17
「そういや理由も聞かずについてきたけど、どういう感じなの?」
ミナモは彼等の事情を一切知らない。
シェーロは眉間に皺を寄せてサコンに視線を向ける。
「構わん、触りだけでも話してやれ」
「……私達は他国に着いたプレイヤーです。
メルテトブルク、メルシュ王国とは敵対関係にある国に所属しています」
国同士全て仲が良いわけではなかった。
ただし一般的なプレイヤーは全てメルシュ王国に組していると思っている。仲の悪い国はあまりない、というのが一般的な認識であった。
「ふーん。
あっ、つまりあの白狼なんとかは、あの国所属って事なんだ」
「……それはどうだろうな」
拒否するのは警戒をしていた男性であった。
その様子から察し、ミナモはある程度の事情を把握する。
「それはNPCもプレイヤーも一筋縄ではないという事でいいのかな?」
言葉は発することなく頷く。
NPCは己の考えや使命を準じて行動する、人と変わりないからこそ一癖も二癖もあった。
プレイヤーもまた星の数程居て、情況はミナモが想像するよりも複雑な可能性があった。
(NPCがプレイヤーを利用しているか、はたまた逆か。
どっちにしろ色々あるのは分かった)
シェーロ達は内政、政治の中に身を置いている事は確かだ。
「あっち側からしたら国賊とかそう言う感じね」
「国賊って、私達は別に……」
国賊になったつもりはない、そう言いたかったが、プレイヤー視点で見れば敵である事には変わり無い。
馬車に居た者の一部がミナモに睨みを効かせるが、ミナモは適当に笑ってあしらう。
「まあ、物は言いようだよ、ゲームなんだし気楽にやろうぜ」
ゲームだから、その言葉を口にしても、彼等は何処かその言葉が遠くから聞こえる様な錯覚に陥っていた。
遊びだからと言っても、VRという環境と高性能AIも合わさり、現実の様に重苦しい感覚を感じていた。
それ以降馬車の空気が重くなり、ミナモはその重苦しさに口を閉ざした。
(めんどくさいなぁ、……しかし、このゲームって戦争とか起きるのかな?
まあ、起こそうと思えば起こるのだろうけど)
NPCに攻撃が可能で、感情がある、きっかけがあれば戦争は起きるだろう。例えプレイヤーが絡まなくてもNPC同士が勝手に物事を進めて戦争が起きる事だってある。
(ま、適当に空気が良くなったら街に居た目的でも聞いてみるか)
ミナモは防水布で出来た壁にもたれ掛かり、その時が来るまで待つ。
しかしそれよりも前に馬車が止まり、御者が馬車内に話しかける。
「村がある」
「村? ここ等辺に無いはずだが」
地図には現在地周辺に村があるという記載は無い。
ミナモの地図にも同じく載っていない。ミナモがぽつりと呟いた。
「NPCかプレイヤーが新しく作ったんじゃないの?
どっちにしろ近づかない方が良いでしょ」
「それがそこを通らないと迂回する事になる」
周りの視線はサコンに集中していた。指示が欲しいのだ。
サコンはちらりと片目だけを開き答える。
「迂回する。
プレイヤーにしろNPCにしろ、面倒事は避けられないだろう」
「了解」
「何故ですか? 私達は別に指名手配されているわけではないですよ」
シェーロが不思議そうにするが、ミナモがそれに答えた。
「チミチミ、のほほんとした平和なファンタジーならいいけど、無駄に凝ったこのゲームで、新しい村があるというのはろくでもない事態だよ」
「どういう事です?」
「NPCならまず盗賊、プレイヤーでもそれらの拠点になってる可能性が高い」
「プレイヤーなら分かりますけど、NPCの盗賊?
