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第三十七話 六人で囲む初めての食卓

あの後、俺たちは査察について話し合うため再び会議室へ向かい、紅蓮たちも検査へ戻った。


会議で決まったことは一つ。


査察では「進化の理由は現時点では不明」と説明することになった。

「ゲームで進化した」なんて話は、もちろん伏せる。実際、それが原因の可能性も低いらしい。


……とはいえ、二度も同じことが起きると「本当に偶然か?」と思ってしまう。


そんなことを考えながら自室に戻ると、


「ふふん」


芙蓉さんが自信満々の表情でドアの前に立っていた。

その隣には紅蓮と紅麗もいる。

二人とも、ワクワクした様子を隠しきれていない。


「部屋の改装が完了しました」


「早すぎじゃない?」


まだ半日も経っていないんだけど……。


「さあ、どうぞ!」


芙蓉さんが得意げにドアを開けた。

……どうやら本当にみんなの家になってしまったっぽい。


リビングへ向かう前に、まずは二人の部屋を見て回ることになった。


最初に入ったのは紅蓮の部屋。


部屋の中央には、ポツンとベッドが一つ置かれているだけだった。


「これが、俺の部屋……」


それでも紅蓮は目を輝かせている。


「家具はもう少しお待ちくださいね。ちゃんと発注してありますので」


「ありがとうございます! 芙蓉様!」


芙蓉さんは偉そうに頷いているけど、そのお金は久遠副隊長持ちだろうに……。


さて、どんな家具が届くんだろう。

紅蓮のことだから、中学生が喜びそうな、いかにも格好いいやつを選びそうだ。

竜のイラストなんか入っていたりするんだろうか。


続いて紅麗の部屋を覗く。


こちらもベッドが一つ置かれているだけで、他には何もなかった。


「……ましろちゃん。今日、一緒に寝てもいい?」


「ん? いいよ! 一緒に寝よ!」


「……ありがとう」


見た目は中学生。でも、中身はまだまだ子供みたいだ。

確かに、ベッドしかない部屋で一人きりというのは心細いのかもしれない。


「紅蓮、お前は一人で寝られるか?」


「あ、当たり前だ!」


もう少し優しく聞いてやればよかったかもしれない。

男だから大丈夫かもしれないが……。

いや、来ると思っておいた方がいいか。来なければ広い場所で寝れるだけだしな。


最後にリビングへ。

部屋に入ると、思わず口が開いてしまった。


そこはもう、俺の知っているリビングじゃなかった。


「ひろーーい!」


ましろも目を輝かせている。


マジで広い。

くそー。これがシェアハウスじゃなくて、自分の家だったら最高だったのに……。

でも、ちょっと目標ができた。いつか、こんな家を自分で持てるように頑張ろう。


「ソファーとテレビも、もう少しお待ちくださいね」


芙蓉さんはニヤリと笑うと、


「ちゃんと、良いやつを選んでおきましたので」


そう言って、俺に向かって親指を立てた。


「その……俺たちの要望とかは?」


ここ、元々は俺と焔乃宮の部屋だったんだけど。

好みとかもあるしさ。


「プレゼントです。サプライズに挑戦してみました!」


満面の笑みで言い切る。


「ちなみに、どんな感じなんですか?」


「ふふふ。それは届いてからのお楽しみです!」


こ、この人は……。


悪気がないのは分かる。

分かるんだけど、ちょっとだけ不安だ。

変な家具を選んでいなければいいが。


まあ、考えても仕方ないか……。

それよりも夕飯だ。仕事終わりで腹も限界だし。


「食堂に行こうか」


「いく! おなかぺこぺこ!」


「あ、少々お待ちください」


芙蓉さんが俺たちを呼び止めた。


「今日からしばらくは、こちらで食事をしていただきます」


「ここで?」


「紅蓮と紅麗は、まだ食事の作法に慣れていません。まずはここで練習していただきます」


なるほど。確かに、そんな状態で食堂に行ったら、周りに迷惑をかけてしまうかもしれない。

しかし、待てよ?


「ましろは普通に食べてたけどな」


「ましろ、いっつもソーマを見てたから、なんとなくできた!」


胸を張るましろ。

その横で、紅蓮と紅麗は少しだけ肩を落としていた。


「ましろちゃんが特別なんです。普通はそんなに上手くいきませんよ」


「あんまり気にしたことなかったけど、ましろって凄かったんだな」


「えへへー」


照れくさそうに笑うましろ。


その頃には、部屋中に食欲をそそる香りが漂い始めていた。

どうやら、部屋の改装中に作ってくれていたらしい。


六人で囲めるテーブルはまだないので、二つのテーブルを並べて即席の食卓を作る。その中央には、大きな鍋。中には、たっぷりのカレーが入っていた。


「今日は芙蓉特製カレーです!」


「いい匂いだな……」


思わず腹が鳴った。

皆が席に座った。


紅蓮と紅麗は席に着くと、スプーンを握り始めた。

恐らく初めて使うのだろう。その手つきはぎこちない。

芙蓉さんが教えてあげるのかと思っていたら、


「こうだよ!」


そう言って、ましろは自分のスプーンを持ち上げて見せていた。


二人は真剣な表情でましろの真似をする。


「……こうか?」


「うん! とっても上手!」


そのやり取りに思わず頬が緩む。

この様子なら二人も食べれそうだ。まあ、だからこそのカレーか。いきなり箸は難しいもんな。


「それじゃ――」


「「いただきます!」」


紅蓮と紅麗がおそるおそるカレーを口へ運んだ。


「……!」


紅蓮の目が大きく見開かれている。


「うまい……」


「本当ですね……。とても美味しいです」


紅麗も自然と笑みを浮かべていた。


「ふふん! 当然です!」


芙蓉さんは誇らしげに胸を張っている。


「おいしー!」


ましろも満面の笑みでカレーを頬張っていた。


さて、俺もそろそろ食うか。


見た目、匂いは良しと。

あとは味だが……。


旨!!


……少しだけ、芙蓉さんを見直した。


本当に美味しい。

少し甘めなのに奥深いコクがあって、口の中いっぱいに旨味が広がる。

今まで食べたカレーの中で、一番美味しいかもしれない。


気付けば、夢中で食べ終えていた。


「おかわり、いいですか?」


「もちろんです!」


俺が皿を差し出すと、芙蓉さんは嬉しそうに受け取った。


「うぅ……俺ももっと欲しい……」


紅蓮はまだスプーンに苦戦していて、思うように食べられていない。紅麗も同じだ。正直、二人とももっとがっつくのかと思っていたけど、作法を崩さないよう、一口ずつ丁寧に食べている。


「大丈夫ですよ。カレーはまだまだありますから!」


「ましろもおかわり!」


「それなら私も、おかわりをお願いします」


ましろに続いて、焔乃宮までおかわりを頼んでいた。


「俺の分もちゃんと残しておいてよ!」


「皆さんがこんなに食べてくださって嬉しいです」


芙蓉さんは満足そうに微笑んだ。


こうして、俺たち六人で囲む初めての夕食は、賑やかに幕を閉じた。

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