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ひねくれ少女ネトゲに入り浸る~強いってだけじゃ駄目なんですか?~  作者: せいゆ


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 時間はエルニカが飛び出していった後に戻る。


『面倒だからお断る。

 エルニカさんがすればいいよ』


 とミナモは言えるわけも無く、エルニカが戦火へ足を踏み入れるのを見守るしかなかった。

 取り残された馬車内部の人達は、途方に暮れ事の次第を見守るしかない。


「俺も行くぞ」


 そんな中セブラが話を理解していないのか立ち上り、馬車を降りようとする。


「駄目っすよ、ちゃんと待ってないと」


 男子に一切話しかけていなかったアイゾー呼び止める。

 それでも言う事を聞かなず、アイゾーが腕を掴み引っ張り無理矢理に座らせる。


「駄目っす」


「クッ、なんで女連中はそんな力が……」


 抵抗したつもりでも、アイゾーの腕力には勝てず、悔しがりながら床に拳を叩きつけた。


「弱いなら弱いなりの事をするっす」


「なんだよ、俺が弱いってのかよッ!」


「言われた通り待っす、それで十分っす。

 状況も理解できないから弱いっす、血気盛んな人は迷惑なだけっす」


「雑魚雑魚ざ~こ」


 煽る様にミナモが言うと、キッとセブラが睨みつける。


「ミ、ミナモちゃん、煽るなっす」


「けどお兄さん雑魚だし~、煽ってないとあたしを見ないしー、飛び出して無駄死にしちゃうよ~」


「きゅ、急にキャラが変わった」


「なんというメスガキ力っす……」


「このッ」


 腹を立てたセブラが拳を振り上げるが、その拳がミナモを襲う事は無かった。


「……は?」


「お兄ちゃん腕無いよー、かわいそー」


「え?」


 全員が目を見開き驚愕する、そこには先程まであったはずのセブラの両腕が消え去り、いつの間にか地面に転がっていた。

 そしてミナモが「どっこいしょ」と立ち上がり、運転席側から躍り出て、震えるNPCの肩を叩いた。


「武器無い? 武器なら何でもいいよ」


「な、なにをした、……っすか?」


「殲滅の方が早い」


「え?」


「特に強い人も居ない、殲滅に10分もかからないよ」


 馬車の隅に立てかけていた一振りの剣、それを差しだした。

 ミナモは受け取り腰に取り付け、鞘の角度を横になる様に微調整し始める。


「うん、剣、懐かしい。大きさが足りないけど、十分良い。

 やはり武器はこうでなくちゃいけない、いつの間にか封印されてたコレとは違う」


 剣の柄に手を置き、神器に視線を一瞬向けた。

 神器は何の変化も無くただ腕に身についていた。


「ま、待ちなさい」


 制止を無視し、馬車から飛び出て一歩踏み出す。するとミナモ目掛けて矢が飛んでくる。

 一瞬の金属音。


「ひっ」


 矢がクルクルと回転しながら、NPCの隣に刺さった。


「弱い者の虐めの始まりだ」


「ミ、ミナモちゃん?」


 何が起きたのか理解できない、混乱する中アイゾーだけが矢がミナモを捕らえていた事だけを理解した。


 ☆


 射手は困惑した、間違いなく仮面をかぶった少女を狙い撃ちしたはずであった。

 しかし矢が外れ、ミナモは前線へと歩みを向けている。


「あ、あれ?」


 自分の役割は牽制と新しく現れる敵に対しての攻撃だ。

 その役割を果たす為にもう一度矢を番い弓を絞り狙いを定める。


「こ、今後こそ」


 解き放った矢は吸い込まれる様にミナモに向かって行くが、やはりその矢は届く事は無くその横にころりと転がる。


「え? ええ?」


 理解が追い付かず、手が止まる。

 何か悪い夢でも見ているのではないだろうか。

 ミナモがてくてくと歩き、その前方から来た盗賊が消え去る。

 ミナモは左手に持っていた剣をいつの間にか振り払っており、クルクルと恰好を付けて回していた。


「……回線落ち?」


 それは刹那の出来事。

 襲い掛かった盗賊は、一振りで横薙ぎに吹き飛び森の中を転がっている。


「ああ、これは夢だ」


 夢だから人が消える、夢だから少女が手を振りこちらを見る、夢だから幽霊の様に瞬間移動してはどんどんと近寄って来る。

 夢だから――。


(あ、空が綺麗)


 体の半分が吹き飛び、視界は空しか映らない。


(なんと言う悪夢なんだろ。

 もしこれが夢じゃないなら、……俺は最初からゲームを始めよう、もう盗賊なんてしたくない)