それに領地を貰って開拓ということだってあると思いますけど」
「例えばだね、国に納める年貢という物に耐えられなくなって、盗賊に身を落とすなんてのが普通にあるんだ。
もしくは何処かから逃げ延びて来た盗賊達とかね。
その証拠に真面に栽培とかしている様子も無いし、周りの土地が荒れている、防御壁も村にしてはあまりにも簡素」
人里離れた馬車の車輪の跡すらない道無き森の中、家々は簡素な出来、家の周りは荒れ手入れが殆どされていない。
そこに住むには聊か不便であり、隠れ住むには持って来いな怪し場所だ。
「そ、そんな事があるんですか……」
「とは言え、目視できる範囲に馬車が入ってしまった、そう簡単にここ等辺から抜け出せるかな」
「え?」
「村の人達だって警戒はしているだろう、何故ならここは獣がうろつく人里離れた場所、生活だって大変だ、そこに馬車が来るなんて只事じゃないからね。
もしかしたら生きて返さないと追って来るかもね」
話を聞いていた者が警戒をして、各自外を眺め始めた。
サコンは両目を閉じてはいるが、村があると聞いた時から警戒していて、常に周囲の気配を読んでいる様であった。
迂回して横にそれていくが、その途中サコンが両目を開いて剣を手に呼び掛ける。
「来るぞ、相手はきっとNPCだ、本気で相手にしないとこちらがやられる」
サコンの声に半数が驚き、慌てて武器を手にし震える。
馬車の速度が上がっていき、道なき道であるが速度を上げていく。
馬車には魔法が掛かっており、揺れなどは殆ど無いが、この時ばかりは揺れの軽減が間に合わず全員が手すりにしがみついていた。
風きり音がすると、馬車の一部に矢が突き刺さる。
「きゃっ!?」
「魔法で防げ!」
慌てて魔法の障壁を使う、半透明な壁が馬車を包み込んだ。
「出来るだけ戦いやすい所へ、もしくは森から出たら戦う」
「無茶ですよ! 相手はNPCなんでしょ!? 練度が違います!」
サコンとそれ以外の声は真逆だ。冷めた様な声のサコンの声がとても異質に聞こえる。
「NPCって、最悪だ、まさかこんな所で……」
NPCという言葉に、臆病風が吹いたように、最大限の警戒をしていた。
ミナモは何故そこまでNPCに怖がっているのか不思議であった。
「そんな怖がる事? 所詮NPCでしょ?」
「NPCは強いんです! その位の常識をちゃんと理解してください!」
シェーロが泣きそうになりながら叫ぶが、ミナモはやはり理解できず首を傾げる。
「そんな強いの? NPCだよNPC、有象無象だよ」
「一般NPCは弱いかもしれないけど、盗賊とか街に居る兵士とかのNPCは段違いな強さなんです! 動画とか見た事ないんですか!?」
「ないよ」
即答するミナモに呆れて、無駄に冷静になってしまう。
「このゲームのNPCを舐めない方が良い、普通のゲームとは違う、プレイヤーなんて軽くあしらわれるぞ」
NPCはただの脇役ではない、強さはプレイヤー以上の実力がある、装備を固めても実力で押し切られる事が殆どだ。
「はいはい、それよりも弓とかないの? 応戦して少しでも削って行いと大変だよ」
ミナモは馬車に当たった矢を抜き取り、手を出して弓を求める。
「……弱いのしか無いぞ」
サコンは道具欄から弓と矢筒を取り出してミナモに手渡す、ミナモは矢筒を床に置き、矢を番えてふり絞り狙いを定める。
「この揺れでは当たらないだろ」
「それはゲーマーの見せ所よ」
弾道を予測し、ミナモは矢を放った。
狙い通りの個所に飛んで行くが、NPCは矢が見えている様で、体を逸らして矢を回避した。
馬にのり段々と馬車との距離を詰めていく。
「ふむ」
「外れただろ、しかし狙いは良かった」
「ならこれで行こう」
矢を二本番い、狙いを定めて放つと同時に、即座にもう一本放った。
普通ならば二本目は真面に狙えるほどの精度は無いが、逆方向に回避した相手の眉間に矢が命中し絶命した。
「……よく打ち抜けたな」
「魔力を籠めれば威力が上がって打ち抜けるからね」
「魔力? MPの事ですか?」
