第15話▷ A place where he sleeps peacefully
王都編本格的にスタートです。
ありちゃんの物語がどんな風に着地するのか
作者である自分にもまだわかりませんが
そういう部分も楽しみながら進めて行きたいと思っております。
道中、立ち寄った村で盗賊団を壊滅させたり、街道が通る山岳で立ち塞がったBランクモンスターのサイクロプスを殲滅したりなど、ちょっとした暇つぶしを挟みつつ、私を乗せた馬車は無事に王都グランネリアに到着した。
「いやぁ、アリサさんいる安心感が
ハンパなかったよ!」
御者が別れ際にそう告げてきたが、割と誇張しての表現ではないかと思っている。
確かにそこら辺の冒険者よりかは多少なりとも腕が立つのかもしれないが、私はまだ冒険者となって2ヶ月にも満たない。
ランクとレベルこそ上級者扱いされてもおかしくない域に達しているのかもしれないが、私はまだまだ初心者だ。新人なのだ。
奢り高ぶらず謙虚な気持ちでいるよう心がけている。
しかし―――――
「―――なんと、華やかな………………!」
などという他愛もない思惑は、目に映る王都の街並みを前に消し飛んでしまった。
軍事国家特有の無骨さで質実剛健な祖国ラスティアと違い、ここルーンネリアはなんとも色鮮やかで華やかなイメージだったが、王都グランネリアに至っては目に映るものすべてが個性をあふれんばかりに主張していた。
白をメインに統一された明るい色彩の街並みや、センスがまるで芸術品を思わせるデザインの尖塔が幾つも伸びる教会群。
大通りや広場にいくつも並ぶ出店や、闊歩する人種の顔ぶれの豊かさ。
都市全体を覆い尽くす躍動感と高揚感が、知らず知らずのうちに私にも伝播してしまったような感覚を憶えた。
「……く、串焼きをひとつ、貰えないだろうか……。」
雰囲気に呑まれて思わず屋台で肉の串焼きを1本注文してしまった。
「あいよ。銅貨6枚ね。」
代金を支払い、おそるおそる手渡された串焼きを口に運ぶ―――
「――――――!!!!」
濃厚な肉の旨みと甘みが、あふれだす肉汁と共に一瞬で私の口の中すべてを支配した。
「ハハッ。ルーンネリアと言えば、
ワイルドボアの串焼きよ。どうだい姉ちゃん、
美味いだろ?」
「いっ、いやっ、これは、美味しい、です。。」
一口かじってからはもう止まらない。
夢中になってるうちに、あっという間に完食してしまった。
「だろっ? 姉ちゃんべっぴんさんだし
も1本サービスしちゃうかねw」
「え? え? え?? いっ、いいの、か?」
「若ぇもんが遠慮すんなっつーの!
ほら、おあがりよ!」
「あ、ありがとう……。では、遠慮なく……。」
屋台の主人の厚意に甘えて、もう1本受け取り口に運ぶ。
―――ううっ、美味い…………!!
「アハハハハっ!!
そこまで幸せそうな笑顔見してくれるなんて
こっちも嬉しいねー!」
「………………。」
そ、そんなに嬉しそうだったのだろうか。
急に恥ずかしくなった。
思わず屋台の主人から顔を逸らしてしまった。
さすがに串焼きも2本目だからだろうか。
堪能しながらも周囲に目を配る余裕が出てきた。
ここは王都でも一番の大通りに当たるのだろう。
賑わう人々であふれんばかりだ。
「……今日は、祭かなにかあるのだろうか。」
思わず独り言が口から漏れてしまった。
「アハハハハハハハハ!!!!
王都じゃこれが普通よ。日常よ。」
耳ざとく私の独り言を拾った屋台の主人が満面の笑顔で答えてくれた。
―――こ、これが、日常?
