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「それで、作戦はこのままでいくの?」
「当たり前だ、お膳立てをここまでして異常は無いんだ」
「少数精鋭で襲って時間稼ぎ、次はそこそこの背引力で警戒心を煽る」
「それで攻略できるならそこまでだ」
周りに居る子分達に改めて説明する様に話す。
この作戦で精神が疲弊するならば効果覿面だ、そして後は勿論――。
「奴等を叩け」
指示を送れば隠れていた盗賊たちが飛び出す。
「敵を発見……、数が、多い!」
「クッ、しかし見つけたのは幸いだ、本体に迂回する様に伝えてくれ!」
「了解」
「少しでも道連れにさせるぞ!」
先遣隊、その部隊の壊滅が第一の目標であった。
本体よりも戦力は劣る先遣隊に勝ち目はない、あっという間に殲滅され、残ったのは盗賊たちのみだ。
「……あの、これで本当に良いんですか?」
今壊滅させた先遣隊が消えていくのを見送るが、このままで目標の商隊を殲滅ができるのか不安で仕方が無い。
「普通ならこれで順路変更するはずですよ?」
「んなの当たり前だろ、普通ならする、護衛についたなら俺だってする」
「じゃあ何故?」
「丁度いい場所に追い込むからだ、奴らの現在地と進行ルートを確認して自分の頭で考えておけ」
教えてくれない事が腹立たしいが、このまま待っていても教えてはくれない、仕方なく地図を片手にルートを確認する。
(この位置から、今居るルートを封鎖、……あれ? この場所って)
隊商のルートは現在彼等盗賊たちが封鎖している場所を除けば一つしかない、そしてそのルートの進行方向には森があるだけであった。
(森があるだけだ、ならここも森だし隠れて待った方が良い様な? 先遣隊潰す意味はあったのか?)
今居る場所も森と言えば森なのだが、さほど大きくなく林程度。
(隠れる場所だってある、けど他に何かあるのか?)
考えども答えは出ず、しかし白フードの言葉が頭を過る、『進行ルートを確認して――』その言葉を元に道を辿っていくと。
(何処にもう回路が無い。
そういえばこの通りのルートって分かれ道二つのみだ、山間だから横に逸れるのも難しい……)
現在の場所は手前に小道を含めても二つの道しかない。
(ひょっとして、森自体が目的じゃなくて、誘い込む事が目的なのか? なら別にそこじゃなくても……、いや待ち構えるには小道が多い)
何処で待機しようとも待ち構えるには不十分であり、別な道に逃げられる可能性があった。
(けど先遣隊に隠れて何もしなければ、後で通るんだからそこを待ってれば良いだけじゃないのか?)
先遣隊に見つからなければ、この場所に本隊が通る、そこを襲えばいい。
彼が行きついた答えはそこまでであった。
「なにちんたらしてんだ、バケットに乗り込め!」
「は、はい!」
グリフォンという大鷲型のモンスターが複数待機しており、気球に取り付けるようなバケットがグリフォンに取り付けられていた。
一緒のバケットに乗り込むと、恐る恐る作戦について尋ねる。
「あ、あの」
「なんだ?」
「追い込むというのだけしか分からなくて……、先遣隊を見送ってここに来たのを討つってだけじゃダメなんですか? 罠とかも設置できる時間がありますし」
「あのさ、俺はちゃんと『確実に』成功って言ったよな」
「え? あ、は、はい」
そこまで言った言葉を覚えていないが、成功させようという意思だけは分かる。
「じゃあお前の言う様に隠れてたとして、絶対に見つからない保証ってあるのか? もし見つかったらどうするんだ? 罠の準備期間すら無駄になったらどうする?」
「え、いや……、け、けど」
「けどじゃねぇよ」
確実に事を行う、ならば少しでもリスクとなる事を排除しなければならない、それが今回先遣隊を討った目的の一つであった。
「街からほど遠い場所で、横道に逃げれないってのは利点なんだよ」
再びやられた場所に戻って来るには時間を要する、何処で討つか街との距離も計算の内である。
「じゃ、じゃあ、もしも引き返していったらどうなるんですか?」
作戦の理由や正しさも頭ではわかっているのだが、思いついた欠点を苛立ちと共にぶつけた。