 上司から散々言われ、何が面白いのか理解できなくなっていた。

 だから足を洗い、真っ当に泥を啜ってでも生きる、そう思いながら目を閉じた。


「う~ん、HPが削れる、移動距離じゃなくて、完全に力加減だなぁ」


 ミナモはアウトセンス状態の時、どれだけ体力が削れるのかを試していた。

 短距離での移動での削れ具合、力を抜いての移動具合、それらを確認しながら目についた相手を屠る。


(しかし、レベルががっつりと上がるな、モンスター狩るよりも断然お得だ、PKの効率がいいのか)


 癖になってしまいそうなほど大量に経験値が入る。

 経験値が多く入るのには仕掛けがあった。


「ねえ、いっぱい経験値入るんだけど、理由知らない?」


「え? 貴方誰かしら?」


 後輩達の様子を見に来た盗賊達の上司である、角の生えた女口調の男性、ハイナリーが首を傾げた。


「私は弱い者虐めウーマン、よろぴこ。

 それよりもどうしてプレイヤー倒した時一杯経験値入るの?」


 それがハイナリーの求めていた答えであった。間違いなく目の前の少女が後輩を倒したのだ。

 ハイナリーは腰に下げていた金槌二本を両手に構え、笑顔を向けた。


「それはね、レベルが低い相手が高い相手を倒した時に異常なほど入るからよ」


「へぇ、じゃあ接待で楽々上がるね」


「それがそうでもないのよ。

 システムが互いに本気でぶつかったと判断した時だけ、その経験値が入るの」


「本気、ねぇ」


 一方的な攻撃に本気も何もない。

 ミナモも本気で動いたわけでもない為、システムが本当かどうか疑わしい。


「けど不可解よね」


「不可解?」


「情報じゃレベル20前後の人しか居ないって話だったのに、何処に居たのかしら?」


「私レベル23だったよ。

 今は28だけど」


「嘘を言っちゃいけないわ。

 貴方潜んでいたのね、レベル偽証を使える人ってそんなにいないと思ったのに、今後はもっと調べないといけないわね」


「へぇ、偽装できるんだ、……なるほどなぁ」


 互いに一歩踏み出し、攻撃を仕掛ける。

 ミナモは体力を減らない様にギリギリの力で剣を振るう。


「あっ」


 互いに獲物をぶつけ合うが、ハンマーの頭部に当たった剣がけたたましい音を立て折れ、刃が吹き飛んで行く。


「武器は大事にしなくちゃ駄目よ、悲しがっているわよきっと」


 ハイナリーがもう片方の手に持ったハンマーで殴り掛かるが、ミナモは紙のようにゆらりと回避し距離を離す。


「あー、借り物なのに、弁償しないと駄目なのかな」


「借り物? だから武器からは何も伝わってこないのね」


「伝わる? いみふ」


 ミナモは剣を投げ捨て、安売りしていた頼りない戦斧を構えた。


「武器は人を選ぶ、そしてしっかりと作り込まれた武器には意志が宿る。

 私は鍛冶師、だから武器の心が分かるのよ」


「心ねぇ」


 神器の心を読む事は出来ない。

 視線が外れたことで隙が生れたと思ったハイナリーは距離を一気に詰めて、ハンマーを叩き込む。

 しかし戦斧の剣の腹で受け止められ攻撃が当たる事は無かった。


「ふんっ」


 受け止められたが、押し切ればダメージは通る。

 ミナモは抵抗せず、体を浮かせると、相手の力に任せてそのまま後方へと飛んで行った。


「やっぱり紙の様ね」


 ハイナリーはさらに追撃を入れる為に近づき攻撃を仕掛けるが、突然衝撃が走り、横薙ぎに倒され地面を転がった。

 即座に身を起こし、体力を確認するが、体力は一割も減ってはいなかった。


「な、何が起きたのかしら?」


「武器が人を選ぶ?」


 ミナモは不気味にカクっと首を横に傾ける、その仕草が人には見えない。だからこそ攻撃を躊躇いハイナリーは警戒した。


「違う、違うよ」


 そして逆撫でする一言を言い放った。


「人が武器を選ぶんだ、武器が人を選ぶんじゃない、人間が武器を『選んで使う』んだ。

 道具は使う、人が使われる事はない」


「……それは長く武器職人をしている私への宣戦布告かしら?」


 ミナモは別にハイナリーに言ったわけではない、使い物にならない神器に対する嫌味である。だが実際にミナモが思っている事でもあった。


「これでいいか」


 ミナモは近くに突き刺さっていた、エルニカの刀を手に取り、戦斧を放り投げる。

 刀はミナモの身長よりも長く、背丈の問題で扱い難い長さだ。


「意志があると言うならば、よく見ておけ『ゴミ』、使い手が使えない武器に存在価値はない」


 それは封印された神器に向けた言葉、しかしハイナリーはまるで自分に向けられたかのように思い激怒した。


「ふざけないで……、これから先貴方が使う武器は悲しむわッ! こんな人間に使われたくないって!

