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馬車の中でログアウトしても、ログアウトした座標にログインするわけではなく、馬車の中で再びログインする事になる。
いつでもログアウトできるが、ログアウト中はゲームに干渉できない為、事件が起きても干渉はできない。
「敵襲!」
突如馬車内に響く声に、トリシャが驚き慌てて周囲を見回した。
「え、な、なに?」
「落ち着いて」
エルニカが宥めるが、セブラが剣を構えて飛び出そうとする。
急いでエルニカが止めようとするが、伸ばした手は届かずセブラが馬車から飛び出していった。
「もぅ、三人はここに居てね」
現在この場に居るのはトリシャ、ピーファ、ニュートの三人のみで、ミナモとアイゾーはログアウトして居なかった。
エルニカは腰に下げた刀に手を伸ばして、セブラの後を追った。
「盗賊、かしら」
外に躍り出て前方の馬車に視線を向けると人々の姿が見える。喧騒と同時に鉄がぶつかる戦闘音が聞こてくる。戦闘がすでに始まっていて、主要の護衛パーティーが盗賊を迎撃していた。
「セブラくん、戻りなさい、初心者じゃ無理よ」
相手はプレイヤー、つまりバンディット相手の対人戦闘である。
経験の浅いセブラには荷が重い。しかしセブラは言う事を聞かずに一人戦闘の渦へと近づいていた。
「ほんとにもう、貴方を狙ってる人が居るのに」
エルニカは矢のように飛び出し、一瞬でセブラを追い抜くと、セブラを狙っていた射手との射線の前に立つ。
「なっ!?」
「下がりなさい」
幽かに聞こえる風切り音の方へ刀を振りぬく。薙いだ風圧で飛んできた矢の軌道は逸れていく。そして射手へ向かって駆け出した。
ステップをする様に射手との距離が詰まる。射手が驚き下がろうとしたが、すでに目前に迫っていた。
慌てて腰から短剣を引き抜き応戦する。だが獲物の長さ違いから、エルニカの一撃が体を捕らえ一刀両断した。
「嘘だろ……」
目で追っていたセブラはその光景に度肝を抜かされ唖然としていた。
エルニカは消えていく盗賊を一瞥したのち、周囲を見回し他のバンディットを探し、見つけた相手に襲いかかっていく。
突然の襲撃であったが、終わりも突然やってくる。被害無く盗賊の迎撃に成功しているのであった。
☆☆
ミナモがログインすると、トリシャに抱き着かられ、熱烈に頬ずりされる。
「仮面がぶつかる」
「それはそうだよ」
仮面が邪魔をしていた為、軽く外すと再び頬ずりを再開した。
「何があったの?」
「盗賊が来たみたいだ。
私は馬車の中にいたから詳細は分からないんだが」
「私もログアウトしてて知らなかったっす」
「へぇ」
「怖かったよぉ、ミナモちゃんは居なくて正解だったよ」
「大丈夫だよ」
「いざって言う時怖いよ、強がらなくても大丈夫!」
しばらくすると頬ずりを辞め、落ち着いたのか、ホッと一息ついて愚痴を零す。
「もう、なんで盗賊なんて居るんだろ、居なかったらもっと安全なのに」
「そうだね、もう少し平和なゲームなら良いんだけどね」
「そうっすね」
アイゾーが一瞬きゅっと拳を握り俯くが、すぐに顔を上げて普段と変わらない顔をしていた。
一瞬の事だったがミナモは少し気になる、しかし個人的な事だろうと思いすぐに興味を失う。
「確かに平和が一番だけど、刺激にはなるよね」
ミナモの一言が微妙に空気を凍らせる。
平和が悪いわけではないが、ぬるま湯に長く浸かっていると、新たな刺激を求めてしまうものだ。
特に三日前まで宇宙海賊をしていたからこそ、接敵した時の高揚感が堪らず、盗賊達の気持ちも察せる。
「刺激?」
「ほら、甘いものだけだと飽きるけど、辛い物も食べたくなるというか」
「分かる様な、分からない様な。
けど迷惑かける事は駄目よ」
