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第7話▷私もあなたと同じ道を往く

ありちゃんの旅立ちの動機が高まっていきます。

何事も適当に済ます事が出来ず、

真面目で融通の効かない性格は

こちらの世界でも顕在なようです。

日が西の彼方(かなた)の山に沈み、少しずつ(とばり)が空を覆い始めた。


「……この辺にしておくか」


私は鍛錬用の片手剣(カットラス)(さや)に納め、用具入れに戻す。




―――剣の道など、所詮(しょせん)この程度。




……などと大言極まりない迷いごとを(のたま)っておきながらも、私はこうして剣の鍛錬を続けている。


確かに、"剣の道"が私の心に欠けている穴を埋めてくれるものでは無いことはもう理解(わか)っている。


なぜなら、私を満たしてくれるであろう存在は別にあったのだから。


そして、それを永遠に(うしな)ってしまったことも。


とはいえ、その存在に出逢うまでずっとこの剣の道で喪失感を紛らわせて何年も生きてきたのだ。


今更、剣を手放す。などという選択肢は、私にはなかった。




―――()()()から半月あまり経過し、私はあれから色々と考えた。


まだ最初の2日ほどは耐え難い脱力感に襲われ、部屋から出ることもままならなかったが、少しずつ身体も精神も落ち着いて来た頃から、また剣を振るい始める時間が増えてきた。


可能な限り全力で身体を動かすことで、良からぬ雑念や世迷いごとなどがどこか霧散する気がしたからだ。


そして、心地良い疲労感に包まれながら、すっきりした精神でじっくりと、ここ最近は毎日色々なことを前向きに考えていたのだ。




―――セシル王子。




実際のところ、本当にどうなのかは全くもってわからないが、少なくとも私は彼を"運命の人"と確信した。


しかし彼の名は、私が探し求めたものではなく、たまたま義母上(ははうえ)がその名を口に出したことで私はその存在を知ることが出来た。


もし、彼の名が食卓にのぼらなかったとしたら、私は彼の存在など知る(よし)もないままであっただろう。


そして私にとっての"運命の人"が仮に複数いるとしよう。


その存在がまた都合よく私の耳に入るようなそんな幸運な状況が再び訪れるだろうか。


だから私は考えた。


このまま受け身の人生でいたら、出逢えるものも出逢えないのではないだろうか、と。


受動的に幸運を待つのではなく、能動的に"運命"を追い求めて行くべきなのではないだろうか。


私はそもそも、皇宮の外にまともに出たことがない。


皇宮の中。

今までの私はそれが世界そのもののように勝手に感じていた。


しかしその外の世界は何処までも無限に近いほどの広さで(ひろ)がっていると、頭では理解(わか)っているつもりだったが、本質的に理解はしていないのだろう。


運命の人に出逢える出逢えないは別として。

運命を掴みに行く行かないも別として。




「私は、外の()界が()りたい。」




そう思わずにはいられない結論に、私は至っていた。




* * *




いつもルーティーンでは、午後の鍛錬の後に夕食、そして入浴を済ませ22の刻には自室に戻る流れだったが、私は()()()私用を済ませるべく、()()()場所へ(おもむ)いていたため、この日は自室に戻ったのが日付を(また)いだ深夜となってしまった。


皇女としては(いささか)か軽率であったかもしれないが、広大とは言え皇宮内である。さしたる危険や危惧もなく目的を果たすことが出来た。


(……一応外出する(むね)は伝えてはあったのだ。

流石にフロルも就寝しているだろう。)


自室のドアノブに手をかけながら、ふと自分に良く尽くしてくれる侍女を思った。


宮内とはいえ、まさか伴も連れずにこんな夜更けまでとは伝えてはいなかったのだが。


そして扉を押し開ける。




「……お帰りなさいませ。アリサ殿下。」


「え、フロル……?」




自室に戻った私を、フロルはスカートの両端を(つま)むカーテシーの仕草で(うやうや)しく迎えてくれた。


恐らく、ずっと私の部屋で私を待っていてくれたのだろう。


一見質素に見えるデザインながらも、細かい華美な刺繍(ししゅう)が施されたメイド服がいつもよりさらに美しく映えて見えた。


「…………な、なぜ」


幾つもの「?」が頭をよぎり、間の抜けた言葉しか出てこなかった。


「何年 姫さまを見てきたと思っておられるのですか。

わたくしも今日という日をずっと

お待ちしておりましたから。」


フロルは笑顔でそう私に返す。

淡いピンク色の髪の毛が ふわっ と揺れた。


そしてフロルが両手で私の両手を握る。


「まずは、アリサ殿下、

お誕生日おめでとうございます。

このフロル、心よりお祝い申し上げます。」


満面の笑顔だった。

フロルは花が咲き誇らんばかりの、

満面の笑顔だった。


「……フロル、、、ありがとう。」


やはりフロルには勝てない。

そう思わずにはいられない笑顔だった。


「本来ならば臣下たるわたくしめ(ごと)き、

このような振舞いは不敬で至極無礼に当たると

わかってはおるのですが、

姫さまが幼き頃よりわたくし達は

ずっと一緒に過ごして参りましたので、

本日だけは姉のような気持ちで

こちらを姫さまに献上させて頂きたく……」


そう言いながら、フロルは綺麗に包装された包みを私へと差し出してきた。


「こ、これは、、、私に、か……??