 訂正なさい!! その子(戦斧)に謝りなさい!」


 力を籠め、戦気を開放する。

 ハイナリーの周囲には赤いオーラが全身を覆っていた。

 ビリビリと伝わる波動に少し離れた場所に居た盗賊達は凍り付き、固唾をのみ込み戦慄しながら眺める事しかできない。

 そんな中ミナモはとてもつまらなそうにしながら、そっぽ向き。


「塵散手、雲散霧消之太刀……」


 ハイナリーはミナモの姿が倒れるような錯覚を見る、そして次の瞬間小さく砂埃を舞い上げ消えた。


「動くな、死にたくなければな」


 その声はハイナリーの背後から聞こえてくる。

 相手にしていたはずの声が後ろからする、言葉の意味とは真逆に体は勝手に動き出し。


「――――」


 ハイナリーの上半身が崩れた。

 文字通りばらばらと塵となって体が崩れていく、立ち上る血飛沫は霧となり天へと上り、振り返る頃にはその姿が消え失せていた。


「嗚呼、刃こぼれしている、切れ味は良くてもこれだから刀は脆くて嫌いだ」


 いつの間にか宙を舞っていた鞘に刀を納め。再び腰へと戻す。

 そして周囲に居る盗賊を眺め、その姿を消失させ、虐殺が始まった。


 ☆☆


 倒れ伏すエルニカを助ける為に、折れた剣を投げつけシルフレッドの攻撃を止める。

 目の前を通り過ぎる剣で警戒をしていたが、ミナモの姿を見つける事はできなかった。

 その隙を見てミナモは、ログアウト中に調べたエルニカの情報から言葉を選んで投げかける。


「何時まで悲劇のヒロインをしてるんですか?」


 その言葉が自分にも返り、大ダメージを受ける。


「ぐふっ」


 自分で言って悲しくなる言葉だ。

 何時までも過去を引っ張りいじけているのは自分なのだから。そして投げかけられたい言葉でもあった。

 エルニカは立ち上がり、無意識にアウトセンスの領域に踏み入れ攻撃を仕掛けていく。

 その光景にミナモは感慨深いものを感じていた。


「何時まで悲劇のヒロインしてんのかねぇ。

 ……この期に私も立ち上らないとな、本当に」


 パンパンっと自分の頬を叩き気合を入れる。

 共倒れしたのを見届けてから、ミナモは馬車へと戻った。


「やあやあ、皆言いつけを守れるいい子だったみたいだね、偉いぞー」


 出迎えたのは目を白黒している面々で、ミナモは馬車に乗り込み、壊れた剣を取り出す。

 回収した壊れた剣をNPCに渡し、謝った。


「すまん、なまくら刀が折れた、けど盗賊居なくなったから許してね」


 言葉には棘があり、粗悪品だったことを遠回しに責め立てる。

 しかしそこそこ普通な性能の剣であり、相手のハンマーが異常な強さだっただけで、商人が悪いわけじゃない。


「え? あ、はい……」


 再び馬車から降り、この場に居る全プレイヤーとNPCに向けて言い放った。


「さあさっさと移動するよー、少しでも街に近づくようにしておかないとね。

 ほら移動だ移動ー、ゆっくりしている暇はないぞー!」


 急かすと、慌てて準備を始め、5分後にはこの場を離れる事になった。

 ミナモは馬車の屋根に乗り不満そうにしながら周囲を警戒し、下では何が起きたのか尋ねたいプレイヤー達が悶々としていた。


 三時間後、早馬となる、四枚羽の大きな鷹に乗るエルニカの姿がそこにはあった。


「お、はえ。

 盗賊は諦めたのかな?」


 ミナモは手を振り迎え、さらに10分後に、グリフォンに乗った一部の護衛達が戻って来る。

 何も物を奪われていない事を不思議に思っていたが、深く追求する事は無かった。

 エルニカは無言で訝しんでは何も言えず、ミナモの隣で座り込んでいた。


「あ、そうだ、これ返すね、めっちゃ刃こぼれしちゃったよ、ごめんね」


 手渡された刀を見て少し驚く。


「……レベル凄く上がってるわね」


「なんか武器職人の人が高レベルのプレイヤーを倒すとがっつり上がるって教えてくれた。

 はぁ、一気にレベル上がると、そこまでの楽しみというか醍醐味が吹き飛ぶんだよね、知識も得られぬままになっちゃうし」


 現在のレベルは58と、二倍以上の数値となっていた。

 プレイ開始三日目でそのレベルは異例であり、実際目にした者ならば異常を疑うほどだ。

 エルニカは何からツッコミを入れればいいのか、その事で頭を抱えるが、まず初めに。


「ミナモちゃん、ありがとうね」


「さあ、何のことですかね」


「私、立ち上れたわ」


「自分で立ち上がったんだから、礼なんていらないよ。

 まあ、おめでとう」


「ありがとう……」


 問題を口にする気が失せてしまい、エルニカも寝ころび空を見上げる。

 日が昇り朝日が空を輝かせた。

 今この時だけは、黄昏ていたい気持ちが強かった。


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