18
「どうしたんだい? 私は軍事力で君達をぺちぺち叩くよ、さあ、交渉してごらん?」
自分達の国とメルシュ王国との国力の差、それを比較して全員押し黙るしかなかった。
国力だけならず、軍事力などでも劣っていて、交渉できる素材は持ち合わせてはいない。
「まあ、私は君達にどんな権限があるかも分からないけど、交渉するだけの武器を用意しないと話は始まらないね」
「例えばどんな武器だ?」
それまで黙っていたサコンが尋ねる。
「そうだねぇ、この国が保有する力を知らないから明確には口にできないけど、色々と案はあるよ。
だけどそれを口にする前に、情勢がどうなっているか考えてみようか」
「情勢、ですか?
……とても安定してると思います」
「ふむ、それは間違いない。
人が、いやプレイヤーが介入した事で国が潤い、ある程度治安が良くはなっているだろう。それこそ名声を上げる為と、必要以上にプレイヤーが頑張っているからね」
「はい、それは間違いありません」
「けど武力が整えば警戒する国は増えてくる」
シェーロ達の国の様に海を挟んでも警戒する国々は増える、その増える国が武器ともなる。
「周りを利用するのか?」
「利用じゃなくて協力だよ。
基本的に交渉は回りくどく、そこで他国との連携も必要になる」
「他国と組んで脅すって事か?」
「それも一つの武器だけど、あの国は無駄に国力があるし、プレイヤーが勝手に支援するから物資的にも勝てない。
おまけに死んでも湧いて蘇るプレイヤーまで居るんだ、そんな国と真面にやり合いたいと思うかい?」
「え、いや、……無理だろ」
「無理ですよね……」
有象無象のプレイヤーが居る国に連合を組んで挑もうとは思わない。例え最初だけ均衡を保てるとしても長期的見れば疲弊して戦う力が無くなる。
「そうなると武力による交渉は無理。
抱える問題に対する解決策を引き下げて交渉に着けばいいだけさ」
「問題? 何かあるのか?」
「さあ? スパイでもいれば分かるんだろうけど、知らないよ。
自慢じゃないが、あの街に居たのは数時間二桁にも満たない、おまけに私は世間知らずさ」
「さあって、お前なぁ」
「けど無いなら作るだけ。
さっきも言ったが交渉は回りくどく、だよ」
「は? 作る? ……裏工作か?」
「陥れる様な噂などをこっそりと流せばいい、幸いちょっとしたデマを簡単に流して広まる宣伝塔はあるからね」
「プレイヤーの事か?」
「正解。一つの方法ではある。
とは言え、相手も出来る方法の一つではあるし、対策も取られる可能性がある。
裏工作もそこそこ時間が必要な上に成功する可能性が高いわけじゃない」
ミナモ達が知らないだけで、水面下では裏工作などが行われているだろう。
「私はよく分からないけど、もしかしたら緊張感が高まってたり、仲が悪いのもその裏工作が原因かもね。
特にあの国側の」
「それは、でも、そんな」
シェーロは可能性を考えると、ミナモが口にした事が正解なのではないかと思い始めていた。
「プレイヤーが増えた事で増長した、とか。
良くも悪くも国が潤っちゃったんだろうね」
ミナモが口にすればするほど、事実ではないかと思い始めていた。
「どちらにしろ血も流さず平和にすることが第一の目標だろ」
思い悩み始めた姿を見て、サコンが空気を正常に戻する為に呼び掛ける。
その言葉で目的を思い出し、今までの行いを肯定し気合を入れた。
「そうだな、俺達がやる事は変わらないな」
「そうです、私もまだ諦めてはいません」
場の空気が正常になって来た所で、ミナモは本題を尋ねた。
「んで、誰に交渉を持ちかけたの? 相手次第じゃ交渉材料も変わって来るけど」
「大臣をやっているプレイヤーさんですよ」
「大臣? 結構偉いんじゃない? というかプレイヤーが大臣って、マジで?」
「そんな事も知らないんですね」
「……まあ、うん、そうです」
何に対する大臣かは不明だが、大臣と言う役職上、国のトップにとても近しい立場。
相当な手柄を上げて貴族になり、さらに手柄を得なければ大臣にはなれないだろう。
思った以上に厄介な相手だ。
「って事は、……裏工作よりも、そのプレイヤーが興味を示す話題をぶら下げないと無理か。
言い方は悪いが、属国にでもなれと強気で言われてる様なら、どんな餌を引き下げても無理な気がするよ」
「え?」
「……え?」
ミナモの言った言葉にシェーロが固まった。
ミナモは頬を引きつらせて首を傾げて尋ねる。
「……まさか、本当に言われてないよね?」
「いえ、その、……遠回しにそんな感じに」
「骨が折れそうな事態だねぇ」
相手がNPCならばまだ可能性があったが、プレイヤーとなると話は変わってくる。
「プレイヤーだと駄目なんですか?」
「相手の性格によるけど、NPCよりも損得の取捨選択がきっちりしてるだろうからね。
例えるならばリアルでお金を貰うのと、ゲーム内でゲーム内通貨を貰うのでは感覚が違うでしょ?」
「確かに」
「裏工作にしろ、賄賂とか根回しをして多少なり味方に付いてもらう事が難しくなる。
交渉の場に着かせるような状況を作らないと。う~む、失脚を待つのが得策か……」
ミナモが考えながら舌なめずりする姿を見て、サコンが呆れていた。
「お前、楽しそうだな」
「ん? まあ、これまでにないほど楽しいよ。
こういう事考える事ができるんだから、面白いゲームだなって、今更ながら思った」
様々な場所を放浪していたミナモにとっては新鮮であった。
ただし面白そうと思っているのはミナモだけで、周りの者達は一切楽しいとは思っていない。
「ま、手詰まりなのは変わらないよ。
君達の着地点が何処なのか、私としてもこれ以上アドバイスは送れないかな」
交渉と言ってもただ願望を口にしに行った程度である、現状を甘く見ていたのはシェーロ達であった。
「けど、よく君達は相手の国と交渉できる地位に居られるね?」
はっきり言えば彼等は交渉に一切向いていない。
普通に考えれば分かる事も、意図的にその思考に陥らない様にされてるとしか思えなかった。
(こいつ等歪なんだよなぁ。
相当な地位があっても、そこに思考が付いて来てないって言うか、利用されてない?)
