第二十三話 紅蓮との日々2
あれから一ヶ月。
紅蓮との攻防は相変わらず続いている。
毎日、紅蓮と向き合い、
毎日、吹き飛ばされる日々。
動画投稿はあれから一度だけ行った。
だけど、内容の方はお世辞にも良いとは言えない。
俺と紅蓮のやりとりの続きというか、俺がボコボコにされるだけの動画。
結局は前と似た構図になってしまった。
そもそも、俺がメインの動画なんて誰が見たいんだって話だ。
視聴者が見たいのはましろ。
だから、最近は撮影も止まっている。いや、止めてしまっているのが正しい。
焔乃宮にも毎回来てもらうのは申し訳ないから、今日のように訓練も俺とましろの二人のことも多くなった。
だけど、全く進展がないわけじゃない。
ましろから言われた、あの言葉。
『あそぶのに、そんな顔しないもん』
そうだ。ましろの言った通りだ。
遊ぶ余裕なんてこれっぽっちもない。
ああ……認めよう。
俺は紅蓮が怖い。
こんな状態で遊べるわけないよな。
だけど、困ったもんだ。
怖いことがわかっても簡単にはいかない。
紅蓮が手加減してくれているのは分かっている。
でも……あの尻尾が、あの爪が、あの牙が――怖い。
もしも、力加減を間違われたら……もしも、俺の回避が間に合わなかったら……そんなことが頭をよぎる。
この一ヶ月、我武者羅に挑んではみた。
でも、どうしても体が強張ってしまう。あと一歩が踏み出せない。
結局、時間だけが過ぎてしまった。
どうすりゃいいんだ……。
今日も紅蓮に触れられずに訓練は終了。
ましろと手を繋ぎながら竜舎を後にした。
正直、終わりが見えない。
「ましろ、まだ時間かかりそうだから、先に訓練進めてくれてもいいんだぞ?」
だからだろうか――弱音が漏れてしまった。
しかし、
「やだ! いっしょに飛ぶの!」
俺を見上げながら、まっすぐに。
その目は俺を純粋に信じてくれている、そんな瞳だった。
「ありがとな。だけど、まだまだかかりそうだぞ?」
「大丈夫! クレイが遊んでくれるから!」
遊んでくれる……か。羨ましい限りだ。
だけど、俺も頑張らないとな。
「それに――」
「お、ましろよ、ここにおったか」
振り向くと、そこには久遠副隊長の姿があった。
「クオン! どうしたの?」
「ゲーム機が完成したと連絡があってな。今週中には手に入るはずじゃから、次の休みには一緒に遊べるぞ」
「ほんとっ! やろ! やろ!」
そ、そんなことを言いにきたのか?
俺たちの様子を見にきたとかじゃなくて?
「なんじゃ、蒼真よ。お主は我と一緒に遊びたくないのか?」
「いえ、そう言うわけではありませんが……」
不躾な目で俺を見てくる。
「そう言えば、お主、困っとるそうじゃな。
――そうじゃ! 我にゲームで勝てれば、命令してやっても良いぞ」
そして、にやりと笑った。
「紅蓮に“乗せてやれ“とな」
すぐには返せなかった。
唾を飲み込む。
だけど、
「大丈夫だよ! ソーマ、もう少しでできるから!」
「そうなのか?」
「うん! ソーマがんばってる!」
ましろは俺を信じてくれている。
この一ヶ月間ずっと。
……ありがとう。
「ええ、ましろの言う通りです。もう少し頑張ってみます」
さっき悩んだのが嘘かのように、スッと言葉が出た。
「ふふっ。そうか」
副隊長は微笑んでいた。
もしも、ましろがいなかったら……俺はあの誘惑を否定できたのだろうか?
……馬鹿だな。
ましろがいなかったら、こんなところにいるわけがないじゃないか。
俺が竜に出会うことも、魔人と会うことさえなかった。
それなら、
「さっきのゲームの件ですけど、もし俺がゲームに勝ったら何か一つお願いを聞いてくださいよ。
……と言っても、今は何も思いつかないんですけど」
「まあ、我で叶えられる願いならば聞いてやろう。どうせ我が負けるわけがないからの!」
そう答える副隊長を見ながら、俺は心の中で苦笑する。
――本当は、もう決めている。
魔人の寿命は長いらしいからな。
ましろはきっと、俺よりずっと長く生きる。
だから、
俺が死んだ後、ましろを託す。
まあ、まだまだ先の話だ。
それに、この人をもっと見極めないとダメだしな。
今は直近の問題――紅蓮に乗らないとな。
頑張るしかない。ましろの期待には応えないと。
なんか、アドレナリン出てきた!
「ましろ、もう一回紅蓮たちのとこに戻るぞ!」
しかし、
「やだ! 今日のおしごとはおしまい!」
おいおい、ここは行く流れだよな?
「ましろ、頼むよ。今ならいける気がするんだ」
「やだ!ゲームするの! クオンに負けないようにとっくん!」
「ほ、ほら、ゲーム持ってきてもいいからさ」
「いや! ソーマといっしょにゲームしたいもん!」
ぐぬぬ。
「ははははは。蒼真よ、休むのも大事じゃぞ。紅麗たちも休みたいかもしれんしの」
「そうそう! クレイたちも休みたいはず!」
俺のやる気を返してくれ……。
まあ、明日だ。明日こそ、紅蓮にさわってやるぞ!