「そっ、まあスキルなしに発動させるアーツみたいなもんだよ」
スキルなしにアーツを発動させることは難しいが、出来ないわけではない。デメリットはスキルセットをしたときよりもMPが軽減なく注がれてしまう事だ。
(コイツ、腕は良い……)
素直に認めたくはないが、三本の矢で相手を打ち倒す実力は本物だ。素直にミナモに称賛を送る。
「お前は不遇な弓を上手に使えるんだな、凄いぜ」
「不遇ねぇ……」
このゲームで弓は不遇だ。
無駄にリアルを求めてしまったばかりに、自動的に誘導しない矢は技量で当てるしかない。
一応オート戦闘時、素晴らしい精度で矢を放ってくれるが、あくまで目の前にいる相手のみであった。先ほどミナモがした芸当は出来ない。
「さて、一先ずやれるだけやっておこうかね」
一人仕留めただけではない、ミナモは次の攻撃を仕掛ける。
途中から自分の魔力で作り出した矢を使い、自在に矢を放つ事で相手を撃退し始め、森を抜ける前に追跡者たちの撃退に成功した。
「マジかよ、退けちまったのか、……すげぇ腕だな」
「ふふんっ、もっと褒めて崇めると良い、フハハハハッ」
胸を張るミナモだが、謙虚さが感じられず、全員が褒める気が無くなり、若干引いていた。
「あれれ? 称賛の声が聞こえ無いなぁ、もっと褒めないと誤射しちゃうかもなぁ」
「よ、よくやったぞ」
脅すような言葉を聞いてぎこちなく褒め始め、ミナモはそれを聞いて満足するのであった。
そんなやり取りをしながら、海岸線沿いにある断崖絶壁に辿り着く。
崖の近くには船が停泊しており、丁度船に渡れるように橋がかけられている。
馬車はその橋を渡り、船に乗り込むと、橋が勝手に折り畳まれ陸と別たれる。
その船はシェーロ達の所属する国の物で、NPCとプレイヤーが乗り合わせていた。
(へぇ、港以外だとこんな便利な魔法、いや魔道具で陸に上がれるのか。
にしても、正攻法でこの大陸に上がってるわけじゃないみたいだなぁ、本当に何を目的にあの街に居たのか)
シェーロもサコンも船内に入って行ってしまい、話をする事が出来なかった。
「ねえねえ、なんであの子達あの街に行ったの?」
適当に馬車に乗っていた男性に尋ねた。
「戦争を回避する為だろ」
「そうなんだ」
ミナモが知りたいのは、誰に会ってどんな会話をしたのかという事だ。
しかししつこく尋ねれば、怪しまれる危険がある。尋ねるのはこれ以上控える。
大人しく目的地に辿り着くのをただ待つ事にした。
そして別な大陸に辿り着き、港から再び馬車で移動を始める。
「やっと勝手知ったる土地か、後は楽に拠点まで帰れるな」
「つ、次こそはしっかりと交渉してみせます、絶対に、絶対に……」
シェーロは自責の念に駆られて答える。
思いつめた様子に首を傾げたが、その理由をすぐに察し慌ててフォローする。
「べ、別に攻めてるわけじゃねぇ、そもそも交渉が上手く行かないってのは仕方ないだろ、アイツ等はアイツ等で何も知らないんだからよ」
(交渉、直接乗り込んで直談判でもしたのかな?)
出会った時の様子から、交渉が決裂した事は火を見るよりも明らかであった。
ミナモは今が尋ねる時と判断した。
「相手が誰かは分からないけど、どんな交渉をしたんだい?」
「互いの国の平和のために話し合いをしました。
平和なのが一番なのですが、……反応は芳しくなかったです」
「その交渉に対する対価は?」
「え? 対価?」
シェーロは対価と言われても理解できず首を傾げる。
周りの者も、何故平和のために対価が必要なのか、疑問に感じている様であった。
「交渉の基本は対価と駆け引きだよ」
「商売じゃないんだぞ、国と国同士の話だぞ」
「いんや、結局は同じだよ、品物は物資に、信頼を国力で、資金を軍事力で示す。
さあ、私と交渉をしてみないかい?」
不敵な笑みを浮かべてシェーロと向かい合う。
着ている着衣がしっかりとしていれば、風格があり誰もが背筋を正していたであろう。
全員がそれに対して何か言おうとするが、言葉が出る事は無かった。




