第二十五話 初めての騎竜
翌日。
今日ももちろん竜舎に向かう。
だけど竜舎へ向かう足取りは軽い。
なんならスキップして行ってもいいぐらい。
おっと、こんな気持ちじゃダメだな。
顔を叩き、気合を入れる。でも、勝手にニヤけちゃうんだよなー。
……昨日、触れたんだもんな。
ふと横を見ると、ましろと目が合った。
うんうんと頷いている。
は、恥ずかしい。
めちゃくちゃ浮かれているのがバレたかもしれない。
顔が火照る。
「きょ、今日の撮影は楽しみだな」
「うん! やっと飛べるね!」
澄ました感じで言ってみたけど、誤魔化せたかな?
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竜舎に着くと、いつも通り焔乃宮は先に待っていた。
「昨日、触れたらしいですね」
「まあな」
さっきのましろのことを思い出し、そっけなく返す。
「思ったよりも冷静で安心しました。
昨日の電話のテンションだったら、どうしようかと思っていましたので」
……何も言い返せない。
でも、仕方ないよな?
「それでは、本当に触れるか確認させてください」
「任せろ!」
油断はするな。紅蓮にはバレるからな。
ちゃんと集中しろ。
紅蓮を見上げ、目を合わす。
「触るぞ」
やけに心臓の音が聞こえる。
もし触らせてくれなかったら……そんな今までとは違う緊張感がある。
しかし、要らぬ不安だった。
普通に触らせてくれた。
大きく息を吐く。
良かった。ちゃんと今日も触らせてくれた。
ありがとな。紅蓮。
「問題ありませんね。良く諦めずに頑張りました」
焔乃宮の優しい言葉にグッとくる。
彼には何度も相談に乗ってもらったし、何度も愚痴を聞いてもらった。
あー、色々思い出してきた。
やばい、泣きそう。
咄嗟に上を見る。
……危なかった。
「それでは次の訓練に移りましょうか」
焔乃宮が俺の方を見ながら苦笑している。
これは待ってくれてたな。ちょっと恥ずかしいな。
「次は、いよいよ騎竜となります。
――ですが、まずは鞍の装着と竜に乗るところまで行ってみましょう。
紅蓮と紅麗も今日はまだ飛ばないようにお願いします」
「はーい!」「了解!」
「クワッ!」「……」
おい、紅蓮よ、返事をしてくれ……。
ちょっと不安になるじゃないか。
ひとまず、自分の鞍を取りに行く。
紅蓮に付けたことはない……けど、模型で何度も練習はしている。
装着方法も簡単だし、大丈夫のはず。
そもそも、一番の問題は紅蓮が俺を乗せてくれるかどうかだよな。
昨日まで触ることすらできていなかったのに。
ましろの方は、
あ、はい。わかってました。
もう乗ってます。
これはやるしかない。
「紅蓮、背中に――」
ギロリと睨まれた。
「乗せて下さい」
しまった。つい、敬語が出てしまった。
これでは完全に主導権が……って、そもそも俺が握れるわけないよな。
紅蓮は鼻息を吐いて勝ち誇った顔をしているし。
まあ、紅蓮が気持ちいいようにさせた方がいいか。
紅蓮は体を屈め、俺が背中に乗りやすいようにしてくれた。
「……ありがとな」
まあ、背中には乗せてくれそうだ。
一応、感謝はしておく。一応だけどな。
思った以上に簡単に背中には乗れた。
っと、まずは鞍を付けないとな。
持ち手のある方を前にして――紅蓮の背に当てる。
まあ、それでも緊張はする。
紅蓮に装着するのは初めてだからな。
気持ち悪がって暴れたりするなよ。
震えそうになる指で、ボタンを押す。
……カチッ。
手応えと同時に、鞍がぴたりと固定された。
紅蓮の様子は……よし、大丈夫そうだ。
特に気にしている様子はない。
鞍に座り、鎧に足を通す。
この辺は馬とほとんど同じだ。
違いがあるとすれば、手綱がないことぐらいか。
竜には言葉が通じるんだからな。
「うおっ!」
紅蓮が急に立ち上がり出した。
身体が後ろに持っていかれる。
慌てて持ち手を掴む。
心臓が、バクバクとうるさい。
こいつ、いきなり立つなよな。
――って、怖っ!
高い。
それに、不安定すぎる。
足場もぐらつく。
でも、乗れたんだな。竜に!
怖いのに――口元が緩む。
「ソーマー!」
ましろが手を振りながら、俺たちの方に近寄ってきた。
もう、紅麗を歩かせているのか。
それなら、俺もやってみよう。
「紅蓮、俺たちも行こう」
紅蓮の背を軽く叩いてお願いしてみる。
「……グワッ」
よし、返事してくれた。
……あれ?
どういうことだ?
歩くだけなのに、体勢が低すぎじゃないか?
「紅蓮、待って下さい! まだ飛ばないでください!」
焔乃宮が大声で叫ぶ。
飛ぶ?
紅蓮が羽を広げる。
「ちょ、ちょっと待て! 紅蓮!?」
紅蓮が飛び上がった。
一瞬、身体が浮く。
気づけば、地面が遠ざかっていた。
ましろたちの姿が、みるみる小さくなっていく。
だけど、なんだこの感じは?
本当に飛んでいるのか?
体勢も安定してて、全然揺れない。
なんと言えばいいのだろう。エレベータに乗っている、あの感じが近い。
もっと重力を感じて、怖いと思っていたのに。
「……凄い」
ポロッと声が漏れた。
だけど、その余裕も一瞬だけだった。
ニヤリ。その表現が正しいと確信できるぐらい、紅蓮が嫌らしい表情をした。