「う~ん、でもゲーム的には盛り上がるかも。
塩で甘さを引き立たせるって感じ」
「え?」
「運営もそういうのを想定してると思うし、人間の特性をよく利用したゲームを盛り上げる一番手っ取り早い方法だと思うし」
「盛り上げるって……」
同意する者はこの場には居ない。
空気は読めるが、読めるからこそ先輩としてアドバイスする事にした。
「モンスターだけならそこまで数を揃えなくてもいいけど、不確定要素のプレイヤーが混じると余計緊張感も増して護衛という仕事も増える。
犯罪者になって指名手配になると懸賞金とかも掛けられるよね?」
「ええ、そうね」
プレイヤー同士が戦えるというゲームで、バンディットになれるシステムがあるのなら、それに合わせて指名手配や賞金が設定される場合もある。このゲームもその例に漏れない。
「そうなるとバウンティーハンターとかも出てくるし、護衛の為の稼業とか、傭兵とかの職業も増えるし」
「バ、バウンティ?」
「賞金稼ぎの事っす。
結構多いみたいっすよ」
「へ、へぇー、そんな人たち居るんだ。
あれ? ミナモちゃんよく分かったね」
「ログアウトした時護衛とかについて調べた」
「勉強家さんだ、私も勉強しないと」
調べたという体にして、遠回しに盗賊達のフォローを入れた。
それはさておき、男子たちの一角では、空気が悪く、セブラが不貞腐れていた。
「ところでそっちはどうしたの?」
「戦力外で不貞腐れてるだけだよ」
「るっせぇ」
「だって本当の事じゃないの。
エルニカお姉さん凄い活躍だったって護衛の人が言ってたもん」
それを言われると辛いのか、黙りそっぽ向いてしまった。
争っていたトリシャは鼻を鳴らしドヤ顔をして、出発した時同様に勉強も兼ねてゲームの話をし始めた。
☆☆
プレイヤー対プレイヤー、PvPというのはその状況によって対応が変わってくる。モンスターを相手にするよりも遥かに難しい。
そんなPvPにおいて、その他の要素、例えば護衛する対象を増やせばさらにその難易度が跳ね上がってくる。
「敵襲!」
「んだよ、またか」
商隊の護衛ともなれば生半可な気持ちで挑む事は出来ず、受ける者など手練れか無謀な者達くらい。
今回の護衛をしている「マルチアイ」というクランは前者であり、過去の功績もある熟練者達である。
クランというのはプレイヤーが作り出したコミュニティーである。様々な用途のクランがWLMには存在していた。
「っとに、6人だけかよ、しかもまた弱い奴」
「思った以上に襲撃が多いくせに雑魚ばかり、どうなってんだ?」
「どうとか以前に、先発隊はどうなってんだ、節穴かよ」
「落ち着き、隅々まで探せるわけじゃない」
何時もと同じはずの護衛依頼、だというのに何時も以上に異常であり異質であった。
得体の知れない不安感を拭いきれず、苛立ちだけが募る。
「……しかしこの襲撃の多さ、どうも時間稼ぎととっても良さそうだな」
「時間稼ぎ?」
「奇襲をして足を止め、そして合流し俺達を襲う」
「はぁ? なんでそんな事やってるんだ? 一気に襲って来ればいいじゃないか」
「……今回の積荷、なんかあるのか?」
「何時もと変わらない、だからおかしい」
積荷は需要の多い物や一部高級な骨董品など、何か特殊な品があるわけではない。だからこそより一層今回の襲撃が異常であった。
「一体相手はどんな奴等なんだ…」
強く相手の事を知りたいと思えた依頼はこれが初めてである。
☆☆☆
とある森の一角、木々のざわめく木陰で影達が囁く。
「やーっぱ失敗か」
「戦力が足りねぇんだよ、当たり前だろ」
「第一こんな方法なんて時間の無駄だろ」
商隊を襲っていた盗賊団の一人がネチネチと責め立てる。その睨む視線の先には白いフードを被った男が木にもたれかかっていた。
