第三十六話 部屋割りの方が重要らしい
昼食後、俺の家の前に全員が集まっていた。
数日後には軍のお偉いさんが視察に来るっていうのに、住居問題を先に決めるらしい……。
どう考えても優先順位がおかしいと思うんだが。
ちなみに紅蓮たちも合流した。
検査は一旦区切りの良いところまで終わったとのこと。
二人とも急いで来たのか、病院で着る前開きの検査着のまま来ている。
しかし……。
改めて見ると、本当に顔が整っている。
紅蓮は凛々しい美少年。紅麗は思わず見惚れるほどの美少女だ。
魔人というのは、みんなこうなのだろうか。
「……何?」
紅蓮が訝しげにこちらを見てきた。
どうやら見すぎていたらしい。
「いや、かっこいいなーと思って」
「なっ!?」
さらに頭をぽんぽんと触る。
「大きくなったら、さぞイケメンになるぞ〜」
「俺を子供扱いするな!」
紅蓮が慌てて俺から離れた。
失敗したかも。
つい、ましろに接するような感覚で接してしまった。
だけど仕方ないよな。
あれだけ大きかった竜が、今では俺の肩ほどの身長しかない。
顔立ちだって、どう見ても少年。子供扱いするなという方が無理がある。
「それより、お前ら、俺たちと同居を希望しているんだってな。どうしてだ?」
「別に……」
紅蓮が目を逸らしながらぶっきらぼうに答えた。
「もう、紅蓮ったら。お世話になるんだから、ちゃんと言わないとダメでしょ」
紅麗が紅蓮を叱っている。ちゃんとお姉ちゃんをしている。
「……人間の暮らしを学ぶなら、人間と一緒に住んだ方がいいって、芙蓉様に言われた」
「へえ」
「それに……」
「それに?」
「お前たちといる方が退屈しなさそうだし……」
そう言って、紅蓮はふいっと顔を背けた。
思わず笑ってしまう。
素直になれない中学生みたいな反応だ。
だから、こんな見た目になったのかもな。
「そんなことより、早く入れろ! 俺の部屋を見たい!」
「いやいや、まだ俺の部屋なんだが?」
すでに自分の部屋扱いである。
紅蓮ほどではないが、心なしか紅麗も楽しそうに見えた
仕方がない。ひとまず家に入れることにした。
カードキーをセンサーにかざす。
ガチャリと解錠音が鳴った瞬間――
「俺が一番だ!」
紅蓮が勢いよく飛び込んでいった。
「お、おい! 絶対に散らかすなよ!」
慌てて俺も後を追った。
紅蓮は片っ端からドアを開け、中を覗き込んでいた。
「結構綺麗に使っているじゃないか」
「そうじゃな」
いつの間にか隊長と副隊長まで部屋を見て回っている。
なんで上司に部屋を査察されなきゃいけないんだ。
「まだ物が少ないので……」
俺たちは4LDKの高級ホテルみたいなところに住ませてもらっている。
四部屋のうち二つは俺とましろの部屋。
残り二つは物置代わりというか、ほとんど空き部屋になっていた。
本当なら家具や荷物を増やしていく予定だったけど、買い物に行ける環境じゃないからな。
その結果、二人分の部屋が丁度空いている。
……いや、だからって住ませる前提で話を進めないでほしいが。
リビングへ行くと、ましろが紅麗と芙蓉さんを案内していた。
「ここでね、みんなといっつもゲームしてるの!」
「そうなんですね」
紅麗が部屋を見回しながら頷いている。
「私も混ぜてもらえるのでしょうか?」
少しだけ緊張した様子で尋ねていた。
「もちろん! いっしょに遊ぼ!」
「よかったです」
紅麗はほっとしたように微笑んでいた。
「私は?」
横から芙蓉さんが元気よく手を挙げた。
「いいよ!」
「やったーー!」
びっくりするぐらい喜んでいる。
もしかして、この人。
紅蓮たちの教育だの、人間社会への適応だの、そんな立派な理由じゃなくて――
単純に俺たちと遊びたくて、うちに住もうとしているだけなんじゃないだろうな?
そんなことを考えていると、
「ここの壁を取り除くのはどうでしょうか?」
焔乃宮がリビングの壁を指差した。
「私のところはここと左右対称です。この壁の向こうもリビングなので、取り払えばかなり広くなります」
確かにそうだけど……。
やっぱり、めちゃくちゃ乗り気だ。
「みんなで遊べる?」
ましろは目を輝かせているし。
「ええ。六人でも十分に広いと思います」
「じゃあ、ここを取ってもらおう!」
「うむ。決まりじゃな」
「俺の意見は?」
誰も聞いてくれない。
「芙蓉よ、橘と協力して作業を頼む」
「わかりました!」
元気よく芙蓉さんが返事をする。
また知らない名前が出てきた。
「橘って誰ですか?」
「我の執事の一人じゃ」
副隊長が答えた。
「土木関係を得意としておっての。この基地の地下拡張にも携わっておる」
「へぇ……」
もしかして久遠副隊長たちだけで、何でもできたりするんじゃないか。
結局、紅蓮と紅麗の部屋は俺側の空いている部屋に、芙蓉さんは焔乃宮側の部屋に決まった。
家具とかも、久遠副隊長が買ってくれるとのこと。太っ腹だ。
だけど、まだ終わりじゃなかった。
「まだ、一つ問題がありますね……」
芙蓉さんが真剣な表情で呟いた。
何か問題なんてあったか?
正直、大した問題は思いつかない。
「六人座れるソファーがありません!」
……何じゃそれ。
「たしかに!」
だけど、ましろも元気よく同意していた。
「久遠様、どうしましょう!?」
「それも我が買ってやる」
副隊長はあっさり答えた。
「本当ですか!?」
「うむ」
すると芙蓉さんは、部屋をぐるりと見回す。
……嫌な予感がする。
「あと、このテレビも少し小さくないですか?」
「お主の……」
副隊長が呆れている。
「ですが、部屋のサイズに合わないと思います!」
芙蓉さんは真剣な表情で言い切った。
これ以上大きなテレビとなると、百型クラスなんだが。
そんなものまで買わせる気なのか?
「むぅ……」
副隊長は少し考え込み、
「……わかったわかった。それも買ってよい」
まさかの承諾。
「ふふん!」
芙蓉さんが勝ち誇ったように胸を張る。
そして、なぜか俺の方を見てドヤ顔をしてきた。
いや、ありがたいけど。
結局、一番ゲームを楽しみにしてるの、芙蓉さんじゃないのか?




