第30話▷ At night when I can't sleep, your warmth
話が長くなりそうなので
ダイジェストにしてしまいました。
細かく描写出来ませんでしたが文中にあるように、
スーリア嬢はきちんとありちゃんのご兄姉に丁寧にご挨拶しております。
よくよく考えてみると、兄さま姉さまが私にそんな嘘をつく必要なんてない。
突然の話だったので混乱してしまったが、アルクスフォン兄さまがご乱心召したのは紛れもない事実なのだろう。
エリオネア兄さまとジュリエス姉さまが知っている範囲での経緯を聞き終わった頃に、待ちくたびれたスーリアがテントに乱入してきて兄さま姉さまとの語らいはお開きになった。
(もちろんスーリアは公爵令嬢という立場に則った上で、他国とはいえ皇族である私の兄さま姉さまに対して最大限の敬意を持って挨拶してくれたのだが)
そして時刻的にも夜半に差し掛かっていたので中ボストライアルは明日に持ち越すことになり、4人で夕食を囲んでほどよく歓談したのち、そのまま別々のテントに別れることになった。
まぶしいエネルギーフィールドの光も一切遮断する遮光の魔法がかけられているこのテントの中は、真上に伸ばした自分の手のひらすら見えないほどの真っ暗闇だった。
これならば、あっという間に眠れる。
はずであった。
「…………………………。」
愛用の寝袋に身を包んだはいいが、まぶたが羽毛のように軽い。
今日は"叡霊聖廟"の攻略で体力気力魔力も相当消耗して疲れ切っているはずなのに、色々考えてしまっているせいか、なかなか眠りにつけそうになかった。
(…………アルクスフォン兄さま。。。)
先程、兄さま姉さまとお話してからずっとアルクスフォン兄さまのことが頭から離れない。
私の記憶にある兄さまは常に正しく、強く、そして優しかった。
今となっては私に対する行き過ぎた偏愛だったと思い当たる事も多々なくもないが、それでもアルクスフォン兄さまは私の知っている限り、誰よりも尊敬出来る人物であった。
15歳になったと同時に職業神から勇者の職業を授かった時も、兄さまなら当たり前だと信じて疑わなかった。
だからこそ、兄さまが私の旅立つ覚悟を頭ごなしに否定し妨害しようとしたことがとても哀しかった。
私の人格を無視し連れ帰ろうとしたこと。
更に約束を違えただけでなく私の背後から騙し討ちのように斬りかかったこと。
心の底から信じていた人に裏切られるということが、こんなにも辛いことだったなんて、あの時初めて知ってしまった。
(……………………っ)
いま思い出しても涙が出てくる。
あのとき、女神さまからの助けがなかったらどうなっていたのだろう。
いや、たられば を考えても意味はないか。
私は軽くため息をついて寝返りをうった。
そして、あのとき女神さまは確かに「勇者職を剥奪」と仰った。
エリオネア兄さまやジュリエス姉さまから聞いた話ではまさにその天啓通り、帝都の近くで倒れていたところを発見されたアルクスフォン兄さまの職業は勇者ではなく、無法者という罪人や犯罪者によく見られる職業に堕とされていたという。
また、アルクスフォン兄さまが愛用していた国宝でもあった神剣ソムレインは、勇者ではなくなった兄さまが近づくだけで雷光をはじけさせ、兄さまを拒絶したという。
それだけでなく、アルクスフォン兄さまは皇帝陛下から経緯の説明を求められた際、こともあろうに馬鹿正直に旅立とうとしている私を力任せに屈服させ我がものにするつもりだったと吐露したらしい。
本当に素直な兄さまと言えば兄さまらしいのだが、さすがに時と場合によるというものだ。
そして実直な兄さまのことだ。
自分が正しくないとは微塵にも思っていなかったという事だろう。
それは裏を返せば、兄さまは欠片も反省していないということでもある。
陛下はそんな兄さまに激怒し、この上ないほど厳しく激しく叱責したという。
そしてそれに激昂した兄さまが陛下に向けて剣を抜き、すぐさま周りの近衛兵に取り押さえられて即日北の塔へ幽閉されたと聞かされた。
最後まで自分の非を認めずに。
「………………っ」
よそう。もうやめよう。
過ぎた事だ。今更考えても解答なんて出ない。
私はスーリアと共に、何処か未練のうちにさ迷っているであろうセシル殿下の魂を、安らかな眠りについてもらうよう導くことを考えればいい。
いや、その前に兄さま姉さまの無事を確保しつつ、この聖廟を攻略することが先決か。
そう。物事は可能な限りシンプルに―――
「……アリサさま?
まだ、起きてらっしゃるの?」
暗闇から声がした。
とはいえ目が慣れているせいか、起き上がってこちらを向いているスーリアの姿がなんとなく見て取れた。
「…………まぁ、色々考えてしまってな。
なんだか目が冴えてしまった。そういうスーリアも
まだ起きていたのか「ねぇ、アリサさま、、、
お側に行ってもよろしいかしら。。。」
―――え?
