15
目的地のセレンへとたどり着き、倉庫の立ち並ぶ地区へとやって来る。
初心者達に交じり、護衛達が謝罪と言わんばかりに、荷物の運び方を手伝っていた。
「凄かったっすね」
ミナモは来る時同様、倉庫にある壁にもたれかかり、搬入作業を眺めていると、そこにアイゾーがやって来る。
「やらんの?」
「サボりっす」
アイゾーが横に腰を下ろし、同じように作業を眺め始めた。
「ねえ」
「なんっすか?」
「レベルの偽装とか見た目も変えれたりするのってどうやるの?」
アイゾーの表情が凍り付いた。
少しの無言の後、ぎこちなく笑みを浮かべ。
「バレてましたか」
言葉の語尾に「っす」を付けることなく、丁寧な口調に変る。
「何処で気が付きましたか?」
「馬車に乗って時俯いて口をパクパクしてた時」
出発時に顔を隠すように俯き、一言二言口をパクパクと動かすのを確認した。
内容は分からないが、その時誰かとフレンドチャットで会話していることに気が付き、何食わぬ顔をしていたのが決めてであった。
「……随分前ですね」
「あの後盗賊も来たし、それに、えっと、男の子を止めた時に力が強かったからね。
答え合わせは必要なかったよ」
「私もまだまだっすねぇ」
顔を両手で覆い、コシコシとこすり付けてため息一つ吐く。その表情は崩れ疲れた様子だ。
「偽装も変装も教えてあげられないっすよ」
「じゃあいいや、探すのもゲームの醍醐味だし」
「……私を倒さないんですか?」
「ぶっちゃけ、三日前まで宇宙海賊として、ヒャッハーとかやってた身だし、危害が無いから別に倒す必要もないし。
恨みがあるとするならば、レベルが上っちゃった事くらいかな」
「とんでもない理由で生かされてるっす、しかもどんな恨みっすか。
はぁ、本当に、後輩クランの成長を促すはずが、まさか自分達の不甲斐なさを見詰め直す事になるとは」
「ご苦労様です」
元凶に言われて恨めそうに視線を送るが意ともしなかった。
「……あのクランメンバーが騒いでるっす」
「なんて?」
「何をされたのか分からないまま、煽られて死んで悔しいそうです。
うんさん、なんとかって言ってますけど、どういう事ですか?」
「塵散手雲散霧消之太刀、違うゲームのスキルなんだけどね」
「そんなスキルがあるんですね、いえ、アーツですか」
「それが何故か登録できちゃったんだよ。
著作権って大丈夫なのかな?」
「あー、それ、多分運営が色々事前に許可取ってると思うっすよ」
「ええ?」
「あまり信じてもらえないんですけど、前に別なゲームでのスキルを真似したら、アーツとして登録された時があったんですよね。
運営に連絡したら、事前に許可が取れたと連絡が来たんです」
「あー、なるほど、ふむ、そういう事か、なるほどなぁ」
ヴァルアクの件もそうなのだが、どうやら様々なゲームが関係していそうだ。
いくらなんでも手広く許可を取っていることに疑問を感じるが、それよりもある疑問が浮かんでくる。
「なんでその話が広まってないんだろ?
リアフレが知らないみたいだったけど」
「広まらないんですよ。
昔のゲームで映像が残ってなかったり、同じ名前の技だったり、そういうのがあったって言っても信じてもらえず。
似てるだけとか、『よくある』で済まされてしまうんっすよねぇ」
「そうなるかぁ」
数多のゲームがあるということは、ネタなどが被るということでもある。
業界内部でも暗黙のルールとしていて、一定のラインを越えなければ咎めることはない。
「ところで、先程納得していましたけど、何がどういう意味なんですか?」
「他ゲームの要素があっただけ。
それ以上の情報は内緒」
唇に手を当てる仕草を見て、これ以上の情報を得られないと察し、別な事を尋ねる。
「駄目元で、もう一ついいですか?」
「ん?」
「先ほどのチリヂリテウンサンムショウノタチというのは、どうやって使ったんですか?」
「どうって、普通に」
「言葉を言えば発動する?」
「いいや。
言葉を言うのはセットアップなだけだよ、自分にこの技を使うから心の準備をしろって命令するの、深呼吸みたいなものだね」
「変わった方法ですね、後は?」
「後は力技、高速で駆け抜けて、相手を塵になるまで斬りつけるだけ。
バフを付けると限界行動範囲が増えるから、以外とやれるもんだ」
「はい?」
冗談を言っているのか理解できず、同時に頭が理解するのを拒む。
聞いてしまえば後戻りできない、そんな気がしてならなかった。だが好奇心はその深淵を覗けと訴えかけている。
「あ、あの」
「おい」