悔しいことだが、ここまでの活気と賑わいは祖国ラスティアではお目にかかったことはない。
文化の違いとは言え、ルーンネリア王国には一目置かざるを得ないと、素直に思った。
先程も述べたが行き交う人々も多種多様で、実に様々な人種や種族で満ち溢れている。
恥ずかしながら祖国ラスティアは、表立ってはいないものの思想的に若干、人間種至上主義なきらいがあったため、構成される国民の大多数は人間種であった。
と言うのは、少し前まで帝国は奴隷制を敷いて人間種以外の亜人を奴隷として使役していたという悪しき、そしておぞましき歴史があったが故、国内の人間種以外の亜人が少ない傾向にあるのかもしれない。
それに比べてルーンネリアはなんと拓けた文化であろうか。
すれ違う顔ぶれを見るに、人間種が多いことは多いのだが、それに負けないくらいその他の亜人たちの顔を見ることが出来る。
エルフ、ドワーフはもとより、
ホビット、グラスランナーだけでなく、
犬・猫・兎などバラエティ豊かな獣人、
更にはコボルト、オーガ、果ては吸血鬼まで。
何処で聞きかじったか記憶にないのだが、まさに【人種のるつぼ】という言葉に相応しい景色である。
―――ある意味、理想郷に近いのかもしれないな。
特に理由はないが、何となくそう思った。
皇帝陛下も帝国内の亜人融和政策を推進してはいるが、旧派閥を中心とした有力貴族たちの反発もありなかなか思うようにいかないと零していた。
この見たままの光景を父上にお話出来れば、どんな顔をしてくれるだろうか。
「―――いや、いかんいかん。」
駄目だ。私は祖国を出奔した身だ。
例え可能だとしても「帰る」という選択肢を頭に置いていてはいけない。
それは甘えに繋がる。
逃げる選択肢が生まれてしまう。
私は、私だけの"運命"を見つけ出して、この胸中に空いている大きな喪失感を満たさなければならないのだ。
だから異国の都に浮き足立ってはしゃいでいるようでは駄目なのだ。
「ご馳走様、主人。とても美味しかった。」
「あいよ! また来てくれよな!!」
サービスの2本目も美味しく戴いた私は、屋台の主人に礼を告げてその場を離れる。
とりあえず、王都の観光などは後日に回すことにして、それなりの宿を確保した私はその足で兼ねてからの予定通り、とある場所へ向かうことにした。
私に、旅立つ切っ掛けをくれた、
"彼"に挨拶をせねばならない。
何を置いても真っ先に。
そう。
私は王都を訪れたら一番先に
セシル王子が眠る王族墓稜へ向かうと決めていた。
「―――やっと逢える……。」
例え相手が故人だとしても、私は高鳴る胸を抑えることが出来なかった。
* * *
王族たちが葬られている墓稜は、観光案内所で聞いた通り王都外れの小高い丘にそびえ立つノネミア正教会の敷地内にあった。
そこはやはり王都一の教会だけあって、郊外にあるとは言え王都内からでも抜群の存在感を放っていた。
故に王都に来たばかりの私でも迷わずたどり着く事が出来たのだ。
教会内に入り、軽く祭壇に参拝し司教から形式的に洗礼を受ける。
祖国ラスティアでもノネミア神は多くの信仰を集めていたが、どちらかというと大地神ザックへの信仰がより厚かった気がする。
しかしルーンネリアでは完全に慈愛の神ノネミアの信仰が主力のようだ。
きっと王国内にノネミア教の総本山と言われる聖都アークライトが存在していることも関係しているのかもしれない。
そのうち聖都にも行ってみるのもいいかもしれないな。
そんな事を思いながら、拝観料を納めて王族陵墓へと案内してもらう。
通常の墓地は無料で立ち入る事が出来るのだが、流石に王族が葬られている区画は厳重に警備されているようで、中に入るにも身分証明と拝観料という名の手数料を求められる。
(確かに王族の墓が荒らされたりでもしたら、
問題なだけでなく威信にも関わるだろうしな。)
そんなことを思いながら歩みを進める。
気にしないように、冷静でいられるように、
特に意識しないようにしていたのだが、、、
私の緊張と心臓の鼓動は高まっていく……。
もうすぐ。
もうすぐだ。
生きてお目にかかることは遂に叶わなかったが、
私の運命、
私の欠けていた半身、
私の生きる目的であっただろう、
運命の人、セシル王子と
やっと対面する事が出来るのだ……。
足元がふわふわする。
地に足が付かない。
上手く息が吸えない。
口から自分の心臓が出てきてしまいそうだ。
