第3話▷心に走る稲妻
なんか家族がいっぱい出てきますけど
とりあえずありちゃんだけ覚えてればOKですw
朝の修練を終えた私は自室に戻り、シャワーで身を清めたのちにフロルの手を借りて修練着から普段使いの簡素なドレスへと着替えた。
時刻は七の刻半前。
毎日のルーティーン通り、次は皇族一同揃っての朝食である。
フロルを伴い、皇宮最奥の皇族とその従者のみしか立ち入れない区間へと入っていく。
そして突き当たりの"天覧の間"の前に立つと、フロルが扉を丁寧に開け放つ。
「―――アリサ、ここに参りました。」
名乗りをあげて豪華絢爛な細長い食卓の末席に腰を下ろす。
私の左隣には長兄であり皇太子である、アルクスフォン第一皇子。
向かいには双子でもあるジュリエス第一皇女とエリオネア第二皇子が座っている。
私以外の兄姉は皆、皇后陛下の実子なので、揃って水晶色の髪と真紅色の瞳の、ラスティア皇族の人間にしか発現しない特徴を持っている。
それに引き換え、私はというと他の皆と違い実母の第二王妃の血を引いた漆黒の黒髪と瞳で生まれてきた。
その事実からやはり私としても他の兄姉を羨ましく思わない訳ではなかった。
「……アリサ。今日も一段と美しいな。
流石は僕の自慢の妹なだけある。」
「……!?」
私の左隣のアルクスフォン兄さまが、私をにこやかな笑顔で見ている。
「いえ。兄上の眩さの前では私なぞ、
取るに足らぬものでありましょう。」
実際、兄さまのキラキラ輝く髪の毛と比較して、どう考えても美しさは兄さまたちのほうが上だと思っている。
「いや! 俺も兄上と同じ意見だ。
アリサの美しさは我が国の宝だ!
ジュリエスもそう思うだろう?」
「エリオネアの言う通りよアリサ。
あなたの美貌の前では例え女神さまも
きっと跪くわ。」
向かいのエリオネア兄さまもジュリエス姉さまも乗ってきてしまった……。
特に姉さまは曲がりなりにも職業が司祭なのだから、女神さまをぞんざいに扱うのは如何なものかと思うのだが……。
「あ、兄上も姉上も、、、
ご冗談が過ぎます………………。」
毎朝のこととは言え、私は頬に過剰な熱を感じて俯いてしまった。
「いやいや。殊に近頃のアリサはまるで、
昔のサクラさまを見ているような美しさだ。」
「ええ。わたくしもそう思います。
まるでサクラさまの生き写しの様だわ。」
今は亡き私の母サクラは、エリオネア兄さまとジュリエス姉さまの乳母を務めていたこともあり、2人ともいまだに私の母を慕ってくれている。
私の母は海の向こうの遥か東国タカマガより戦乱から落ち延びてきた姫君だったと聞いている……。
きっとタカマガの国では私のような黒髪黒目の人間であふれているのだろうか。
(母上……。)
まだ幼い頃に死に別れてしまった母を想うと、胸が ぎゅっ となった。
私は無意識に胸元の、母の形見であるブローチを握りしめた。
「そう言えばアリサも今月末には15歳になるな。
遂に淑女としてデビューするのか。」
「きっとアリサの事だから、近隣の諸国から
婚姻の申し込みが沢山来るでしょうね!」
エリオネア兄さまとジュリエス姉さまがやわらかい微笑みで皮算用を始めた。
兄さまや姉さまは私をすぐ持ち上げるが、私のようなおよそ女らしさのない髪も瞳も真っ黒な女など誰が求めるというのだろうか。
そもそも姉さまより先に嫁ぐなど、以ての外だ。
例えその順序が関係ないとしても、兄さまも姉さまも私の風貌を褒め称えてくださるが、自分ではそこまでとは欠片も思っていない。
心に大きく空いた穴を埋めるために、そういった自身の容姿・外見を磨くことに打ち込んだ時期もあったが、思えばなんの意味もなかったと今なら解る。
その時―――
ダァァァン!!!
アルクスフォン兄さまがもの凄い勢いで卓を叩いた。
「アリサが何処かに嫁ぐだと?
そんなこと、僕は許さない。」
見ると、ここからでもひと目で識別るほど、アルクスフォン兄さまの額に青筋が浮かんでいた。
「ハハハッ。俺としても相応の男じゃないと
可愛いアリサは渡せないって思うよ。」
「エリオネアの言う通りよ。
アリサはわたくしたち兄弟の太陽だもの!!」
「兄上も姉上も、もう、その辺で
ご勘弁願えますでしょうか………………。」
エリオネア兄さまとジュリエス姉さまも、アルクスフォン兄さまに乗りかかって私を持ち上げて来たので、耐えかねた私は再度俯いてしまった。
「ハハハハッ! ごめんごめんアリサ。
悪気はないんだ。」
「ごめんなさいねアリサ。
わたくしたちは本当にアリサが
可愛くて可愛くて……。」
「全くだ。アリサは僕たち兄弟の女神だからな。」
……いくらなんでも、兄さまも姉さまも、シスコンが過ぎる………………!!
兄さまと姉さまの猛攻に、私はほとほと弱り果ててしまった―――――
ガチャ
「待たせたな愛しい我が子らよ。」
「今日も良い朝ね。息子たち娘たちご機嫌はいかが?」
助かった!
