第2話▷もし剣の道を進んでいたならば
ありちゃん章第2回ですが、
例によって例のごとく説明回になっております。
我ながら悪い癖かな、とは思います。
時刻はまだ六の刻過ぎ。
皇帝陛下や皇后陛下と共にする朝食までの時間にはまだ一刻半近くもある。
私は日々のルーティン通り、近衛兵練兵場へと足を運んだ。
早朝の練兵場は当たり前と言えば当たり前だが、いつもの様に私以外は誰も居なかった。
「………………。」
色々と得物を手にしたが、私には片手剣がやはり手に馴染む。
サーベルやレイピアなども悪くないが、かつて船上での立ち回りに特化して設計されたとされる、このやや湾曲した片刃の刀身が私には最も使い易い。
刺突剣と違い、撫で払う剣戟によって攻防一体を図る事が可能となり、ひと振りで採る事が出来る選択肢が他と比較して段違いに多いからだ。
選択肢の幅は戦術の幅に直結する。
―――尤も、私の持つスキルに拠るところが多分にあるのであろうが。
「おはようございます。アリサ殿下。
かような早朝から修練など、誠に精が出ますな。」
片手剣を用いての最もオーソドックスな剣の型をなぞっていた私は、背後からの聞きなれた声に手を止め振り向いた。
「フフッ。おはよう先生、良い朝なものでな。
先生こそまだ練兵の時間には早いのではないか?」
私は声の主、剣の師匠でもあるグランス将軍に答える。
「私めもこの清々しい朝に、
少々汗を流したくなりましてな。」
「殊勝な心がけだ。
丁度いい。私の相手をしてくれ。」
言いながら鍛錬用の木刀を先生に放る。
それを受け取った彼は困ったように眉をひそめた。
「……お戯れを。」
「戯れなものか。構えろ。」
私ももう1本木刀を取り出し、先生に向かって構えた。
「…………では、1本だけ、でございますぞ。」
「良い。本気で来い。」
そして互いに対峙し睨み合う。
やはり、グランス将軍には隙らしい隙などまったく見当たらない。
流石は帝国随一の剣の達人、グランス=キュラニアン将軍だ。
私の剣の師匠である彼は、聖騎士から王宮騎士を経て、剣の道の頂点とも言える職業、【剣聖】まで昇り詰めている。
彼がひとたび剣を振るえば、海を割り大地を断つとも言われている。
とは言え、それは剣技スキルに拠るものも大きいのだろうが、紛れもなく彼の技巧に拠るものも多分にあるだろう。
「―――フッ」
東方の【侍】が稀に用いるという縮地の足運びに似たステップで先手を打つ。
「……!」
将軍はそれをものともせず受け止めるが、私には相手の剣の動きや足さばき・呼吸・重心・視線などが情報として瞬時に把握される。
それによりどの箇所を狙うのが効率的か、また相手が私の何処を狙ってくるのかが自然と見分けがついてしまう。
言うならば、常に1手先に動けている感覚なのかもしれない。
殊更、それは私が【剣】を握っている時に限り効果がすこぶる増大する。
そういった、視覚的感覚的情報だけではない。
私の握る剣は、元から私の身体の一部であったかのように私の意志の思うまま、いやそれ以上の動きを見せる。
正確無比な剣さばき、と周りは評するがそれだけではない。
私が振るう剣の速さにおいても恐らく一定以上のものであろう。
なにしろ、迷う必要や躊躇う必要がないのだ。
常に視えているものに全力で打ち込めば良いだけなのだから。
まるで私の意志そのものが。
いや、初めから剣自体に私の脳が詰まっているかのような、私が思い描くそのまた先のステージの剣戟を繰り広げていく。
「…………ッッ!!」
彼の繰り出す剣戟を私は全ていなし尽くし、
私の繰り出す剣戟に彼は次第に追い込まれていく。
「フフッ。楽しいな。」
「そ、それは、、ひ、姫さまだけでございましょう!」
我が帝国が誇る、剣聖グランス将軍がここまで追い込まれる様は、恐らく公式な舞台ではまずお目にかからないであろう。
私は、表立ってまだ剣を振るう場所に立つ資格さえないのだからな。
皇族だから、という意味ではなく、
