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プリスターはアイテム欄からランタンを取り出し、それに火を灯し森の奥へと足を踏み入れる。
視界には同じく、探索に来た村人が、松明を片手に動き回っていた。
近くに居る瘦せ型の青年を見つけ、子供たちの特徴を聞くべく話しかける。
「すみません」
話しかけると、幽鬼のように無表情な顔を向ける青年、その仕草が不気味で警戒をするプリスターであったが、青年の表情が一瞬で変わる。
(あれ? 気のせいだった)
今にも泣きそうな、辛そうな表情をしている青年が無表情なはずは無かった。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、……弟が行方不明で、気が気でなくて」
「そ、それは、わ、私も探すためにここに来ました。
微力ながらお力をお貸しします。
それでその弟さんや行方不明のお子さんたちの特徴をお聞きしたくて」
「ありがとう旅の人」
話しながら二人は森の奥へと向かう。
その途中青年がふらりとよろめく、体調が悪い様に感じた。
「大丈夫ですか? 家族に任せた方が良いと思いますけど」
「父と母、多分、街に出稼ぎに」
「そうなんですか」
家族も居ず、大人しく待ってることも出来ないのだろう。
「弟はボクと同じく病弱で、家族思いの心の優しい弟なんです」
「病弱なんですか?」
暗がりでよくわからなかったが、青年はとても線が細くか弱そうに見えた。
しかしプリスターから見ればその線の細さが母性をくすぐり、少しだけ幼さく可愛らしい美少年という風貌に、そちらばかり意識が行く。
「ああ、すみません、見た目ですね、ボクに似ていて、幼くした感じの子です」
「か、可愛らしい子そうですね」
「そうなんです、ボクの為につたないながらも料理を作ったり。
精一杯良くしてくれて、何度も心を救われました」
青年の顔が朗らかになるが、すぐに不安そうな表情になり周囲を見渡した。
「だから日頃の献身的な行動に対してボクが償わなくては……」
(ん? 償う? 報いるじゃなくて?)
弟が兄に仕える、それに対して償うという意味が解らず首をかしげる。
償うのは罪などで、報いるは恩などに対して、ならば何故献身的な行動に償わなくてはならないのか、違和感しかない。
(あ、言い間違かな? 私もあるからなぁ)
言い間違いと気にせずそこを指摘することはしない。
「弟は寝込んだボクを元気づけるために一生懸命お守りを作ってくれました。
それから体調も良くなって、三ヶ月経った今では何とか動けるほどですよ。
本当に奇跡です、とても綺麗で神々しい天使の羽……。
ボクにはもったいなくて」
「……素晴らしい兄弟愛ですね」
「ええ、とても。
ボクなんかよりも自分の事をすればいいのに、一身になって、だからこそボクは必ず……」
胸元で強く拳を握る青年、それを見たプリスターは弟への想いに心を打たれた。
(弟君はお兄さんを、お兄さんは弟君を、美しい、美しすぎますっ)
多少興奮気味に感動し、プリスターは青年に礼を言う。
「ありがとうございます。
仲間に伝えてきます!」
急いで見つける為に、プリスターは他の情報も聞かずにミナモの元へと走って行ってしまった。
その姿を見送った青年がポツリと呟く。
「だから早く見つけないと」
足取りは重く。
「償わせないと」
そこに表情は無かった。
☆
ミナモが再び宿に舞い戻ると、そこには飛び出していったプリスターが戻ってきていて、席に大人しく座っていた。
「ずいぶんと早く戻ってきたね、何かしたの?」
話しかけるとプリスターは駆け寄り、今にも泣きそうな顔で答えた。
「それがですねぇ、語るも涙でして」
「なにしたん?」
「探しているお子さんのお兄さんって人に会って、男の、兄弟の友情ですよ、BLよりも尊いですよ。
お兄さんの為に何でもする弟ですよ、弟、何でも! 健気で可愛く、辛抱たまらんと思いませんか?」
「腐ってるって言うのは読み取ったが、それ以外は?」
