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幕間③:あるはずのない海

ここで軽く幕間です。


時系列的には、

ありちゃんが旅立つふた月くらい前だと

思っていただければ。

小雨が降りしきる中、その葬列は哀しみを乗せて進んでいた。


参列者の人数の多さ、装いの豪華さを見るに故人は相当の身分のあった人物だったことが見て取れた。


その行列の中心には、金色の装飾が散りばめられた真っ黒な(ひつぎ)が、屈強な4人の騎士によって(かつ)がれている。


それを先導している絢爛(けんらん)な馬車には、ルーンネリア王国旗がはためいており、恐らく王族が乗っているのかもしれない。


だとするならば、亡くなった故人は王族の誰かなのであろう。


そして参列者の嘆きようを見るに、その故人はとても愛されていたのだろう。


その様子を崖の上から眺めていた青年がため息をついた。




「…………どうせ俺のことなんて

そのうち忘れるくせに。

哀しむフリなんてしなくてもいいのにさ。」




その青年は、青年と呼ぶにはまだあどけない面持(おもも)ちではあったが、深海のように深い瞳は泰然としており、年齢にそぐわない落ち着きを醸し出していた。




『いや、(あるじ)よ。

私から見ても皆、(あるじ)の死を哀しんでいる。

この真眼は(いつわ)りを映さぬ。』


実に不可思議なことに、青年が首から下げている片眼鏡(モノクル)が発した言葉のようだ。


「それは"今"の話でしょ。

ずっと哀しんで生きてくわけにも行かないんだし

そもそも俺がそこら辺の凡人だったら

あそこまで哀しまないと思うんだよね。」


『いやっ! そんなことはある筈なかろう!』


片眼鏡(モノクル)に身を宿した存在が、青年の考えを(たしな)める。


「うーん。父上も他の重臣(みんな)もさ、

セシル"王子"の天賦の才を惜しんでいるんであって

誰もセシル=ランスフォード=ルーンネリアという

存在自体に価値を見出していたのかというと

俺はそうでもないと思うんだよね。」


『それこそ有り得ぬ! 私が見るに、

例え(あるじ)が凡人であっても

国王陛下は変わらぬ愛を貴公に注いでおったと

私は思うぞ??』


その言葉を聞いてその青年、セシルは自分の失言を悟った。


「ご、ごめん、オーディン…………。

オーディンも息子さんを亡くしてるんだもんね……。

ちょっと無神経だった。」


それを受けて片眼鏡(モノクル)がチカチカと点滅する。


『フフフ。気にするでない。

バルドルはラグナロクののちに復活するのでな。

それはそうと。(あるじ)も私に接するように、、

他の者たちにも今のように接して()れば

良かったであろうに「やだよ面倒臭い。」


片眼鏡(モノクル)に身を宿しているオーディンの揶揄(やゆ)をピシャリと(さえぎ)ると、セシルは【浮遊(レビテーション)】を唱えて空中から通り過ぎてしまった参列を追った。


『面倒臭いと言う割には、(あるじ)も遺した者たちの事が

気になっておるのではないか?

だからこうしてこっそりと見ておるのだろう?』


「………………。」


オーディンの問いに、セシルは答えなかった。


そして葬列は墓地へとたどり着いていた。


墓標のふもとが四角く掘られており、そこに近親者の嘆きとともに(ひつぎ)が納められていく。


「…………あの中身が、俺にそっくりの

人造人間(ホムンクルス)だって知ったら、

みんなどんな顔するのかな。」


セシルはどこか自嘲(じちょう)気味に(つぶや)いた。


『……まったく。本当に(あるじ)殿は(こじ)らせておるな。

そこまでの手間をかけてまで自分の死を

偽装する必要があったのか?』


「そりゃあるでしょ。

あのまま王国にいたら自由もないし身の安全もないし

妾腹の俺が父上の望み通り王位を継ごうものなら

他の王子を擁立している派閥に加えて、

上流から下流まで国中の貴族がそれぞれに分かれて

間違いなく王国は分裂して崩壊してたよ。」


その予想は彼のスキル【深淵】を通してセシル自身には()()()()()未来であった。


もちろん、セシル自身の能力を駆使すればそのような悲劇を回避することは造作もないことではあった。


しかしながらセシルはそこまで労力を割いて修正した未来を特段求めている訳でもなく、彼の言う通り、ただ「面倒臭い」だけであったのだ。




「うわあああああああああ!!!!

セシルさまあああああああああ!!!!!!」




(ひつぎ)が遂に土に埋まろうかと言う時、ひと際大きく泣き叫ぶ声がセシルのいる場所にも届いてきた。


彼が視線を向けると、ふた掻きほど土が掛けられた(ひつぎ)に覆いかぶさって嗚咽(おえつ)している女性が目に映った。




『……ちゃんと(あるじ)の死を哀しんでいる者も

()るではないか。』

「…………うん。相変わらずバカだな、スーリア…。」




セシルから「スーリア」と呼ばれた令嬢は、彼に偽装された人造人間(ホムンクルス)が納められている(ひつぎ)に哀しみをぶつけている。




『あそこまでの悲嘆、、、

(あるじ)、愛されておったのだな。』

「だからこそだよ。彼女は俺なんかに縛られていたら

どう足掻いても不幸にしかならなかったよ。」




彼女、スーリアナ=ブロム=ミルディアスは、王族に次ぐ地位と権力を持つ三大公爵家の家柄の令嬢である。


『しかし、(あるじ)の婚約者であったのだろう?』

「正式じゃないけどね。」


実際、妾腹のセシルでも三大公爵家のひとつミルディアス家の力があれば王位を継承することも容易であっただろう。


そしてそれ以前に、出逢った幼い頃から変わらずセシルに全力の愛を注いでいたスーリアナのことを、セシル自身も憎からずは思っていた。




だが、セシルは前世の記憶を持っていた。

運命の相手と結ばれる幸せを知っていたのだ。


自分だけの"本物"というものを知っていたのだ。




それの前では如何(いか)なる女性でも、彼の前では色褪(いろあ)せてくすんでしまうのだ。




「まったく。前世に続いて今世でも、

幼なじみを選ばないという、ね……。」




セシルはまたも自嘲(じちょう)気味に(つぶや)くと、自身の埋葬から背を向けた。


『む。もう行くのか? (あるじ)。』

「うん。もう特に何もないし。」


晴れて自由の身となった彼は、今世でも"運命の人"を探しださねばならない。


その為には不必要なしがらみなど邪魔にしか過ぎないのであった。




「さってと。(いと)しのアリサは何処(どこ)にいるのかな。」




彼が愛する、魂の伴侶もこの世界に来ていることは確信している。




ならば後は逢うだけだ。




いつの間にか、雨は()んでいた。


王子として生まれて手にしたあらゆる物を、なんの未練もなくあっさりと手放して身軽になったセシルの瞳は、遥か遠くを見据えていた。

あんまり描写出来ませんでしたが、

そのままの未来ではスーリアナ嬢は

セシルに近づく女を公爵家の権力などで叩き潰したり、

セシルLove過ぎて色々悪事に手を染めたりして

ガチの「悪役令嬢」になってしまうところでしたw


(2026/06/12)

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