その白いフードの男は一切気にせず彼等に笑みを浮かべながら口を開く。
「何を言っているのです、確実に成功させる手段ですよ、そ・れ・にぃ~」
一瞬で笑みは消え失せ、苛立つ内心をさらけ出した。
「君達さぁ、くっそレベル低いんだよねぇ、分かる? 雑魚なの?」
「あ?」
腹立たしい相手に、その上煽る様な事を言われれば怒りが抑えられなくなる。
「止めとけ」
白いフードに対して剣を向けようとした所で、傍にいる仲間に止められる。
だが腹の虫は収まらず、剣を抜き相手に突きつけた。
その一連の行動で周りの緊張感が突然高まった。
「はぁ、ったく」
突きつけられた側はその行動に呆れ、さらなる失望の色を見せた。
「君、そこまで脳足りんなの?」
その言葉は煽って出る言葉ではない、剣を向けるという愚かな行動を心の底から軽蔑していた。
普通ならば力で解決する盗賊団らしい行動なのだが、剣を向けた相手は普通の盗賊ではない、圧倒的な上位存在、互いに一般的なプレイヤーであったとしてもそこには明確な溝があった。
「第一、お前、攻撃できないでしょ?」
「あぁ? てめぇの目は腐ってんのか?」
白いフード目掛けて腕を振り上げる。しかし白フードは一切防御する事はない。
「お、おい、お、お前の、腕」
「あ? ……アァァァッ!?」
振り上げたはずの手は地面に落ち、男の両腕が胴体から切り離されていた。
「い、一体何をしたぁぁッ!!??」
「五月蠅い」
腕を切り落とされた男は吹き飛び倒れこむ。
白フードはその場から一切動く事も体勢を変える事もしていない、周りの人物たちもそれは確認していたが、誰一人何をしたのか理解できていない。
これで格付けが終わった。どちらが上で下なのか思い知らされた。
「な、何をやったんだ……」
「だから低レベルだって言うんだよ、悪役をするにしても、正義の味方をするにしても、基礎がなってねぇんだよ、頭を使って狩りをする原始人の方がマシだ」
白フードはがりがりと頭を掻きむしり歩き出した。
「一応さぁ、俺がお前達の上司なわけ、分かる? 君達のクランは俺達のクランの子会社みたいなものなの、たらたら適当にやって成果も上げれないとこっちのクランに泥を塗られるわけ、何度も俺達のクランが君達に指導しに来てたよね、それを覚えられないのかなぁ?」
ねちねちといびる姿は会社の上司の様だ。
「ただの反抗期を迎えたガキの様に悪ぶりたいだけなの? それとも俺達に縋って甘い汁を啜りに来ただけ? こんな序盤の街で初心者狩りしかてイキリ散らす雑魚なの? ゲームだからって適当にしてる? 違うよね? 違うって言えよ、もう呆れさせないでくれよ!」
誰も何も言い返せない。
今まで指導されてきた、しかし話半分で誰も聞かず何時ものように自分たちで好き勝手行動してきた。自由奔放で、しかし力はなく、何時か力をつけて名を馳せる志だけを胸に、ただそれだけで活動していた。
「じゃあさっさと行動しようか、俺を、俺達を失望させるなよ」
白フードは息を整え、先ほどの事は何も無かったかのように平然とした口調で呼びかける。
これ以上逆らう事は出来ない、何時クランを追い出されるかもわかない状況だ。
各々黙って指示通りに行動を始めるのであった。
「少しやり過ぎじゃないの?」
白フードの傍らから、背丈の高い黒い角の生えた男性が女性口調で話しかける。
白フードは悪びれた様子も無く肩をすくめ。
「お前だって思ってた事だろ?」
「どうかしら?」
飄々とかわし自分の意見を言う事は無かった。
「じゃあさっさと根性叩き直して、草を回収して帰るか。
こんなところで油を売ってる暇はない」
「早く前線に戻りたいものね、流石に『僻地』は退屈だわ」
この地域を普通は僻地とは言わない。
しかし彼等には徳のある事が少なく、魅力のないこの地は僻地にしか映らなかった。




