19
突然サコンがミナモの手を掴むと、馬車から降りて無理やり人気のない場所へ連れ込んだ。
「きゃっ、こんな人気のない所でか弱い私に何をするんですか!?」
サコンは冗談を聞き流して話を始めた。
「お前、本気でやってくれないか?」
「本気って?」
「お前の実力は高いのは分かる、盗賊に襲われた時一撃で倒したんだ、いくら弓の腕が良くても倒す事などできない」
「……ふむ」
NPCにだって身に着ける装備とステータスが存在しており、攻撃を当てても必ずダメージを負うわけではない。
相手の防御力を撃ち抜けた以上、相当な実力がある事をサコンは見抜いていた。
「して、本気を出して何をどうするの? それに私に何か面白い事でもあるのかい?」
「お前の基準は面白いかどうかしかないのか」
「それは立派な行動原理だよ」
曇りなく答えられ、勢いで否定する事が出来なかった。
「……あいつ等は常に本気なんだ、それに答えてやってくれ。
だからこそふざけた事を言ったり、水を差す事を止めて欲しい」
このゲームにのめり込む温度差、熱意というものがミナモとシェーロ達とでは乖離が激しい。
ミナモは悪く言えばこのゲームに対して冷え切った感情しか湧かず。熱意が無いと、当事者の間に発生した齟齬で影響を与えてしまう。
サコンはその温度差から来る弊害を気にしていた。
「冷めた言葉が彼女達を萎えさせる、逆境だからこそ途中で投げ出して欲しくないんだ」
「ふむ、君の言いたい事は何となく分かった。
ロールをしろという事なんだろ、できるだけ。
けどその前にさ」
ミナモは一つだけサコンの言葉の裏にもう一つの意味があるのではないかと思っていた。
「君は君自身が本気を出してるのかい?」
「ッ、……俺は」
ミナモはサコンが本気でやっているとは思えなかった。
常に見守るポジションに立っており、お守りをしているという印象が強い。
「ひょっとして頑張る姿を見て、寄り添って自分も頑張っていると思いたいだけかい?」
「それは違う」
「何が違う?」
眼を閉じていても、その視線で射抜かれた気分だ。
「それは……」
「自分が他人よりも強く、そして歩幅を合わせる事も出来ない、そう言う事を思っているのだろ」
図星であった。
シェーロ達に寄り添って欲しいというよりも、サコンの様に一歩引いた立ち位置から導いて欲しいのだ。
「異名があり、実力を認められ、さらに慕われている。
心地よいポジションに居るが、本気を出して自分一人が孤立していくのが、今の居場所を失うのが嫌という事かな?」
サコン自身も言葉に出来ない想いを言葉にされ、内心驚き感情を揺さぶられる。
自覚が無かったわけではない、しかし言語化されていない気持ちに戸惑い理解できなかった。
「私はさしずめ身代わりや緩衝材みたいなものだろうか」
ミナモが活躍する事で、サコンに当たる光が薄らぐ、闇の中でサコンは力を出せる。
ただサコンは本当に本気で取り組んでいる事は間違いではない。一歩身を引いた立ち位置に甘んじていてもシェーロ達と共に行動する熱意は非常に高い。
「……意地悪を言ったね、すまんすまん。
どうもこういうマウントを取る性分になってしまってね、それに私は吹けば風に流される質だし、どのみち君の願いには答えられないよ」
ミナモはサコンの背中を軽く叩き馬車へ戻って行った。
(まあ、分からんでもないんだよなその気持ち)
