第9話▷生ける伝説
ありちゃんの緒戦がまさか、
対人戦とは思いませんでした笑
てかそもそもこの作品の対人戦も初じゃないかな?
(ボルさんとバーンのいざこざは含まず)
我が神聖ラスティア帝国の長い歴史の中でも、【勇者】の職業を授かった人物は数人しかいないらしい。
戦略・武勇に非常に優れている皇帝陛下ですら、【英雄】の職業止まりである。
しかしアルクスフォン兄さまは、女神さまの恩寵か、はたまた技能神さまの慧眼かは解らないが、【英雄】よりも更に上の存在、【勇者】という職業を授かっている。
帝国の北の果てに聳えるべルート大火山に1人 赴き、そこに顕現したとされる【七大災厄】の一柱、炎神ベノサート・フェリスを討ち滅ぼして帰参した兄さまは、我が国の"生ける神話"とさえ評されている…………。
「…………申し訳ございません、兄上。
私は、自分が納得のいく"なにか"、、、
運命と呼べるほどの自分にとって
大切な"なにか"を探しにゆきたいのです…………。
ですので、どうか目を瞑って頂き、
私を通して頂けませんでしょうか。」
無駄だろうな、とは思いつつ臨戦態勢を解かずに説得を試みた。
「僕もさ、、、」
兄さまも構えを緩めず口を開いた。
ライトブルーの髪の毛がふわっと揺れたのがここからでも見えた。
「ここを通してあげたい気持ちはあるんだけどさ、
アリサを行かせてしまうと、皇宮からアリサが
居なくなってしまう訳だろう?
僕はいつでも愛するアリサに逢いたいんだよ。
それに僕のスキル【信託】が告げてるんだよ。
このままアリサを行かせては
いけないってねッッッ「【パリィ】ッ!!」
―――またも間一髪だった…………!
兄さまが放った剣術スキル【剣閃】を瞬時に【パリィ】で防ぐ。
背中に冷たい汗が流れるのが自分でも解った。
「……成程。
授かったのは聖騎士の職業か。
高潔で、そして誇り高いアリサには
とてもよく似合っている職業だね。」
兄さまがサッと後ろに飛び退き、再び私と距離を置いた。
恐らく私の所持している"剣術マスタリー"による剣戟を警戒してのことだろう。
確かに私が授かった職業【聖騎士】は防御に特化した職業だ。元々の職業能力に加えこの聖騎士鎧と聖騎士大盾の性能も相まって、生半可な攻撃ではビクともしない自負はある。
しかし、それだけで【勇者】の攻撃を凌げるかと問われれば、それは難しいと答えるしかないかもしれない。
私が所持している基本スキルも剣術・聖剣術・盾術だが、どれもまだ聖騎士になりたての職業熟練度が低いままである。
剣技は基本技の近接強攻撃【強撃】。
聖剣術も基本技の、実体を伴う攻撃を剣で弾き回避するスキル技【パリィ】。
盾術においても基本技と呼べるか怪しいレベルの、盾で体当たりするだけの【シールドバッシュ】しか所持していない。
要するに私は近接攻撃しか攻撃手段がないのである。
それに引きかえ、あらゆる職業の中でも戦闘能力最上位とも評される職業【勇者】は、近接攻撃・遠距離攻撃どちらもバランス良く強力なスキル技を所持している。
手始めに私に放ってきた遠距離攻撃の斬撃【ソニックスラッシュ】を始め、剣戟から勇者の闘気を放つ【ブレイブストライク】などが特に脅威と言える。
仮に近接攻撃戦に持ち込めたとしても【天地鳴動剣】や【神羅万象斬】など発動されたら、とても大盾やパリィなどでは防げない気がする。
(とは言え兄さまの口から伺っただけで、
それらは実際にこの目で見たスキル技
という訳ではないが……。)
しかもそれだけではない。
私の失踪や場所を確定した【信託】【直感】などの情報収集系の上位スキルを所持し、私を先回りした高速移動スキル【神速】に加え、今回直接関係ないが【魔王特攻】のパッシブスキルも有している。
……つくづく思う。
【勇者】という職業は、化け物だ…………。
先ほど、『勝てるだろうか』などと大それた事を考えたが、戦闘において私が兄さまに勝利する確率は限りなくゼロに等しい。
この場においての私にとっての『勝利』とは、兄さまを無力化し、なんとか逃げ遂せた場合のみであろう―――――
「【ブレイブストライク】!!」
シュガァァァ!!!!