一瞬聞き間違いかと思ったが、もう次の瞬間にはスーリアが私に身を寄せてきた。
「……?? スーリア?「ふふっ。失礼致しますわね!」
ふわっと、薔薇のような甘い香りがした。
「………………………………………………。」
「………………………………………………。」
時おり、エネルギーフィールドが上げる火花の「バチッ」とした音が聴こえる以外は、耳鳴りがするほど静かだった。
そして、そんな沈黙の中、私もスーリアもしばらく黙ったままだった。
しかし、まだひと月にも満たない付き合いとはいえ、私は彼女にいつの間にか厚い信頼を寄せている。
一緒に命がけの探索をこなしたからだけではなく、共に笑い、共に励まし合い、同じ景色を見ながらここまで一緒に歩んできたからだろう。
だからだろうか。
ふたり並んで横になっているだけで、沈黙すら心地よく感じられた。
「……あ、アリサ、さま……?」
「―――うん?」
柔らかくそして暖かい沈黙が、彼女によって破られる。
「わたくしも どうにも眠れそうにもないので、
つらつらと思ったことを口にするかもしれませんが
どうか無理にお返事なさらず、他愛のない
独り言と思って流して下さいませ。」
「……? わかった」
暗闇の中、隣で横になっているスーリアが深く深呼吸したのが聴こえた。
「い、今更こんなことお話するのも何なのですが、
……わたくし、セシルさまを喪って、
自分のすべてを失った気がして、もう
生きる意味なんてないって思っていましたの。」
「…………っ」
彼女の思いを聞いて、言葉に詰まってしまった。
……勝手に運命の人と思っていたセシル王子の逝去は、面識のない私ですら心が痛んだのだ。
幼少の頃から想いを寄せ、王子との未来を夢見ていたスーリアにとってはどれほどの哀しみであったのだろう。
我が身に置き換えて軽く想像しただけで、心が張り裂けるかと錯覚するほどに胸が苦しくなる。
そんな私の唇に、スーリアの人差し指が当てられた。
「……これはわたくしの独り言ですわ。
無理にお返事しようとしなくても大丈夫で
ございますから。」
「………………。」
そしてスーリアは言葉を続ける。
「せめて、最後に殿下にひと目お会いしたい一心で、
死霊秘法なんて外法にも手を
出してしまいましたけれども、そんな時、
わたくし、、、貴女に、アリサさまに
めぐり逢えましたの…………。」
スーリアの声が涙声に変わり始めた。
「わたくし、アリサさまと一緒に過ごすうちに、
知らないうちにもう一度笑えるように
なりましたの……。
確かにセシルさまはわたくしにとって
かけがえのない大切な方でしたけれども、
いつの間にかアリサさまもわたくしにとって、
とっても大切な存在になっていたのですわ。」
「…………スーリア……………………。」
私の呼びかけに彼女は抱擁で返してきた。
「それを自覚したのは、
今日、エネルギーフィールドを渡る際に、
アリサさまがわたくしをしっかりと
抱き締めて下さった時なんですの……。
貴女さまに抱き抱えられて、光の海を渡った時、
わたくし、とっても満たされた気持ちに
なる事が出来ましたのよ…………。」
彼女の身体は小刻みに震えていた。
スーリアもきっと色々と心 拠るものなく、ずっと不安だったのかもしれない。
こんな私の存在で少しでもその不安が和らぐなら、それは私自身にとっても救いになる気がした。
なんとなく自然と彼女を抱き締める腕に少しだけ力をこめた。
「わたくし、このままいつまでも
アリサさまのおそばに………………」
彼女の甘い息が漏れた。
「……スーリア。まずは私たち2人で、
セシル殿下を天国へと見送ろう。
その後のことはその時考えるとしよう。
しかしながら私も恐らくは
スーリアと同じ気持ちだろうと思う。
私もスーリアと共に過ごす日々が
楽しくてたまらないから「アリサさま……!」
スーリアが頬を寄せてきて、彼女の涙が私の頬に触れた。
「ふふっ。今夜はいつになくスーリアが
可愛いな「まぁ! わたくしはいつだって
愛らしい令嬢であるつもりですわよ!」
「「あはははははははは!!」」
スーリアの返しに思わず声を出して笑ってしまったが、その笑い声が彼女と重なった。
「ありがとうございますアリサさま……。
お陰でぐっすりと眠れそうです……わ…………。」
「それは良かった。私のほうも
先ほどより心が軽くなったのか
なんとか眠りにつくことが出来そ「……zzzz」
なんと。
私との会話も終わらないうちに、スーリアは寝息を立て始めた。
「ふふふっ」
私はスーリアの髪をそっとなでる。
明るい所で見れば、燃えるように美しい赤毛の髪を。
さて。
細かい事や難しい事は置いておいて、兄さま姉さまと共に明日にはこの叡霊聖廟を攻略してしまおう。とりあえずはそれだけを考えよう。
スーリアにも告げた通り、やるべき事・考えることがシンプルになったお陰か私も程よく睡魔に襲われたので、右腕でスーリアを抱きながらまぶたを閉じた。
個人的に「百合」は苦手なんですけど、
何でかわからないけどこんな展開になりました笑
タイトル和訳「眠れない夜は貴女のぬくもりを」
(2026/10/04)