そんな時、セブラがやってきて、アイゾーの腕を掴んだ。
「サボるな」
「ちょ、ちょっと待ってほしいっす。
し、知りたいっす」
「ならサボるな、後で聞け」
「強くなる方法っす」
強くなる、それを聞くとセブラも黙ってはいられず、ミナモに視線を向けた。
自分の腕を一瞬にして断つ、その恨みはあるが、強さだけは知りたく、無言で訴えかける。
「……アウトセンス、それを調べて自分たちで頑張れ、としか言えんよ」
その答えに応じ、2人の背中を見送る。
ミナモは吹き抜ける風と共に、ふらりと倉庫群から去っていった。
☆☆
街の中を歩き、そっと裏路地に入る。
そこで壁に寄りかかり待っていると、後ろからやって来た人物に声をかけられた。
「やあ」
「どうも」
ミナモに平然と話しかけてくる男性のエルフ、その男性は近くの壁にもたれ掛かり親し気に話を始めた。
胡散臭そうな細眼、おまけにスーツまで来ていて、周りの雰囲気からは浮いている。
「どうだい? 面白いゲームだろ?」
「面白いかなぁ?」
「そうだろうそうだろう、なんとも言えない微妙な感覚だろう」
「そうっすね」
対してミナモは少しだけ警戒を露にして、距離感を保つ。
相手が何者か分からない状態で親しげにも話せない。
何より警戒する理由が一つだけあった。
「けどそれよりも」
「なんだい?」
「ストーカーはどうかと、途中から離れた位置で見てたでしょ?」
「うん、すまないね。
その事については謝るよ」
彼は途中からじっと馬車の方を眺めていた。
2キロほど離れた森の中を、じっと馬車だけを見詰めていたのだ。
つまり彼はアウトセンスを使うプレイヤーであった。
「けど君もこのゲームを体験して分かっただろう? 人気なのは分かるが、なってない」
なってない、その言葉の理由をミナモは理解していた。
色んな物に捕らわれている、その事を指しているのではないかと推測する。
「……別に良いじゃないですか、その人が自由に遊ぶ為のものなんですから」
「うむ、その通り。
しかしそれは私達も同じではないか?」
「まあ、そうっすね」
楽しむ権利は誰にでもある。
それはミナモも同じで、そして目の前の男もまた同じであった。
「私は退屈だった、右を見ても左を見てもアウトセンスを使えない者ばかり」
「昔クソゲ対戦がありましたよ、サ終しましたけど」
「無論私もやっていたよ」
「何位っすか?」
「これでも一桁だったんだ」
「マジっすか、私はそこまで到達できなかったっすよ。
今やりません?」
「嗚呼、それも楽しいだろうね」
かつての事を思い出し、男も乗る気であったのだが。
「けど駄目だ、ここじゃ被害が多いし、なによりもっと面白い事がある」
彼は首を振って、そして不敵に微笑む。
ミナモはその面白い事に興味が出てきて、やっと首を男の方へと向けた。
「なんっすか?」
「まあ、その話をする前に、ちょっとした意識調査と愚痴を吐かせてほしい」
「はぁ、まあ、どうぞ」
「私はね、このゲームに色々と潰されたんだ、やっと見つけた癒しを」
表情は固く何を思っているのかミナモには分からない。
しかしこのゲームが存在している事で、他のゲームが衰えている事は確かだ。
「それは、災難っすね」
「君もまた同じだろ? この時期だと、あのスペコンからじゃないか? しかも無敗で暴れ回ってた人だろ?」
「……ストーカー?」
「違う違う。
普通に考えれば分かる事だよ」
ミナモの装備は一部が初心者用、開始間もない事は間違いなく、サービスが終わった最近のゲームは一件しかない。そこに腕のいい者となると限られてくる。
「私もあのゲームをやってみたが、どうも体を動かす様に操作が出来なくてね、君に成すすべなくボコボコにされてしまった」
「馴れないと難しいですからね」
過去を思い出すが、そこまで上手い人がいなかった。男性と相対した時を絶対に思い出す事はないだろう。
「話を戻すが、私はあの癒しを求めてやっていたのだが、……このゲームに顧客を奪われ、過疎で散って行ってしまった。
確かにこちらのテイマーも魅力だが、あのゲームにしかない癒しがあったんだ」
悔しそうに、同時に哀愁が何処か漂っていた。
「これからもまた同じ様に潰されていく」
「まさか、俺がやられて嫌だったから、お前にもその悲しみを味合わせる系っすか?」
彼から感じる雰囲気は恨みに近いものだ。
しかし彼は首を振った。
「それもあるかもしれない。
だからこそ、乗らないか?」
「何に?」
「このゲームの革命だよ、救うための、そして終わらせる為の革命」
胡散臭いこの上ない誘いであった。