アルクスフォン兄さまが突き出した神剣ソムレインに光が収縮し、一気に解き放たれる。
―――こ、これは、受けてはいけない!!
瞬時に大盾で受け止める危険性を察知し、縮地のステップで右に数歩飛び退き、光の光線を回避する。
「流石の聖騎士でもそれは
受けきれないと判断したか。
うん。いい判断だ……ッッと!!」
そう言いながら兄さまは愉快そうに続けざま【ブレイブストライク】を今度は2発放ってきた。
「……っ。―――ッッッッ!!」
一発目を避けた先に、先回りして放たれていた2発目の光線……!
ガィィィン……!!
連続回避はどう足掻いても不可能だったので、聖騎士の大盾を斜めに構えてダメージを逃がして回避する。
「……へぇ。やるじゃないか。
流石は僕のアリサ。」
「…………ハァハァ」
すっかり楽しんでいる様子の兄さまの言葉に私は返答する余裕さえなかった。
「でも、それもいつまでもつかな?」
シュン シュン シュンン
なおも連発される光線に、次第に追い詰められていく。
ガィン! ガィィィン!!
なんとか大盾で斜めに逸らしてダメージを逃がしてはいるものの、まだ表面上はなんともなさそうだがこの聖騎士の大盾もいつまでもつか解らない。
そして実際、何発かはダメージを逃がしきれずに被弾している。
幸い、フロルから受け継いだ聖騎士鎧の高性能防御力に助けられて、致命的な一撃には至っていないが、戦況は明らかにジリ貧である。
―――しかし、私には狙いがあった。
いくら兄さまと言えど、勇者の高火力高出力のスキルを無限に放てる訳ではないはずだ。
私との開戦前には【信託】【直感】【神速】など高コストのスキルを連発したと言っていた。
そして今は【ブレイブストライク】という高火力スキル技を連続して使用している。
だから私は、なんとか兄さまの猛攻を凌ぎ切り、兄さまの持つスキルポイントの枯渇を狙う作戦を取る事にしたのだ。
スキル技を使えなくなった兄さまは流石に近接戦を取るしかない。
そこで私の"剣術マスタリー"のスキルで、通常剣技で圧倒する。
―――これなら私でも兄さまに勝てる!
それに一縷の望みを託して、私は兄さまの攻撃に耐え続けているのだ。
「…………ん!?」
―――来た!!!
ついに兄さまの手が止まる。
恐らく、兄さまのスキルポイントが尽きたのだ。
よし。
勝負はこれからだ。
私は再びソウルオブナイトを構えて兄さまに突撃しようとした。
「…………ッ!!?」
しかし私は兄さまの満面の笑みに思わず足を止める。
なんだ?
何故笑っていられるんだ?
現に兄さまからの猛攻は沈黙している。
私は違和感と嫌な予感に襲われて、再び防御体勢を取った。
「いやぁ、頑張りすぎちゃったかな。
僕のスキルポイント、使い切ってしまったよ。」
そう言いながら兄さまは懐から何か小瓶を取り出して口に含んだ。
「でも10本くらい高級スキルポーションを
持ってきてるからさ、何の心配もいらないよ。
しっかりとアリサに教育して僕の想いを
理解させなきゃいけないからね。
よし! これで僕のスキルポイントも全回復したし、
止まってる暇なんてないんだよね。」
兄さまの手から、飲み干して空になった小瓶が落ちた。
「さて、アリサ。
第2ラウンドと行こうか。
手足を折ってでも僕が皇宮に連れて帰るからね。」
ありちゃんは家族や周りのみんなに愛されてますが、
ちゃんと彼女の気持ちを思いやって尊重してる
皇帝陛下やフロルさんのような愛もあれば、
アルクスフォン皇子みたいに自分を押し付ける愛もあるということで、
愛にも色んなカタチがあるんだなぁって
自分で書いといてそんなこと思ってます。
(2026/06/02)




