第二十四話 紅蓮との日々3
翌日。
モチベはちゃんと維持できたままだ。
必ず触る。
今日は遅くなってもいいように、ましろにはゲーム機を持たせている。
ちゃんと凪隊長にも許可を取った。笑って許してくれた。
まあ、あくまで念の為だけどな。残業するつもりなんてこれっぽっちもない。
……と、そう思っていたんだけどな。いざ紅蓮を前にするとやっぱり怖い。
大きく息を吐く。
見ててくれよ。ましろ……。
チラッとましろの方を伺う。
紅麗がましろに後ろから覆い被さっている。知らない人が見たら襲われているように見えそうだけど、今日も仲が良いいだけだな。ましろも普通に笑っているし。
ん?……ましろ、何してるんだ?
「おい、ましろ! ゲームはまだダメだぞ!」
「今日はゲームしていいって言ったよね?」
「それは残業時間になってからだ!」
「えー、でも、クレイも楽しそうだよ?」
「クワッ!」
ほんとだ……。
って、そうじゃない。
「そんなこと言ってたら、ゲーム禁止にするぞ!」
「えーー! それはずるい! もうちょっとでおわるから、これだけやらせて……」
「わかった。それが終わったら片付けろよ」
「わかった……」
はぁ、さっきまでの緊張感が……。
「すまない、紅蓮。待たせてしまったな」
紅蓮は「別に」と言った表情をしている。
まあ実際はわからない。けど、怒ってはいないことはちゃんとわかる。
さあ、行くか。
恐怖は――もちろん、ある。
まずは気合いで。
これも何度も試した。
だけど、これが一番俺には合っている。
「行くぞ! 紅蓮!」
「グワッ!」
恐怖に負けるな。体よ、強張るな。
……まあ、そう思っている時点でダメなんだろうな。
いつも通り、尻尾が飛んできた。
バシッ。
ふぅ……。ちゃんと防御は出来た。
今まで何度も喰らったからな。流石にこれぐらいは出来るようになる。まあ、腕はめちゃくちゃ痛いけど。
しかし、やはり気合だけじゃダメか。
昨日はいける気がしたんだけどな。
そうそう、ましろにも家に帰ってから聞いてみたんだ。
なんでもう少しでできると思ったのかって。
そしたら、
「んー、なんとなく?」
だってさ。
だけど、ましろにはもうちょっとで触れるって感じたんだろう。
少なくともちょっとは前に進んでいるってことだ。この一ヶ月は無駄じゃなかったんだと。
よし、やる気が出てきた。
もう一度だ。
息を吐く。
重心を下げて、少しずつ前に。
どこまで進めば尻尾がくるかなんて、とうの昔にわかっている。
……あと、一歩。ここが境界線。
怖がるな。前に進め……。
行くぞ!
……あれ?
尻尾がこない?
手を伸ばせばさわれるんだけど。
「お、おい、触っても良いのか?」
紅蓮はプイと目を逸らした。
ま、まじか。さわるぞ?
手が震える。
触れた。
――鱗だ。
思ってた以上に冷たい。
それに硬い。
竜の鱗ってこんな感触なのか……。
一ヶ月分の失敗、吹き飛ばされた場面が脳裏に浮かぶ。
「触れた……!」
思わず、声が出た。
「触れたぞー!!」
全力の咆哮。
それに右拳も振り上げていた。
仕方ないよな。一ヶ月もかかったんだ。
「ソーマ、おめでとう!」
「クワッ!」
「ありがとう! これでやっと次に進めるな!」
ニヤニヤが止まらない。
あれ? でも、なんで触れたんだ?
俺は別に恐怖なんて克服出来てないぞ?
……まあ、いいか!
紅蓮の信頼は得られたってことだもんな。
「こいつめ、手間をかけさせやがって」
ぽんぽんと紅蓮の前足を叩く。
その直後、紅蓮が顔を近づけてきた。
なんだ? ましろたちみたいに、俺にもスリスリしてくれるのか?
思わずニヤけてしまった。急に紅蓮が可愛く見えてくるから不思議だ。
俺も紅蓮を撫でようと手を伸ばした、その瞬間。
ガブッ。
あれ?
急に視界が暗くなった。
「うおっ!?」
体が宙を舞い、次の瞬間、地面に叩き落とされた。
「……いってぇ……」
びっくりした。
な、何が起こったんだ?
ましろたちは俺を見て大はしゃぎ。
「クレイクレイ! ましろにもガブってやって!」
「クワッ!」
いきなり紅麗がましろを咥えて、そして放り投げた。
ましろは一回転して綺麗に着地。
「面白い! もう一回!」
「クワッ!」
いやいや。さっきのは遊びじゃないぞ!
「紅蓮、危ないだろうが!」
紅蓮に抗議するために近づいてしまった。
しかも、さっき触れられたことで完全に油断もしていた。
ブンッ!
尻尾一閃。
やばい!
咄嗟に頭を守り、目をギュッと閉じた。
しかし、衝撃がこない。
すると、
ペシ。
腕に軽く叩かれた程度の衝撃が来た。
おかしい、痛くない。
恐る恐る目を開けると、紅蓮がこちらを見ている。
その顔はやれやれと、俺をおちょくっているかのような。
だけど、俺は嬉しかった。
……初めてだ。
こんな優しい攻撃。
もしかして、これは俺に戯れているのか?
やばい。
そう思うと、ニヤニヤが止まらない。
さっきのまでのは許してやろう。
今日は気分がいいからな!




