第24話▷ Cathedral
大聖堂って聞くと、
メガテン思い出しません? 私だけ?
(年齢がバレるか)
ルーンネリア王国において、女神ノネミアを信仰する者は非常に多く、国民に深く根付いている。
それは間違いなくノネミア教の総本山、ノネミア総使徒宮殿を擁する聖都が存在しているからだろう。
そしてここ王都にも、使徒宮殿に匹敵するほどの規模を誇る大聖堂が存在している。
ノネミア教の頂点に位置する教皇 猊下においても半年サイクルで王都と聖都を行き来して滞在しており、この王都大聖堂も相当に重要な存在意義がある事を示している。
「なんと、、、荘厳な、、、、、「ですわね」
ふもとの入口で、とんでもない高さでそびえる大聖堂を見上げて感嘆の声が漏れる。
王都で生まれ育ったスーリアにとっては見慣れたものなのだろうが、他国の出自である私はこの大聖堂を前にして思わず声を出さずにはいられなかったのだ。
半月ほど前、セシル王子の墓前を訪れた時も思った事だが、こうして目の前まで来ると何とも言えない大きな力に圧倒されている気がしてならないのだ。
「さっ、アリサさま。入りますわよ。」
「あっ、うん」
スーリアに促され、慌てて彼女の後を追った。
「…………………………っっ」
外観も相当なものだったが、大聖堂の内装もまるで別世界のように絢爛なものだった。
大理石で作られた柱の数々は、きめ細かい彫刻が施されており、1本1本が芸術品のようにきらめいている。
入ってすぐの大広間は、室内にもかかわらず大きな噴水から虹色の水があふれており、壁には何百枚ものステンドグラス、それも意匠の凝った細かいゴシック模様に飾られた逸品がひしめいている。
「アリサさま?」
「あっ、すまない」
目に映るものすべてに心を奪われて、知らないうちに思わず立ち止まっていた私にスーリアが声を掛けた。
そして私とスーリアはこの広大な礼拝堂の最奥に鎮座する巨大な女神像に礼拝し祈りを捧げた。
(……………………うん。)
曲りなりにも私は聖騎士だ。
聖剣術と神聖術を行使する聖騎士の存在意義の根底には神への崇拝と信仰がある。
改めて自分が自分であること、そしてこうしてこの場に立てること。
そのことに喜びを感じている自分をとても誇らしく、そして嬉しく思えた。
「さて。無事に礼拝も済みましたことですし、
次に総司教さまにお目通り致しましょう。」
「!!!!」
いや。
ちょっと待って欲しい。
スーリアはこの国の公爵令嬢なのだから、きっと何度も会いまみえているのだろうが、総司教さまと言えば、この大聖堂の最高権力者ではないか!
つまるところ、ノネミア神教においては枢機卿に匹敵する、いやそれ以上か? とにかく教皇猊下に次ぐNo.2ではないか!!
セシル王子の御霊を降ろすための素材である"聖者の灰"を入手するために大聖堂地下に広がるというダンジョン「叡霊聖廟」に入る許可を得るためとは言え、ノネミア正教の総司教さまと面会せねばならないとか聞いてないのだが……!
神職に就く身としては、雲の上の存在過ぎる!!
「………………? アリサさま?
まったく何をしておいでなんですか。
ほら、行きますわよ「あっ、ちょっ!」
うろたえてまごつく私の手をスーリアが思い切り引っ張る。
「貴女さまも神聖ラスティア帝国の皇女さまで
ございますのよ?
地位的にも身分的にも総司教さまに
引け目を感じることはまったくございませんわ。」
そう小声でささやくスーリアの笑顔がこぼれた。
「……っ。そ、それは内緒だと言ったではないか!
