモはそれを止めたりはしない。
『で、覚悟を決めさせた君に手伝ってほしい事がある』
『アイテムの受け渡し?』
『そう』
アバターを削除するからといっても、アイテムをすべて捨てるには惜しい。
所持しているアイテムを受け渡す手伝いを快く二つ返事で返した。
『じゃあメルテトブルクで落ち合おうか』
『あいよ』
ミナモは平原の向こうにあるメルテトブルクへと小走りで向かっていった。
空にはバケットをぶら下げて飛ぶ従魔達の群れがメルテトブルクへと飛び去って行き、その移動の快適さに頬を膨らませ、走るスピードをぐんぐんと上げて行った。