「奴らは時間制限もある、失敗も許されねぇ、なら進むしかないよなぁ」
「……何度も襲っていたのって」
断続的に襲っていた理由は時間稼ぎだ。相手の戦力を把握しつつ、ジワリと時間を浪費させていく。警戒させればさせるほど足は遅くなり、より時間を浪費していくのだ。
時間制限は盗賊側には無い、しかし相手側には指定した時間内までという制限がある。焦ればそれだけ行動の判断が鈍り隙が生れ、より盗賊側にとっては有利に動く。
(なんて回りくどい、いや、なんてクランなんだこいつら……)
白フードの事は心情的に認めたくはない、しかし必死に否定していても心の奥底では認めてしまっていた。
「脇道に逸れていった場合、その場所での考えもあったんですか?」
「当たり前だろ、今度こそ自分で地図と睨めっこして似たようなところが無いか探してみろ」
とても悔しいが感服である。今後自分は嫌な顔をしながらでも彼の命令には従うのだろう、そう思い知らされるのであった。
「次は本隊だ!」
☆☆☆
「増援って来ないんですか?」
「多分来ないわね」
相手の意図に気が付いたミナモであるが、打つ手はない。
不安になっているトリシャ達には聴かせられず、パーティーチャットでやり取りをしていた。
「何故?」
「護衛している人達にもプライドがあるのよ。
街を出る前にクエストの取り合いだって言ったでしょ?」
「ん? ああ、そういえばクエスト枯渇してるって。
なるほど、奪い合いで助けが呼べない状況なのか」
クエスト争奪戦を突破した勝者たちが、情けなく誰かに増援を呼ぶなど沽券に関わる。
しかしこれで失敗したら沽券どころではない。増援を呼んだ時以上のプライドがズタズタになる可能性が高い。
「どうするんですかね」
「さあ、どうなるのかしら。
相手側は飛行系の従魔を従えてるでしょう、そうなるとこちらとしてもじり貧よね」
「従魔、テイマーですか」
テイマーに従っているモンスターを従魔と呼ばれている。
従魔はその形は様々で、その特徴を利用して空を飛んで高速移動なども可能である。
馬車を引く事も可能で、現在馬車を引いているのは、体格が大きな6足の厳つい甲殻類のモンスターが牽引していた。
「便利ですね」
「本当にね。
強くて移動にも必須というのが、テイマーの株を押し上げてるわ。
進化も未知数だし、モンスターの数も尋常じゃなく多くて、ロマンの塊よね」
半年経ってもモンスターの進化というのは謎が多く、人気のモンスターであってもつい先日新しい進化先が発見されたばかり。
無限の可能性を秘めたテイマーに、当初はテイマーのゲームとして売り出そうとしていたのではないかと言われるほどだ。
「二人とも何話してるの?」
口パクの状態の為、トリシャが気づき尋ねてくる。
ミナモは何食わぬ顔で平然と。
「従魔の中で可愛いモンスターは何か教えて貰ってました。
精霊さんも可愛くならないかと相談していました」
「難しい質問だったわ」
エルニカも適当にはぐらかし話を合わせる。
「テイマー、テイマー良いよね。
けど多いから別なのが良いって言われて諦めちゃった……」
縛られたプレイ、縛られた気持ち。
ミナモはそんな窮屈なプレイを振り払うべく誘う。
「諦めなくても良いと思います。
好きな事するのが大事です」
「そ、そうかな?」
「そうです。
やりたい事がやるのがゲームです。やれないなら努力してやるまでです。
トリシャちゃん達は、それが本当にやりたい事なんですか?」
やりたい事、そう言われてトリシャも、そしてピーファも言い淀んだ。
「けど、ブログとか攻略サイトでお勧めされてたし、これが一番役に立つって」
「役に立つことがしたかったんですね」
無邪気に答えたふりをする、彼女達の本質をただ刺激していた。
「……確かにしたかったけど、そこまでじゃ」
トリシャのスキル構成はプリーストというジョブを選択し、神聖魔法、槍術、そして堅固という防御力増加のパッシブスキルである。
他者と自分の身を守る為のスキルしかない、自分に合ったスキルは一切無かった。
これで良いと本人が思えばいいのだが、不満があり素直に答えられなかった。
☆
先遣隊が全滅した。
急いで本隊に連絡が届く。本隊は苦虫を噛んだ様な顔をしながら、今後の話をし始める。