サコンに投げかけた言葉はミナモ自身が思っている事でもある。
なまじ強くなったからこその悩みであった。
☆
馬車が揺れ、その音に驚き緊張感が高まっていく。
モンスターを操り村を襲わせる、その操る者を討つ為に移動していた。
「ところでさぁ」
気の抜けたミナモの声に皆の視線が集まる。
「な、なんだよ?」
「楽をするのと、試練に打ち勝って進んで行くのと、どっちが好き?」
こんな時に漫画の話だろうか、不思議に思いながらも答える。
「そりゃ試練に打ち勝ってだろ、漫画じゃ定番だ」
「話はその方が盛り上がるでしょ」
頷く者が多いが、それが自分達が体験しないという前提がある。
「まあ、そっか」
周りの森を気配を探りさらにミナモがさらに尋ねた。
「NPCがプレイヤーをどうかしようとした時って、どうするんだろ?」
「だから突然どうしたんだ?」
「だって事情を知っているNPCなら良くも悪くも不死身という事を理解しているんだから、その際の対応はどうするのかなって」
「……確かに」
「一般的には拘束して牢に入れるという話ですけど」
「いや、まあ犯罪者はそれでいいけど、暗殺をしたいと思ってる時の事だよ」
「物騒な話だな」
物騒だが、ミナモは同行している兵士たちが牙をむく事が分かっているからこその疑問だ。
(アイツ等こっちばかり見てるからなぁ)
兵士は森の中に居るモンスターよりもプレイヤーを警戒している。
バレない様に努力しているが、必要以上に見続けていた。
(う~ん、誘導後こいつ等は何をするのか。
私なら幾つもあるけど)
手段はいっぱいあるが、その手段を兵士達が知ってるかは別だ。
推測しているミナモの姿は活き活きしており、周りは不気味にそれを眺めていた。
ミナモはアウトセンスで向かう予測地点を調べる。
意識を前方に集中させ、モンスターとは違う気配を感じ取た。
(ん? これは、プレイヤー? ……しかも、おやぁこいつ等)
森に潜むプレイヤーの姿に見覚えがあった。
正確には彼等が着ている着衣に見覚えがあり、そのプレイヤー個人の事など一切分からない。
その着衣は白を基準とした清楚な法衣である、法衣の上に鎧を着こんでいる者も居た。一般的にプリーストやパラディンなどという聖職者の見た目だ。
(う~む、例の教団関係なのは間違いないか。
しかしなんで奴らがこんな所に?)
「着きました」
兵士の一人が呼び掛けると、シェーロ達は馬車を降りて森を見渡す。
しかし兵士たちが距離を取り、囲む様んでいた。
そんな兵士達の一角からプレイヤー達が歩いて割って入ってくる。
「来たか」
カザカリー兵長がリーダー格のシスターに目配りをした。
そのシスターは頷き、手に持った錫杖を地面に突き立て金属音を響かせる。
「あれはケーントゼッハ教団の服? しかもプレイヤーだ」
シェーロの傍に居た男性が言い当てる。
一部は知らないようで、その男性に尋ねていた。
「なんだそれ?」
「知らないのか? 知ってる奴からしたら結構有名だぞ。
ケーントゼッハに入信すればスペシャルアビリティを手に入れられるかもしれないって」
「え? 本当か? あのスペシャルアビリティーを覚えられるのか!?」
「サコンの旦那みたいにアビリティーをか……」
(スペシャルアビリティってなんだよ?)
ミナモは知らない単語の登場に即座にネットで検索して調べる。
(あった、……第四のスキル、スキルとは異なる特殊な能力?