私に誕生日を祝う、贈り物を……か…………。

……フロル、本当の本当にありがとう。」


流石にこれは予想外過ぎた。

かなり戸惑いながらも、フロルからの贈り物を受け取る。


「姫さまも1()5()()になりましたものね。

さ、殿下。包みを開けてご覧なさいませ。」


「う、うん……。」


フロルに促され、丁寧に包みを開封する。


中から出てきたのは……


「マジックバッグ…………?」


マジックバッグとは、一見ごく普通の(かばん)でありながら、中はちょっとした異空間となっており、見た目の何倍もの収納能力があるマジックアイテムの一種である。


「わたくしが姫さまにお贈りしたいのは、

(かばん)はもちろんのこと、むしろ中身でございます。」


「え」


「申し訳ございません。

それなりの大きさと重さがありますゆえ、

お気を付け下さいませ。」


「あ、うん」


彼女に言われて少し用心しながら、部屋の真ん中のスペースが拓けた場所でマジックバッグに手を入れる。




出てきたのは、、、


ほんのり薄く水色かかった、

魔銀(ミスリル)製の白銀に輝く、鎧と大盾、


そして(あか)いルーン文字がびっしり書き込まれた、純白の細身の長剣だった。




「…………ふ、フロル、、、これって―――」


「はい。それがわたくしから姫さまへの贈り物です。

わたくしが現役の冒険者だった頃の装備です。

(ふる)で大変申し訳ございませんが、

どうかご容赦下さいませ。」


「わ、私が授かった職業(クラス)を、フロルは

知ってい「聖騎士(パラディン)以外考えられませんでしたから。」


私の言葉にフロルが満面の笑顔でかぶせてくる。


本当に、、、

本当の本当に、彼女はいったい何処(どこ)までこの私を、


この、アリサ=ウェストファリア=ラスティアーナという人間を理解しているのか。




彼女が私に贈ってくれたこの装備は、


"聖騎士の鎧"、"聖騎士の盾"、そして、、、


"聖剣ソウルオブナイト"…………。




かつてプラチナクラスまで上り詰めた冒険者、桜色の聖騎士(パラディン)フロルが当時身に付けて愛用していた、聖騎士専用の装備だった。


「…………す、すまない。。。

感激してしまって、言葉が出てこない…………。

し、しかし、ここまで高価で貴重なものを、

本当に、この私なんかに……、、、

いいのか……?」


わなわなと震えながら、一級品の装備に目が釘付けになってしまっている私はフロルへ問いかける。


「はい。もうわたくしには必要のないものですから。

かつてわたくしを助けてくれたこの装備が、

きっと姫さまをわたくしに代わりお護りして

くださることでしょう。」


満足げにフロルが(のたま)う。


「そ、それにしても、、、

よく私が自分の誕生日と同時に

皇宮内の職業(カスネル)神殿に赴いたことと、

私が授かった職業(クラス)がわかったな…………。」


愚問だろうと思いつつも、自然に口から出ていた。


「ふふふふっ!」


フロルの桜色の唇から楽しそうな笑い声が漏れた。




「何年姫さまを見てきたと思っているのですか。

わたくしの目から見て、この皇宮は

アリサ殿下には狭すぎます。

聞いた話や本で読んだ話ではなく、

姫さまご自身の目で、耳で、心で、

この広い世界を存分に楽しんで下さいませ。

きっと、いや必ずや、姫さまが満足のいく、

姫さまの心の隙間を埋めるに耐えうる、

素晴らしい何かが姫さまを待っております。」




「………………………………っ」


気付いた時は泣きながらフロルを抱きしめていた。


「あぅあぅあぁぁぁ……

フロルぅ、フロルぅぅぅ」


「あらあら。

もう15と言えば立派な大人でございますよ?」


フロルが私の頭を優しく撫でる。


「……ぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁ」


しかし私は嗚咽(おえつ)の声でしか返答出来なかった。


「…………本当はわたくしめも姫さまに付いて

ご一緒出来れば、と思っていたのですが、

わたくしの父も高齢でございますし、

若い頃に好き勝手やらせて頂いたもので、

そろそろ親孝行をするべき時かと思いまして、、、

大変申し訳ございません。」


そうなのだ。


フロルは、皇族付きの侍女を任されるに値する家柄の出自なのだ。


私の侍女とは言え、バーモンド侯爵家の令嬢なのだ。


彼女もそろそろ妙齢と言える年齢であるし、私ごときに縛られるわけにもいかないだろうと常日頃思っては、いた。


「フロル、フロルぅぅぅ

ありがとう。ありがとう……ありがどぉぉぉ」


言いたいこと、伝えたいことは山ほどある。


しかし、そういった想いは言葉にならず、幼子のような嗚咽(おえつ)になって消えていく。


そんな私を、フロルは本当の姉のようにずっと抱きしめて頭を撫でてくれていた。




そして


夜明けを待たずに私は


フロルに見送られながらこっそりと皇宮を後にした。




かつて、憧れたフロル(あなた)と同じ


聖騎士(パラディン)となった私は


あなたと同じ道を()きたい。


そんな思いを胸に抱きながら―――

フロルさんは"妙齢"と言ってますけど、

実際脳内設定ではありちゃんと10歳差の、

24~25歳くらいで考えています。

(ちょっと行き遅れかもしれんがw)

フロルさんは15歳で冒険者デビューして、

3年間ぶいぶい言わせました。

そして引退してありちゃん付きのメイドになったのが、

ありちゃん8歳でフロルさん18歳。

メイドさんとしては7年務めましたが、

実は侯爵家という家柄が理由で冒険者ながら、

15歳の時から3年間、冒険の片手間に

ありちゃんの剣術の先生をやっておりました。

そう。ありちゃんの最初の師匠ってわけです。

だからフロルさんの聖騎士姿とかも知ってたわけです。

作中で描写するとくどくなるので、

TOPICSということでw


(2026/05/28)

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