「え? それ以外? ……意外とか細くて可愛らしいショタっ子だとか?」
「そうじゃなくて、行方不明になる前の情報とか」
「……あー」
肝心なことは聞いていなかったのか、正気に戻ったプリスターは真顔で何とも言えないまま黙ってしまう。
「……具合の悪いお兄さんの為に綺麗な羽をプレゼントして体調が元に戻ったとか?」
「……ふーん」
素っ気ない返答に、収穫が無い事を責められると勘違いし、居心地が悪くなったプリスターは踵を返した。
「ま、真面目に探してきます!」
逃げるように捜索に戻ろうとしたのだが、その手をミナモが掴み止める。
まるで万力にでも掴まれた様な力強さに、手が動せず驚く。恐る恐るミナモの顔を確認するがその表情から感情は読み取れない。
(!? い、意外と、力が、お、怒ってる? そ、そうですよね、私も癖で腐ってしまってましたが、……罪悪感がっ)
しかし無表情であったミナモの表情は、少しだけ朗らかに微笑み。
「お兄さんに詳しい話を聞きたいな」
「……お兄さんと弟さんの関係にご興味が湧いたんですね!」
ミナモはそれに答える事は無く、ニコリと笑顔で返した。
プリスターが先導する形で件のお兄さんが居るだろう方向へと向かう。四方の殆どが山か森ばかり、人を見つけるのも一苦労であるが、人々は松明を持ち行動している為見つけるのは容易だ。
子供の名前を呼ぶ声が響き、離れた場所からも聞こえてくる。
「アイツ? さっきまでそこら辺を探してたが、どっかに居るんじゃないか?」
「え? ラターク? あの子は確か他の人を連れて奥の方に行ったんじゃなかったかな?」
「さっきあそこに居たはずよ、けど大丈夫かなこんな夜中に」
ラタークと呼ばれた青年の姿を見つけることは出来なかった。
数名を引き連れて向かったようだが、何処へ向かったかは検討がつかない。
「……あれぇ、私何か行動まずかったですか? 結構重要な情報だったんですか?」
「う~ん、可能性の高い方じゃないと良いなって思ってるだけ」
「どういうことです?」
「まだ重要か分からないし。
他の可能性を追う為に、他を当たってみようと思う」
プリスターは自分の行動が失敗だったのではないかと不安に思い始めたが、ミナモはそんな彼女の背中を押す。
「正解に近づいたと思えば良いさ。
彼との会話について一からまた話してくれないかな?」
「わ、分かりました」
多少別な意味で色目が入った目線でプリスターが話始める。
「お二人は少し病弱でしかしとても仲睦まじい兄弟です」
「病弱?」
「はい、弟さんの方はそこそこ健康ですが、時々風邪を引いて寝込んでいるらしいです。
そしてお兄さんは頻繁に寝込んでいて、体調がくずれると話していました、病弱設定もそそりますよね」
「……病弱で寝込んでいる?」
ふとした疑問をミナモは見逃さない。
「寝込んでいるのにこの時間に探し回るの?」
「え? あれ? あ、でも、お守りの羽を貰ってからは体調も優れているって、だから探しに出たんじゃ?」
「モンスターが徘徊してる中病弱な男が?」
「あっ」
この世界の人間は基本的にそこそこ強い、一般的なプレイヤーよりも強く逞しい。
しかしそれは健康的なNPCの事だ、病弱となるとそれ以下の強さとなる。
病弱な人間が魔物潜む夜闇の中を動くには無謀であった。
「羽が消えた? もしくは何か情報を握ってる? う~ん天使関連じゃない事を祈る」
「どうしたんですか?」
「そしてお兄さんは確か両親が居ないって話だったかな?」
「そうです、そのご兄弟はご両親が一か月前から街の方に出稼ぎに行ったとか」
「とか?」
プリスターが少し曖昧に答える。その曖昧さが気になり尋ねると。
「なんだかそこの話だけお兄さんの方も曖昧で、何か言えない事情があったんじゃないかと思って話題を変えたんですよ」
「ふーん。
天使、じゃなくて、羽のお守りについては?」
「三ヶ月ほど前に手に入れた、とか?」
「三ヶ月前、……モンスターの咆哮もそれくらいだったが、其処等辺の人に尋ねてみるか」
三月前の出来事、それを知る為にもラタークや他の人物に聞きこみを始める事にした。
