第十八話 焔乃宮の力
更新は毎週火・金予定です。
「大丈夫ですか?」
焔乃宮が覗き込んできた。
「ああ、大丈夫だ」
素早く立ち上がる。
……本当はちょっと痛い。いや、かなり痛い。
だけど、俺の方が年上。ここは見えを張らせてくれ。
ましろもすぐにこちらへ駆け寄ってきた。
だけど、頬をぷくっと膨らませ、不機嫌を隠そうともしない顔だ。
……まあ、何もできないまま負けたんだ。無理もない。
俺はしゃがみ込み、両腕を広げる。
次の瞬間。
――ぐふっ。
腹に衝撃。
「っ……!」
ましろの頭が、腹に思いっきり突き刺さる。
しかも、そこはさっき殴られた場所。
「ミャーーーーー! かみなり、ぜんぜんきかなかった!」
「ぐっ……だからそこは今ダメだって……」
「くやしい! くやしい!」
だ、ダメだ。
こうなったら……。
ましろの脇を持ち、一気に持ち上げる。
「ミャッ!?」
必殺、高い高い。
はぁ、痛かったぜ……。
ましろも静かになったので、降ろしてやる。
まあ、まだ頬を膨らましているけど。
「俺たちも精一杯やっただろ?
焔乃宮が強すぎただけさ。ちゃんと相手を認めてやらないと」
悔しい気持ちがないことはない。
だけど、ここまで差があるとな……。
「むーーーー。
……エンノミヤ、強かった」
目を逸らしながら、ぶっきらぼうに言った。
焔ノ宮の方も、視線が地面に向いている。
……まあ、子供相手に完勝じゃ、気まずくもなるか。
「――でも、次は負けないもん!」
ビシッと効果音がついたように、焔乃宮を指差す。
焔乃宮は驚いた顔をした。まさに鳩が豆鉄砲を食ったように。
「ええ、いつでもお待ちしています」
どこかほっとしたような顔。
おいおい。ましろはそんなことで人を嫌うような子じゃないぞ。
ちょっとましろの解像度が低すぎるな。
――そうだ。
「ましろ、いつでも勝負してくれるって言ってるぞ。
今度、俺たちの得意分野で挑もうぜ」
ましろは目をぱっちり開いた。どうやら気付いたようだ。
「エンノミヤ! 今度はゲームで勝負ね!」
「ゲームと言うと……ましろさんがいつも持っている、その小さい機械ですか?」
「うん!」
焔乃宮は少し考え、真面目な顔のまま言った。
「その……実は、遊んだことがなくて」
「まじで!?」
「訓練以外の娯楽に触れる機会がなくて……。
ですが――」
ほんの少しだけ口元が緩む。
「すぐに用意しておきます」
そんな会話をしていると、訓練スペースの外から拍手が聞こえた。
「いやー、いい勝負だったじゃないか」
振り向くと、凪隊長と久遠副隊長がこちらへ歩いてくるところだった。
久遠副隊長の姿を見た瞬間、ましろの目がぱっと開く。
「あっ!」
何かを思い出したように、くるりと久遠副隊長の方を指差す。
「そう言えば、クオンともゲームする約束してた!」
確かに会ったばかりの頃に約束をしていた気がする。
「すまぬ……。
用意はしたんじゃが、試しに遊んでみたら壊れてしもうてな。
今、壊れぬようにしてもらっているところじゃ」
壊れるって、どんな使い方したんだ……。
ちょっと怖くなってきた。
もし勝っちゃったら部屋爆発とかしないよな?
「わかった! じゃあ、それが直ったらみんなで遊ぼ!」
「ああ、もちろんじゃ」
久遠副隊長がましろの頭を撫でる。
とりあえず、やることは決まってしまった。
「――ところで」
副隊長の声の調子が変わる。
「冬夜よ。なぜ身体強化しか使わぬのじゃ?」
俺もちょっとだけ気にはなった。しかし、それの何がいけないんだ?
俺たちと差があるから、手加減してくれたのだと思っていたんだけど。
ましろも首を傾げている。
しかし、焔乃宮は眉間に皺を寄せている。
本当にどう言うことだ?
「最後の攻撃……あれは受ける必要なかったじゃろ?
お主が負ける可能性もあったように見えたぞ?」
まじで!?
俺たちの攻撃が格上にも通用したってことか?
それが本当なら、普通に嬉しいんだけど。
焔乃宮は息を吐き、投げやり気味に言った。
「私は炎が使えません……。
焔乃宮家の落ちこぼれですから……」
その発言に息を呑む。
だけど、俺以外は理解していないようだ。
「お主は何を言っておる? たかが炎が使えないだけじゃろ?」
焔乃宮は唇を噛み締め、下を向いてしまった。
俺にはなんとなく気持ちがわかる。
焔乃宮にとっては“たかが“じゃないもんな……。
「ねーねーソーマ、どう言うこと?」
「あー……あいつの家な、炎の名家なんだよ」
「炎を使えないと落ちこぼれなの?
……じゃあ、ましろも落ちこぼれってこと?」
そんなことはない。
「いや、ましろは超優秀! それに可愛いから超最強!」
「じゃあ、なんでエンノミヤは落ちこぼれなの?
……ましろより強いのに」
正直、これは本人とその家族の問題なんだよな。
俺たちが深入りするような話ではないと思う。
それなのに……。
「ふむ。それでお主は何が使えるのじゃ?」
久遠副隊長はまだ行くらしい。
「氷です。
ふふっ……面白いですよね。炎の家系で、氷を使うなんて」
「面白い、面白くないは別の話じゃ。
お主の力を把握しておきたいだけじゃよ。
ましろを守る場面が来た時、判断を誤りたくないのでな」
久遠副隊長はそう言うと、俺たちから数歩離れた。
「よし、冬夜よ。我に氷の力を見せてみよ。
全力で撃って来て構わん。どうせお主程度の力では我には効かんからの」
やり方ってもんがあるだろ。
だけど……止められる空気でもない。
焔乃宮が副隊長を見ている。
その視線は、さっきまでとはまるで違っていた。
「……私から少し離れてください」
その声にも、自嘲はなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
面白いと思っていただけたら、ブックマークで応援してもらえると嬉しいです!