毎朝のこととは言え、困り果てかけたタイミングで我が父であるカルマイン皇帝陛下と義母であるシルヴィアーナ皇后陛下が入室してきた。
私を含めた兄弟皆 立ち上がり、胸の前に拳を握り目を瞑って頭を下げる。
そして父上が手でそれを制し、私たちは姿勢を正して再び腰を下ろす。
本日も私の実の父である大帝カルマインからはあふれんばかりの王者のオーラが滲み出ていた。
齢はまだ40前。しかし外見はいまだ20代なかばにしか見えない。
幼くして先帝の跡を継いだ父上は、先代からの軍事力を維持しつつも自国の文化の育成に注力し、我が国の産業の基盤を整えた。
更に帝国が新規に着手した塩の専売だけでは飽き足らず、冒険者ギルドが取り仕切っていた魔石の流通をも一手に召し抱え、帝国市民の生活水準の向上と莫大な資金獲得を同時に達成した。
対外的にも周辺諸国や属国に対して威圧的外交を繰り返していた先代までの政策から方向転換し、傘下の同盟国に対して手厚い援助とそれに伴う穏便な間接的介入を繰り返す事で、戦火を交えずに大陸北部の覇権を手にしたのだ。
また、そういった政治的手腕だけではない。
父上は戦略立案にも優れ、即位直後のまだ帝国が父上の元に固まっていない隙を付いて隣国3ヶ国が共謀して造反した事件があったが、父上は自ら近衛兵団のみを率い、主力兵団を温存したまま4倍の兵力差を覆し反乱連合国を蹂躙したと聞いている。
更には武勇においても非常に希少な職業である英雄に就いており、英雄専用の剣技スキルも多数所持し、単騎で白氷竜の討伐まで成し遂げている……。
純粋な"剣術"のみであるならば、私でもなんとか父上にそう簡単に負けない自信はあるが、総合力という面においては足元にも及ばない。
自分の父ながら、とてつもなく偉大な大帝と言わざるを得ない。
とは言っても、私の追い求める何かを刺激するものはなく、純粋に父上のことはこの上なく畏敬の念を抱いているが、女の私からすれば自分が進むべき根本的ベクトルのようなものが別次元の道だったりする―――――
「アリサ殿下、お代わりをお持ち致しますか?」
私の空になったスープの器を見て、フロルが声をかけてきた。
「では頼めるか? あとクロワッサンももう1つ
追加を頼みたい。」
「かしこまりました。お待ちくださいませ。」
仕方ないだろう……。
毎朝の事とは言え、今日も鍛錬ですっかり空腹になってしまっていたのだ。
朝食は一日の活力の源とよく言うではないか。
消費したエネルギーは即座に補填するに限る。
「―――そう言えばお前たち、
余が入室する時になにやら
面白い話をしておったな。」
皇帝陛下がミートローフを飲み込んだあとに、私たち兄弟に語りかけてきた。
「いえ、可愛いアリサももうすぐ15になりますので
相応しい殿方などもしいらしたら、などと
わたくし達でお話しておりました。」
ジュリエス姉さまが自分のことを棚に上げて口を開いた。
私の横ではそれを聞きながらアルクスフォン兄さまが小刻みに震えていた気がした。
「姉上たちはそう仰いますが、
まだまだ私は小娘ゆえ、そのお話は尚早かと
思っております。」
私は今自分が思っている嘘偽りのない思いを口にした。
実際問題、耳にする周辺諸国の王族程度の有象無象では、私の心の穴を埋めてくれるとは到底思えない。
と、いう本音は流石に飲み込んだ。
「――――――ふぅむ。」
私の言葉を聞いた陛下は、カトラリーを卓に置いて、右手で上品に整えられた顎髭を撫でた。
「……そうね。アリサはサクラに似て
とても美しいだけではなく、多方面の才覚においても
突出していますもの。
下手な婚姻相手なんて、アリサのお相手として
認める事は出来かねますものね。」
………………皇后陛下までその様な事を仰るのか。。。
いい加減、もうこの話題は終わらせて貰えないだろうか…………。
「―――そうだわ!!!!」
「「「「「!!??」」」」」
自問に自答した皇后陛下の大きな声に、父上や私を含めた皆、思わず皇后陛下の顔を見た。
「大陸南部の強国、ルーンネリアの王子は
アリサのお相手としていかがかしら!
確かアリサと同齢で、聡明で美しい傑物だと
お話に聞いておりますわ。
確か、、、セシル王子、という御名だったと
記憶しておりますわ。」
!!??
―――カラン
なぜだろう。
まったくわからない。
わからない、だけではない。
私は、その名を、その者を知らない。
どこぞの大国の王子らしいが、
今でも"それがどうした"くらいにしか思っていない。
「姫さま?
今すぐ代わりのカトラリーをお持ち致します。」
「あ、ああ。済まない、フロル……。」
皇后陛下の口から、その王子の名を聞いた時に、自分の全身と心臓に稲妻のような感覚が、頭の頂から両足の爪先まで一気に駆け抜けた。
その、余りの衝撃に、私は食事に用いていたカトラリーを床へと落下させてしまった。
「………………………………。」
(な、なんなのだ。これは。この感覚は……。)
まったく未体験の衝撃に、
私の思考は暫く停止したままだった。
なんだかんだ言って、
父母兄姉からめちゃくちゃ可愛がられている末娘、
という設定だったりします。
こんだけ可愛がられていても満たされないというのは
因果なものというか、ある意味 罪というか……w
自分だけ母親が違うということで、
勝手に皆から距離を置いてしまっている感じを
表現したかったんですけどね。
(2026/05/18)