「それはその、一応お忍びの姫様を助けて気に入られて」
「なるほどねぇ」
理解したくない理由であった。
その場合はお忍び姫の正気を疑いたくなる。
「んで、今更だけどさ」
「なんですか?」
「この国の名前とかって何?」
「え!? それを今聞くんですか!?」
「いや、だから今更だよ、一切聞いてなかったし」
「……ピュスト帝国です」
「ふむピュスト帝国ね」
ミナモは名前をネットで調べ始めた。ご丁寧に領土がどれくらいかも情報が出てくる。
大陸の四分の一を領土とする国の様であった。
他の国とは交流があるが、一部国とは仲が悪い。
(……平凡だね、特産は綿と北東にある鉱山からの鉱石か。
後は普通、悪い土地じゃないってのは間違いないか)
平凡とは言うが、ある種安定した土地といえる。
勢力を伸ばしたいメルシュ王国にとってはその平凡な土地と言うのは魅力的であり、軍事力の観点からも程よい侵略しがいのある国だ。
(山脈に隔てられてるから、他国からも攻め込まれにくい、一度落としてしまえば防衛も楽だな)
海を防衛すれば国は守られる。ただその海もプレイヤー達の力で攻略されてしまうだろう。
(めんどくせぇ状態、どっかで出鼻をくじいてやらないと、多分ヤバイ国になる。
……まあ、増長しまくってそのヤバイ国になるってのも見てみたいけど、プレイヤーはどんな反応をするのか楽しみ)
シェーロ達にとっては望まない結果ではあるが、今のミナモはピュスト帝国に思い入れも無く、このままの状態を続けた未来を見たい。
「敵襲だ、村が魔物に襲われてる」
未来のメルシュ王国に夢を馳せていると、御者が呼び掛ける。
全員対人戦でないという事に安堵しつつ、武器を取り、村を襲うモンスターに近づくと飛び出して行った。
苦戦する様子もなく、ミナモは馬車の中で退屈そうしながら戦いが終わるのを待った。
その際にモンスターの動きがおかしい事に気が付いた。
(ん? 別々なモンスターが揃って徒党を組んでる、これおかしくね?)
群れるモンスターは居るが、基本的に同じ種類のモンスターが殆どだ。
しかし現在村を襲撃しているのは全く種の違うモンスターだ。
様子がおかしい事は他の者達も気が付いていて、不思議そうにしていた。
(しかもなんか鎧着込んだNPCも居る、……こりゃ何かあるな)
村側からは立派な鎧を身に纏った兵士達が高台から弓で攻撃を仕掛けていた。
村人にしては面構えが凛々しく、自警団にしてはあまりにも鍛え抜かれた雰囲気を纏っている。
(巡回中の兵とか? わけではないな、少し人数が多い。
演習で偶然? 偶然なんてあるのか?)
ミナモはアウトセンスの心眼を利用し、村の様子を確かめると同じような兵士が多く待機していた。
あらかじめ居合わせない限りこの人数は異常だ。
(人為的な可能性が高いのは間違いない。
モンスターを襲わせるような何かがあるのか? ……従魔も少し興奮状態だし)
馬車を引いていたカバ型の従魔は目が血走り、走り出していきそうだ。
戦闘を眺めて興奮しているわけではない、無駄にいきり立っている。
ミナモはさらに心眼で村の様子を伺い、ある家の煙突から灰色の煙がモクモクと立ち上がっているのを見つける。
家の中を覗き見れば、兵士が不思議な赤い物体を暖炉に投げ込み必死に燃やし続けている。
(面白くなってきたじゃないか)
ミナモはニヤニヤと笑みを浮かべて事が動くのをただ眺める。
戦いは終わり、ミナモ達は村の中へ踏み入る。
シェーロが入ると、数名の兵士がシェーロを出迎えた。
「シェーロ様、ご無事で何よりです」
「この事態はどういう事なのですか? 何故村にあんな魔物が? それに何故こんな兵が多く?」
「我々はこの村が襲われるという情報を掴みやってきたのです」
「襲われる、一体どこからそんな情報が?」
「それは分かりかねますが、確かな情報筋からだそうです」
全員が不信がっていたが、『味方』が言うならば間違いないと信じる事にした。
村の中央付近に向かうと、髭を蓄えた初老の兵士がやってくる。そこに居るだけで存在感があり、身に着けている装備も豪華で地位が高い人間だと一目で分かる。
「これはこれはシェーロ殿、交渉に向かわれたという話ですが、いかがでしたかな?」
素直には答えられない、シェーロは話を逸らす様に尋ね返した。
「カザカリー兵長さん、情況はどうなのですか?」
「何者かが魔物を操っているという情報です、同時に西の森で見かけたという報告が既に入っております」
(おやぁ? これはこれは、へへっ、こりゃこっちの国も一癖も二癖もありそうな展開)
ミナモはカザカリー兵長が嘘を言っている事に気が付き、その裏の事情を考え始める。
「シェーロ殿、我々にお力をお貸しください」
「分かりました、微力ながらお手伝いいたします」
何も知らないシェーロは本気で助けになりたいと申し出た。