ただ時間が経っていると、どうしても記憶は薄れてしまう、期待するような情報を聞き出すことは難しい。
「三ヶ月前? ……いや、分からんが、今はガキ等を探す方が優先だろ」
そういった真っ当なことが返ってくる。
「優先なのは分かります、ごもっともです、でも少しでも情報が欲しいんです、お願いします」
ミナモが頭を下げるとつられてプリスターも下げる、そんな姿を見ると居心地が悪くなり記憶を必死を呼び起こし始め。
「あ~、う~ん、確か、……それ以降からちょこちょこ寝込む人が増えた、か?」
「寝込む?」
「寝込むって言っても一日くらい寝込んで、翌日にはケロッと元気になってる。
数人程度だから別に流行り病ってわけでもなかったからな、何かが当たったって話で落ち着いたか」
ミナモはこめかみに手を当てていた。
既に現状についておおよそ理解をした様子で、惨状に頭を抱えるしかなかった。
「姫は何か分かったんですか?」
「解りたくない事が解った。
その一時的に臥せていたって人達は何処に居ますか? いえ、正確には全員村に居ましたか? どっか出て行ったりしてませんか?」
「さあ? 誰が寝込んでたなんて詳しくは知らないよ、それに村から出て行ったかも把握して無い。
多分どっかでガキ達を探してるか家にでも居るんじゃないか?」
「……ありがとうございます」
礼を言い、来る時とは打って変わって、足取りを重い。
プリスターは疑問符を浮かばせながら、そばに寄り添い付いていく。
「結構まずい状況なんですか?」
「手遅れという状況だよ、……参ったね、そっち系の話じゃないと思ったけど、どうやらその話の様だ」
「私には分からないんですけど、一体どういう感じなんです?」
「手っ取り早く言うと、先の羽というのは人に寄生、というか乗っ取る系の物なんだ」
「……ええ!? の、乗っ取るって、意識をですか!?」
「そう、その意識を」
「じゃ、じゃあ子供達も!?」
「分からない、分からないが、寝込んだ人って言うのは間違いなくその対象のはず」
「治らないんですか?」
「治す手段はあるが、今の私の手持ちにはない」
プリスターは言葉に詰まり解決手段を自分なりに考えるが、何も思いつかずにしゅんと落ち込む。
「普通に暮らしてる様なのに、乗っ取られてるんですか? あのお兄さんも」
「厄介な事に自覚すらできないでしょうね。
それどころか思考を弄られて歪められてる事だってある」
「一体何が必要なんですか? 私が何か持っているかもしれません」
「あるかは分からないけど、竜の煎じ薬、竜の骨や鱗を煎じた粉を飲ますんだよ」
「竜……そ、そんなのありません。
竜なんて珍しすぎて、それどころか見つけても討伐なんて夢のまた夢、竜種をテイムなんてすれば間違いなく即有名人ですよ」
この世界に居る竜という種族は希少種である、出会う事すら至難の業。一夜にして大陸を滅ぼしたという伝承が残っているほど強力だ。
実際に遭遇して戦った者は居るが、何をされたかもわからず一瞬にして消し炭にされる。
ただしミナモが言う竜種はまた『別』である。
「まあ、この世界の竜の素材で効果があるかは分からないよ」
「え?」
(『天使の羽』の浸食は、その天使の住んでいた世界の竜種じゃないと無理だと思う、天使と竜は敵対していたからなぁ……)
ミナモが知っている解決方法はヴァルハラアクセスでの方法だ。
光る羽、それは天使から零れ落ちた力の一端だと睨んでいた。それが人間に寄生し洗脳などをしていると予測している。
ヴァルハラアクセスでのストーリーにもそういった『天使の羽』が絡む事が度々見られた、だからこそ羽と周囲に現れた寝込む症状にも合点がいったのだ。
(たとえ効果があっても、竜がぽんぽん居るわけじゃないみたいだし、絶望的か)
WLM内部の竜種と関係あるかも不明、遭遇すら難しいとなると、明るい未来は見えない。
「……できることないんですか?」
「今の所は静観しかできないかな」
残された手段はなく、後はヴァルアクと違う仕様になっていることを祈るしかない。