取得条件は不明、こんなのあるんだ、へぇ、マジかぁ、……知らなかった)
特殊能力と言う存在がある事を知らなかった。
因みにミナモはスペシャルアビリティを持っていない。
「聞こえますか? 今から貴方達を封印させてもらいます」
ミナモが感心していると、リーダー格のシスターが告げた。
理解できず困惑するシェーロ達。
「えっと? どういうことですか?」
「この状況を見て分からないとは、いやはや、君達はやはり馬鹿というか、なんというか」
カザカリー兵長は呆れてため息を吐く。
シスターがクスクスと笑い、一歩前に出て答えた。
「貴方達は居てはいけないのです」
サコンが理解し、シェーロを庇う様に一歩前に出て剣を抜いた。
「黒夜の、貴方のスペシャルアビリティは厄介ですが、この人数では一分も保ちはしないでしょう」
「……貴様達は異端審問官か?」
「ふふっ」
サコンの言葉に笑みだけを返すが、それが答えであった。
(異端審問官、ケーントゼッハ教団の奴等で間違いない)
ケーントゼッハ教団の一部署、それが異端審問執行騎士団、教団が異端者と認めた者を狩る専属の部署であった。
「う、裏切ったのですか!?」
シェーロは状況を把握し困惑する。自分達が裏切られたと思いたくはないが、状況が状況だけに嫌でも認めるしかなかった。
「姫の側近とは言え、このまま和平に漕ぎ着けられては困るんですよ」
「な、何を言ってるのです! このままだと戦争になってしまうのですよ!?」
「和平になれば、かの国の言いなりになるのは私達の国だ、暴虐邪知なかの国に頭を垂れろというのですか!」
「っ!?」
ミナモに言われた事が再びシェーロ達に襲い掛かる。
「我々とて無駄にかの国と戦うのではありません! しかし姫が勝手に行動させるわけにもいかない!
貴様らが考えも無しに動けば動いたなりに事態が悪くなる! それを理解するべきだったのだよ!」
「わ、私達は……」
一生懸命していたことが、事態を悪化していた、その事実に茫然としてしまう。
「無能な働き者ほど厄介な者は無い」
そんな言葉を投げかけたのは馬車の中に居るミナモであった。
傷つく彼等には追撃になってしまうが、ミナモはそれに構う事無く言葉を続ける。
「しかしそれを止めない君達も同じだよ」
「……ふん」
カザカリー兵長は口を閉ざす。
注意していればシェーロ達は交渉にも行かなかっただろう、だがミナモはまた違う思惑があるのではないかと思っていた。
「言って止めさせれば良いだけなのに、態々手の込んだ方法で排除に動くとは、君達が主張する言葉とは違う思惑があるのだろ?
そう、例えば選定かな」
カザカリーの表情が消えた。
選定と言う言葉に意味が分からず、サコンが聞き返す。
「選定とはなんだ?」
「争いが起こるならば他国の動向というのもまた気になるだろ?
良くも悪くもここ十年、あるいは百年以上も戦争起きてはいない、小競り合いがあっても所詮小康状態だ。
この国もそろそろ次を見据える時期が来たと思ったのだろうね。
足を引っ張る兵士や存在を国には置きたいとは思わないだろ? その為の選定の第一歩がコレ」
メルシュ王国だけが事を起こそうと思っているわけではない。
動き出すのを見て次々と各国が動きだしているだ。
「ほんとプレイヤーって罪深~」
各国が戦争へと動き出したのはプレイヤーの存在があったから。
大量のプレイヤーが動いた事で全てが少しずつ動き出してしまったのだ。
「だからこそ我々ケーントゼッハ教団が救済に動くのです」
シスターが目的を口にした。
「救世主気取りかい? それとも戦争させた後に空き巣にでも動くのかい?」
「気取りではないですよ、救世主になろうというのです、だからこそ俗な事などしませんよ」
「ホムンクルスの子飼いが良く言う」
「ホムンクルスの子飼い?」
シスターは首を傾げるが、ミナモはそれに答える事は無い。
「そろそろ無駄話は止しましょうか、拘束するのも面倒なので大人しくしてもらいますよ」
兵士達が武器を構える。
シェーロ達も震えながら武器を抜き、互いに背中を向け四方を警戒する。
圧倒的な戦力差に絶望していて、諦めの色が見えていた。
「殺しはしませんよ、リスポーン地点に戻っちゃいますからね」
「どうするつもりだ」
「封印させてもらいます、入ったら二度と出れない様に」
シスターは手に乗るほどの立方体を取り出した。白い箱そのもので、これと言った特徴は無い。
その白い箱を掲げると、シェーロ達を取り囲む様に四方に柱が出現して取り囲む。
立方体の枠の外にサコンが出ようとするが、見えない壁に阻まれ抜け出す事が出来なかった。