ばかっ「はいはいさようでございましたわね」
私の照れ隠しが滲んだ恨み言も、涼しい顔のスーリアに秒で流された。
* * *
私たちが通された貴賓室の内装も、礼拝堂に負けない厳かな装飾で埋め尽くされていた。
目の前の大きく煌びやかなテーブルには酒精を抜いた葡萄酒 (もはや酒ではないが)が注がれている。
ワインは神の血とも言われている所以で、教会ではお茶の代わりに提供されるのだろう。
(……こんなのじゃ酔えませんですわ)
私の横から何か聞こえた気がしたが、聞こえないふりをした。
コンコン
入口のドアがノックされ、こちらの返答のあとに開かれる。
入室してきた豪華な法衣に身を包んだ男性を見るに、彼が総司教なのだろう。
私とスーリアは立ち上がり彼を出迎える。
「いや、お待たせしてしまいました。
誠に申し訳ない。本日もいつもと変わらず
大変麗しゅうございますな、スーリアナ様。」
「いえ、こちらこそお忙しい中 不躾に
突然の来訪大変失礼致しました、ライル総司教。
本日のご機嫌は如何でございますか。」
うむ。スーリアも余所行きフォームなのだろうか。
しっかりと総司教の言葉を聞き終えてから返答している。
握手する笑顔がいつもの天真爛漫なものではなく、明らかに社交的かつ形式的な表情に見える。
―――流石は、公爵令嬢ということか。
「はははっ。
スーリアナ様にお会い出来た日ですから。
ノネミア様の御心のままに
珠玉の一日になっておりますな。」
「まぁ。お上手ですこと。」
いつの間にどこから出したのか知らないが、スーリアは扇子を口に当てて上品に微笑んだ。
そして彼女が半歩ほど後ろに下がり、総司教の視線が私に向けられた。
「………………っと、
す、スーリアナさまの護衛をしてる、おります、
冒険者の、アリサ=スメラギ、と、
申す、します。」
慣れない、そしてぎこちない口調で自己紹介しながら頭を下げた。
―――くっ、、、 他者に頭を下げたことなど
今まで1度たりともなかったが、
大したことないと思ってた自分の誤りを
認めるべきだな………………。
つい先ほどまで「総司教」という肩書きに構えていた事もどこ吹く風で、自分でも経験したことのない感情に襲われて、何とも言えない気持ちになりかけてしまった。
「さ、挨拶もこの辺で、本題に入らせて頂いても
よろしゅうございますかしら。」
間髪入れずのスーリアの発言で、私も頭を上げる事が出来た。
「……はい。ではおふた方ともどうぞ
お掛けになって楽になさって下さい。
しかしながら、公爵令嬢ほどのお方でも、
この拙僧の力が必要なことが
あるとは思えませぬが、何なりと。」
彼の言葉を受けて豪奢なソファーに腰を沈めた我々に、ライル総司教も向かいに腰を下ろしながら穏やかな表情のままで返答してきた。
「……実は、わたくしどもは とあるクエストに
必要な素材のひとつ、"聖者の灰"を
求めておるのですが、こちらで
ご都合付けていただくわけには……
参りませんわよね、、、」
「"聖者の灰"、でございますか…………。」
スーリアの切り出した要望を聞いたライル総司教は、軽くひと声唸ったあとに考え込んでしまった。
「……スーリアナ様はご存知かわかりかねますが、
"聖者の灰"は確かにこの大聖堂の"叡霊聖廟"にて
入手可能なものですが、聖廟の最奥まで到達し、
そこに祀られている聖人たちに認められた証と
して獲得出来るもので、それ相応の神聖力と
存在価値を秘めるものでございます。
ですので、市場に出回ることもなければ
もちろんこの場でもそう簡単にお譲り出来る
ものではございませ「やはりそうですわよね」
ライル総司教はかなりの早口でまくし立てて来たのだが、さすがに我慢出来なかったのかスーリアは司教の語尾の最後にかぶせて答えていた。
「ある程度予想しておりましたわ。
危険を冒さず入手出来るならそれに越したことは
ないと思っておりましたが、やはり自分の足で
直接 聖廟の最奥へ赴かなければ
ならないということでございますわね。」
ふむ。恐らくは聖廟への入場許可が本丸だったのだろうな。
私はスーリアの隣で黙って腕組みしたまま、思わず感心して頷いていた。
「恐れながらスーリアナ様、この大聖堂の
地下に広がる"叡霊聖廟"は確かにダンジョンに
分類されますが、ノネミア正教の聖地で
ございます。たとえ公爵令嬢とは言え、
一介の冒険者が足を踏み入れることは
認める訳には参りません。」
ライル総司教は厳しい表情を崩さず、我々にNoを突きつけてきた。
大聖堂が所有するダンジョンともなるとここまで厳しく管理されているのか。
「おい、スーリアどうす「入場許可の条件を
お伺いしてもよろしくて? ライル総司教。」
たまらず口を開いた私の言葉は、スーリアに流されただけでなくかぶせられて総司教に向けられた。
「"叡霊聖廟"はノネミア正教の長い歴史の中で
排出した大教皇や聖女さまたち、歴代の聖人たちの
魂を祀っている聖地の中の聖地です。
ダンジョンという性質を持ってはおりますが
高位の聖職、神職の職業の方のみ
立ち入ることを許可しておりま「あらっ!
それならばなんにも問題はございませんわね!!」
またも総司教の言葉にかぶせたスーリアが、にっこりと笑顔を浮かべながら私の方を向いた。
「だって、わたくしの横にいらっしゃるアリサさまは
聖騎士でございますもの!!」
「へ?」「えっちょっ」
スーリアの言葉に総司教も私も思わず声が漏れる。
「ライル総司教もご存知でございますわよね?
"聖騎士"と言えば神聖術を行使出来る
騎士系 職業でかなりの高位に位置しておりまして
身分も地位も実力も希少性もすべて兼ね備えた、
神職の中では間違いなく物理最強とも言える
至高の職業…………! こちらのアリサさまが、
その【聖騎士】でございますわ。」
「…………………………………………………………。」
「…………………………………………………………。」
あまりのスーリアの早口で圧のある剣幕に、私もライル総司教も呆気にとられ、言葉を失ってしまった。
恐らくこの貴賓室に流れる時間も一瞬止まったのではないだろうか。
彼女のあまりの持ち上げっぷりに顔をひきつらせながら、私はそう思わずにはいられなかった。
普通に挨拶してダンジョン突入するはずが、
総司教と面会しただけで4000文字超えました笑
聖廟に入るのは次回以降になりますかね^^
タイトル和訳「大聖堂」
(2026/09/09)




