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人間と偽って暮らすトラウマ持ちの魔女、番の竜人に拐われましたがそれなりに幸せです  作者: 立花 みどり
第一章

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体質


「……リゼ、ロイドと兄上……陛下が話を聞きたいそうなんだけど、大丈夫?」

「うん、大丈夫。セドリックにも聞いて欲しい」


 リゼが隠していたこと。全ては言えないけれど。


 回復してさらに二日後、ロイド、フレデリック、セドリック、リゼ、護衛のシドとレインが一つの部屋に集まった。



「堅苦しい挨拶は抜きにしよう。リゼ嬢、初めまして。私がこの国の皇帝でセドリックの兄、フレデリックだ。この度は我々を随分助けてくれたと聞いている。改めて感謝を。ありがとう」

「ええ、僕からも。ありがとうございます」


 ロイドとフレデリックはリゼたちが入室するなり立ち上がり例を述べた。


「あ、いえ、こちらこそ。気にしないでください」

「とりあえず座ろう」


 セドリックが全員の着席を促す。セドリックとリゼ、そして向かいにロイドとフレデリックが座っている。


 なんとなく気まずい雰囲気が流れた。話すべきことはたくさんある。が、どれを最初に話せばいいのかそれぞれが迷っているようだった。

 意を決して、リゼが話し始める。


 「今回の事件において、私の正体、それからどうしてロイド様と陛下を目覚めさせることができたのか、皆様疑問かと思います。今日はその話をしたいと思っています。……セドリック、この部屋に防音魔法ははってありますか?」

「うん、大丈夫だよ。窓からも見えないように、空間を覆う魔法もかけてある」

「ありがとう」


 礼を言うと、リゼは静かに自分の足首似つけている魔道具に触れた。少し魔力を流してやると、かちゃんと音を立てて魔道具が外れる。


 その瞬間リゼの見た目が変わる。


 平民にありがちな茶色の髪はピンクブロンドへと変化し、同じく平凡な瞳も紅い瞳へと色を変えた。


「騙してごめんなさい、これが私の本当の姿です。私の正式な名前はリゼ・メーデイア・スルト。魔女族の柱の一つセレナと魔族の首長アスターの娘です。正式な種族は魔女。今まで人間と偽っていてごめんなさい」


 リゼは頭を下げる。

 リゼ以外のみんなは驚いたようにただリゼをみつめる。


「シドの心眼をどうやって誤魔化したんだ……?ああ、いや、決して攻めているわけではなく、むしろ叔父上にとっては魔女であることは喜ばしいと思っている。寿命的にね。が、できれば今後のためにも聞いておきたい」


 ロイドが尋ねる。


「……魔女は嘘をつくことを禁じられた種族です。ですが、嘘をつかないと言うことは他種族と渡り歩くにはあまりにも不利です」

「そうだな」


 フレデリックが頷く


「ですので、魔女は生まれると同時にもう一つ身分を手に入れます。人間の身分です。これに関しては正式に人間の国の王と条約を交わしています。自身の核心に迫ることを尋ねられた時、用意しておいた人間の身分について答えることで回避します。


 例えば、あの時ロイド様は私に人間の平民かと尋ねました。


 本来であれば、魔女ですから答えはいいえの一択になりますが、人間の平民の正式な身分も確かにもっているので、はい、と答えても嘘ではなくなると言うことです。あくまで身分についての質問のみに限られるので、日常的には嘘はつけないのですが」

「なるほど」

「もう一つの身分の設定は、ある程度自分の意思で自由に変えられますから。心眼を欺く程度ならできます。特に私は魔族の首長の娘ですから。心眼の特性についても事前に知っていますしね」