「……いきなりかよ、なんだってんだ。
おい、行き先を変えるぞ」
「変えるって言ってももう引き返す時間がないぞ!」
「じゃあ進路変更だ」
「……無理だ」
「なんでだよ?」
「地図を見たがここに来る道が一本道で、この先もまた一本道で、……もう詰んでる」
「……これが狙いかよ」
今更敵の狙いを理解したが、こんな手の込んだ事をする意味がまだ分からない。
ただ必ず襲撃してくるのは確定している。
「……準備を、覚悟を決めろよ」
「分かった、一先ず全員に通達する」
不安が噴き出しそれが伝播していく。
しかしそんな不安をいざ知らず、初心者の一部は雑談を楽しむ。
「それでね、その猫が面白かったんだよ」
状況とは裏腹に初心者組は猫の話しばかりだ。
ミナモはすでに遠くで複数人の盗賊を見つけているが、何の反応も示さず猫の話しに耳を傾けている。
そしてエルニカは護衛クランの人達から連絡を貰い、焦りを抱いていた。
(どうしましょ。
こんな回りくどい手を使うなんて、大きなクランが動いてそうね)
手口からただのクランでない、依頼が失敗に向かい動いている事を察した。
(弱い人達なら問題無いのだけれど、多分私以上の強さの人達がそこそこいるはず。
参ったなぁ……)
増援を呼んでいる時間は無い。
なら覚悟を決めて一人立ち向かうしかなかった。
「そろそろ来るかも」
そんな時、糸目のニュートが口を開く。
「何がだ?」
「時間の感覚的にまた盗賊が来るかもしれない」
ニュートは襲撃する時間を覚えていて、その総計を出して平均時間を割り出していた。
「敵襲!」
噂をすれば襲撃が始まり、馬車が停車していく。
セブラがまたしても剣を手に取り立ち上るが、エルニカの呼び声で動きを止めた。
「セブラくん、動いちゃ駄目よ」
「……ちっ」
そしてエルニカは何時にもなく真剣に全員に状況を伝え始めた。
「いいみんな? この襲撃が最後、この後襲撃は確実になくなるわ」
「どうして?」
「先遣隊が全滅したの」
「え!?」
「だ、だったらみんなで戦た方が」
「そうだ」
乗り出す者達を見て、首を振り否定する。
「状況的に私達の敗北よ。
依頼失敗で幕引き、残念だけれどね、私を含めて全員で動いても結末は変わらない」
エルニカの実力はこの場の全員が知っている、だからこそ強者の突きつける現実に言葉を飲み受け入れるしかなかった。
「け、けどよ」
だからと言って納得はできない。このままみすみす失敗なんてできない。
「納得できるかよ。
何もせずやられるなら最後まで抵抗してやる!」
セブラが抗戦の意志を見せるが、エルニカがセブラの肩を掴み座らせる。
無理に立ち上がろうとするセブラだが、その力に一切抵抗できず、動く事が出来なかった。
「今の貴方は私の力に抵抗できない、最悪でも動けるくらいまでじゃないと邪魔にしかならないわ」
自分の無力さにセブラ自身一番理解していた、だからエルニカから言われると余計に心に響き苛立ちが募る。
抵抗の意志を瞳に込めてエルニカを睨むが、エルニカの力は弱まらない。
エルニカは少し悲しそうにしながら全員に向かって言い聞かせる。
「いい? 全滅した後が大事なの、それは私じゃどうしようもない、生き残った貴方達にしかできない重要な事があるの」
「じゅ、重要な事? ッ!?」
尋ねると同時に前方から閃光が走り、爆音と共に軽い悲鳴が響く。
ミナモ意外の全員がそちらに視線を向けて意識がそれる。
「話を聞きなさい!!」
大声で一気に全員の視線が集中し、それを確認したところで用件を早急に話始めた。
「ちゃんと聞いて、貴方達は抵抗しなければ生かされるわ、絶対にね。
NPCは彼等にとっても金のなる木、だから殺害はしない、そのNPCを守る為にも貴方達の力が必要なの」
勝敗が終わった後も護衛は続く、大事なのはその後どうやって生きていくのかが問題であった。
「敗戦処理か、面倒だね」
「ミナモちゃん、ごめんなさいだけど、貴方がこの子達の面倒見てくれないかしら?」
ミナモの返答を聞く前に、エルニカは馬車を降り前線へと駆けだした。
矢の雨が降り、それを凌いで勇ましく前進していく姿を、見守るしなかった。