そもそも、まだ私の職業が、剣技職ですらない【皇女】にしか過ぎないのだから。
―――カァァァァン
グランス将軍の木刀が大きな弧を描いて、私の背後へと消えた。
「……参りました。」
将軍が私の足元に膝まづいた。
「いや。こちらこそ早朝から
私の我儘に付き合わせて悪かった。」
私が幸運にも生まれながらにして持っている至高のスキル―――
―――剣術マスタリー
帝国の長い歴史の中でも所持していた人間は片手で数えられるほどしか存在しなかったという、剣術スキル最高峰のスキルである。
そのようなかくも貴重で希少なスキルが、なぜ私の手元にあるのか、それについてはまったく理由が思い当たらない。
所得可能条件などは未だ未解明で、生まれながらの先天的な獲得しか今のところ所持する可能性がないらしいか、その効果は絶大であり、例えば今私が相対したグランス将軍の剣術スキルレベルはMAXの10であった。しかし将軍の放つ技巧の更に上のレベルで私は剣術を行使することが出来る。
「もはや、私などでは
姫さまの相手にはなりませんな。」
グランス将軍は「さも当然」と言わんばかりに立ち上がり一礼する。
「何を言う。私の職業はまだ皇女に過ぎん。
戦士や騎士といった戦闘職に就いて
初めて使用できる【強撃】などの
剣技スキルを使えんのだ。
先生が所持している数多の剣技スキルを
行使すれば私ごとき、瞬く間に
先生の足元に平伏すであろう。」
「……それこそお戯れを。
姫さまもじきに15になります。
その時に職業神殿にて職業を賜れば
剣技スキル取得も思いのままでございましょう。」
「ならば、その時はまた、
私と手合わせして貰えるか?
剣技スキル解放という条件で。」
「……いやはや。その時に私のこの身が
無事に終わるかどうか、という所でございますな。」
「ハハッ。それこそ戯れだ。」
グランス将軍がこの"剣"の道に生涯全てを賭けて研鑽し勝ち得た剣術スキル。
恐らく、死と隣り合わせと思える程の血の滲む壮絶な鍛錬であったに違いない。
そこまでの高みを、私が"たまたま"所持しているスキルの恩恵で凌駕してしまえるのだ。
このような、かくもこのような残酷な事実に"虚無"を憶えないのであれば、その人の心は息をしていないに違いない。
確かに、私自身においてもスキルの恩恵に胡座をかいていた訳ではなく、剣の道に出逢えたその日から何年も鍛錬の日々を積み重ねてきた。
生まれ持って抱いてしまっている、この心に空いた ぽっかり とした喪失感・虚無感を埋めるためにありとあらゆるものに手を出してきた。
そして、手応え・充実感共に、この"剣の道"こそが、私に欠けてしまっているものを埋めてくれるものなのではないかという一縷の望みをかけて、これまで全身全霊で取り組んできたものだった。
しかし、この道に懸けて来たものたちに対しては大変に無礼千万で驕り高ぶるのも甚だしい話ではあるのだが、私の価値観においては、、、
所詮、剣の道もこの程度だったという事だ。
私が追い求めている"何か"とは程遠い。
私を満たしてくれる充実感には足らなかったという事だ。
このまま"剣の道"を進んでいたとしても、私を待っていたのは"失望"と"絶望"しかなかったという事だ。
「それでは姫さま、私はこれにて失礼致します。」
「あぁ。先生、手合わせ感謝する。」
互いに一礼したのち、グランス将軍は練兵場を後にした。
私も木刀を木筒に放り込み、空を仰いだ。
―――どうせ、私を満たしてくれるものなど、
この世にはもはやないのだろうな。
と、諦めに近い思いが ふと 頭を過ぎったが、頭を振るい雑念を払うと、私は次のルーティーンに沿って練兵場を後にした。
なろう系特有の"俺TUEEEE"系主人公ですw
(ちと、いやかなり違うか)
でもなんかありちゃんの口調が
お姫さまというより軍人みたいになってしまって
なんか笑いながら書いています^^
ちな、外見イメージは
学マスの「雨夜 燕」さんを意識しております(っ ॑꒳ ॑c)
(2026/05/13)