墓前に立ったところで私は何も出来ないし、
何が変わるわけでもない。
それは解っている。
痛いほど解っている。
それでも。
それでも私は、セシル王子に逢いたいのだ。
セシル王子が眠っている地に立って、
その存在を間近に確かめたいのだ。
"運命"などと軽々しく口にしてはいるが、
この感覚が私だけの独りよがりなことも
充分十二分に解っている。
笑いたければ笑えばいい。
それでも、私にとっては何よりも大事な事なのだ。
私は、セシル王子がこの世に生きていたという証を
目に焼き付けて、確かめて、理解して、
呑みこんで、自分の中で咀嚼して、、、
そうでないと、私は進めない。
これからの旅も、新しい運命を探すことも、
そうしなければ先に進めないのだ―――――
「――――――――――え?」
私は、セシル王子の墓前に立っていた。
【セシル=ランスフォード=ルーンネリア】
墓銘にもしっかり刻まれている。
しかし…………
しかし、何なのだろう。
何なのだろう、この感覚は。
余りに現実感がない。
思っていたもの、期待していたものとは、
全く違う、冷めきった感覚・感情。
王族らしく、慎ましくも豪華に、
質素ながらも煌びやかな墓標。
故人とは言え、"運命の人"との初めての対面。
待ちに待っていた、その対面。
しかし私の胸中には、
何の感慨も浮かんでは来なかった………………。
こんなものなのだろうか。
思っていたよりも私が冷血で非情なのだろうか。
それとも、所詮セシル王子は、
私の"運命"ではなかったのだろうか。
いずれにせよ、私にはここにセシル王子が眠っていると言われても全くもって、特に何か感じるものがなかったのだ………………。
「……………………………………………………。」
うん。
こんなものなのかもしれない。
何かの拍子で浮かれてしまった勘違いだったのかもしれない。肩透かしもいいところだ。
大通りの屋台で購入した、白百合の花束を供えて立ち上がる。
きっと、気の迷いだったのだろう。
哀しくもあり、寂しくもあるが。
今の私の心境から冷静に推測するに、
きっとそうなのだろう。
「…………。」
空を見上げる。
初秋特有の透き通るような青空。
晴れ晴れとした、どこまでも抜けるような青空。
色々と抱えていたものや、もやもやしたものから、
一気に解放されたような、そんな感覚……。
しかし、気が抜けたからだろうか。
脱力感と徒労感が容赦なく私に襲いかかってきた。
「―――――さて、これからどうしたものか。」
旅の目的や原動力を半分失くしてしまった私は、途方に暮れ始めていた………………。
「―――――あら。先客がいらっしゃったのね。」
「!!??」
突然の背後からの声に振り向く。
そこには、喪服だろうか漆黒のドレスを身に纏い、
真っ黒な日傘を差した令嬢が寂しげな笑顔で佇んでいた。
年齢は恐らく私と同じくらい、同世代だろうか。
そして、何よりもその燃えるような真紅の髪と瞳の色に思わず呑まれてしまった。
「……あ、その、えっと…………、、、」
咄嗟に言葉が出てこない。
戸惑い立ち尽くす私に、その令嬢は続けて言葉を重ねてきた。
「……もう三月も経つけれど、
まだわたくし以外に殿下の墓前に参って下さる方が
いらしたなんて、、、、、」
令嬢はハンカチで目元を軽く拭っている。
「……あ。えっと、セシル王子の叡名は、
た、旅の冒険者の私にも聞き及んでいて、
その、、、、」
必死に言葉を絞り出す。
気の利いた事が思い浮かばない。
しかしその赤い瞳の令嬢は、
そんな私に穏やかな微笑みを向けてきた。
「……それはわたくしとしても、
とても嬉しく思います…………。
………………わたくし、ミルディアス公爵家の
スーリアナ=ブロム=ミルディアス と申します。
もし差し支えなければ、貴女の御名前を
お伺いしてもよろしいかしら。。。」
これが、私と公爵令嬢スーリアナの出逢いだった。
ありちゃんがセシルのお墓を見ても何にも思わないのは
やっぱりそこにセシルの魂がないからなんですね~
そういうの無意識にわかっちゃってるっていう風に
表現したかったんですけど、下手くそなもので
なかなか上手く行かない………………。
ほんで、やっぱ幕間だけの出番では勿体ないので
悪役令嬢スーリアさんも
本格的に活躍して貰おうと思って
物語に組み込んでみました。
タイトルの和訳は「彼が安らかに眠る場所」でした。
(2026/07/06)




