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第二十八話 紅蓮よ、覚悟はあるか?

訓練からの帰り道、


「焔乃宮、俺たちはちょっと司令室に寄ってから帰るわ」


「珍しいですね。何かあるんですか?」


「まあ、ちょっとな」


流石に紅蓮を叱ってもらうとは言えない。

ましろにも何も言っていないから、きょとんとしている。


「久遠副隊長に感謝を伝えに行こうと思ってさ。この前、アドバイスもらっただろ?」


「わかった!」


よしよし、ましろには疑われていない。


しかし、焔乃宮はジト目で俺を見てくる。

おい、その目はなんだ?


「湊原さん……。今日行くのはお勧めはしませんよ?」


「何のことだ?」


すっとぼけてみる。


「いえ、私は忠告しましたからね。それではお先に」


不穏な言葉を残して、焔乃宮は先に帰って行った。


「……何なんだよ」


思わず小さく呟く。


いや、問題ないだろ。


ただ、紅蓮のことをちょっと伝えるだけ。

別に間違ったことをするわけじゃない。


……うん、大丈夫だ。

大丈夫なはずだ。


「ソーマ?」


「あ、いや、何でもない」


紅蓮よ、待っていろよ。

久遠副隊長が相手だからな。余裕なんてないよな!


想像するだけで、ニヤニヤが止まらないぜ。


************


司令室に到着。


久遠副隊長は……っと。

いるにはいる。それに、いつものように本を読んでいるんだけど。


周りに誰もいない。


それに圧も感じる。

これ、副隊長から魔力が漏れているせいだよな……。


これは駄目だな。

機嫌が悪い時のやつだ。


よし!

紅蓮のことはまた今度にしよう。

空気はちゃんと読まないとな。


「クオーーーン!」


しかし、ましろは駆け寄って行ってしまった。

これは覚悟を決めないと……。


「ましろか。どうしたんじゃ? ここに来るんなんて珍しいではないか」


「うん! クオンに会いにきたの!」


「む……。もしやゲームのことか?」


副隊長の眉間に皺が寄った。

もしかして、また壊したとかか?


「あっ! そうだ! それもあった! あさって遊べそう?」


「それがな……。ゲームを取らせに行ったメイドが中々戻ってこぬのじゃ……」


メイドなんていたのか。


……いや、それよりも。


言葉に凄い怒気がこもっている。

「あやつめ、久々の外出だからと燥ぎよって……」とか言っているし。


なるほど。機嫌が悪い原因はこれか。


「それなら、ましろのでいっしょに遊べばいいよ!」


確かにニャンコパーティとかはゲーム機一台あれば皆で遊べる。


「しかしの……それじゃと、こんとろーらーとやらをまた壊してしまうかもしれん……」


「それはヤダ」


あ……副隊長が落ち込んだ。

でも、ましろのゲーム機はあいつらに貰った大事なものだからな。

流石に俺でも壊されそうな相手に貸したくはない。


ましろが俺の方を見てくる。何か方法がないかってことだな。


「操作は他の人にしてもらって、久遠副隊長は指示するって感じはどうですか?

 今回はゲームを遊ぶ空気を体験するみたいな感じになっちゃいますけど」


「ふむ。最悪の場合は、そうさせてもらうかの。

 それに――明後日までにメイドが戻ればいいだけじゃしの」


「うんうん! じゃあ、あさっては遊べそうだね!」


「うむ!」


良かった。

ましろのおかげもあって、副隊長の怒気もかなり薄れた。

離れて見守っていた職員たちもこっちに向かってナイスをしてくる。


「それで元々の用は何だったのじゃ?」


帰ろうと思っていたのに気付かれてしまった。

ここは感謝だけを伝える作戦でいく。


「あっ! あのね、ありがとうを伝えにきました!」


「なんのことじゃ?」


副隊長が首を傾げている。

ここは俺が行こう。機嫌も良くなっているし。


「副隊長の激励のおかげで、竜に乗ることができました。

 本当にありがとうございました」


「ありがとうございました!」


ましろと揃って深々と礼をする。


「何じゃそんなことか。お主らが頑張っただけじゃ」


よし、ノルマ終了。今日はここで撤退する。

俺は空気が読める人間さ。


「ここに来たのはましろの案かえ?」


「ううん。ソーマだよ?」


「――ほう」


あれ?

空気が変わった?


「ましろよ。我は蒼真と話があるから先に帰って良いぞ」


何かわからないけど、やばい気がしてきた。

汗が噴き出て止まらない。


ましろ、助けてくれ!


「ましろもいっしょに聞くよ?」


ナイスだ! ましろがいれば何とかなりそう。


「いや、ちょっと長くなるかもしれん。

 ゲームする時間が少なくなるかもしれんぞ?」


「わかった! ソーマ、先に帰っとくね!」


そう言って、凄いスピードで本当に帰ってしまった。


副隊長を見る。その目つきは恐ろしく鋭い。


「お主が我に話か。

 ――紅蓮のことでも言いに来たのか?」


心臓が大きく跳ねる。

まさか言い当てられるとは思わなかった。


「……い、いえ、そう言うわけでは」


「ほう」


「……その、本当にただ感謝を――」


絶対に言わないほうがいい。

そんな予感はする。


「紅蓮の件は、冬夜からちゃんと報告は受けておる。

 危険な飛行を行なって、お主を危険な目に合わせたと」


全てを見通すかのような目で俺を見てくる。


「それなのに、本当に感謝しに来たのかえ?」


喉がゴクリと鳴った。

こうなったら、正直に言うしかない。


「す、すみませんでした!

 本当はその件で紅蓮を叱って貰うために来ました」


「お主の……我が叱ればどうなるか考えたか?」


「いえ……その……紅蓮が少し落ち込むかと」


「見くびるな」


俺、終わったかもしれない。


「我が叱責はな、ただの叱責では済まぬ。

 誇りを傷つけられた者は――その場に居られなくなる」

 お主の前から、姿を消すやもしれんぞ」


「――」


確かに、紅蓮は副隊長を崇拝してるもんな。


「……まあ、例外もおるがの」


副隊長の眉がさらに歪む。


「あやつは、何度叱っても懲りん。

 そのくせ、妙なところで忠実で……」


声に、僅かに苛立ちが混じる。


「……あやつめ」


************


その後、気づけば一時間ほど経っていた。


何を言われたのか、正直あまり覚えていない。


ただ一つだけ言えるのは――


生きた心地がしなかった、ということだ。

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