 心眼は嘘を見抜くだけの瞳だ。

 真実であるかどうかは関係ないのだ。


「心眼に頼りすぎるだけではだめということだな」

「まあ私のようなものは少ないとは思いますが」


***


「さて、肝心のお二人を目覚めさせた件についてなのですが」


 リゼが切り出すと部屋の空気が少しだけ緊張したものに変わる。


「まず私の体質について、私は魔女ですが魔法が全く使えません。その代わりに不死身の身体です。どんな傷も瞬時に治り、どんな毒も効かない。魔族の血ですら効きません」

「……!」

「信じられないですよね。適当に傷をつけて治るところをお見せするのが早いと思いますが、……セドリックが心配するのですみません」


 傷をつける、と言った瞬間セドリックがリゼに向かって首をぶんぶんと振った。番が自分を傷つけるところなんて見たいはずがない。


「私の血は魔族の血を解毒できるんです。だからお二人に私の血を飲ませました」

「……そう、だったのか」

「人の血なんてものを勝手に飲ませてすみません。でも私もちょっと番と離れ離れにされてあまりなりふり構っていられなかったので……」

「いや、いい、気にしないでくれ。あのままだったらこの国が混乱に包まれるところだった」

「エレイン様が所持していた魔族の毒と思われる液体は、危ないので全部飲み干しました。人を害する意外に使い道はないものなので……」

「「飲み干した……!?」」

「リゼ、本当に身体に異常はないの?」


 飲み干したことに驚く二人に対して、セドリックは心配そうにリゼを見つめ、手を握る。


「ないよ。苦いとかもない。私にとっては血の味がする不味い液体だよ。安全に処理するにはあれがベストだとその時は思ったから……。心配かけてごめんね」

「いや、無事ならいいよ。本当に」


 普通猛毒を飲み込んだって言われたら驚くよなあと思う。強靭な竜人ですら倒してしまう毒だから。


「リゼ嬢は魔法が使えないって話だけど、エレインを本当に拘束したの?あれはかなり気性が荒いと思うが……」

「それは、エレイン様が私に対して油断していたので……。魔法は使えないですが、魔力量がかなり多いんです。エレイン様よりもずっと。なので言霊で縛り、魔力を流し込んで魔力酔いになってもらいました。事前に魔力量が多いことを知られていたら、すんなりいかなかったかもしれませんが」


 例えばエレインが言霊を使われること危惧して口を塞いできたり、問答無用で物理攻撃を仕掛けてくれば長期戦になっただろう。

 けれどエレインはリゼを人間だと思った。いつでも、少し力を入れればすぐに折れる、弱い人間だと思っていた。だからどうにかなった。


「兄上、リゼの体質については内密にしていただきたい。リゼもそれがいいだろう?」

「あ、そうだね。それはお願いしようと思っていました」

「魔族の血に対抗できると知られればどうなるかわかりません。それにリゼはここにきた時から目立たず暮らすことを望んでいました。今後も表向きは人間のままでいましょう。少なくとも国内事情が落ち着くまでは」

「だが人間の寿命は短いだろう?老いないとみんな気づくぞ」

「それまでに国内を安定させます。今は兄上もロイドもいますし、最大の壁であったエレインも捉えましたから、できるでしょう」


 たしかに、とロイドとフレデリックは頷いた。


 よかった、とリゼは内心安心した。そこが一番心配だったのだ。

 身分を明かして、自分がそこそこの地位にいると明かした。そして死なないと言うことも明かした。となれば当然表舞台に立たせてもいいのでは、と言う話になってもおかしくない。


 でも表舞台に立てばジョエルに見つかるのも時間の問題になってくる。


 ーーまだ、見つかるわけにはいかない。


 内心、番と出会ってから、いつかはジョエルの問題に、自分のトラウマに向き合わなければいけいない瞬間が来るんだろうと言うことはわかっていた。 

 でも、少なくとも今ではない。


 だから十分な準備ができるまで、人間として扱ってもらえるのはありがたかった。


「リゼの正式な身分、体質について知るのはこの部屋にいるもののみとしましょう。どんなに信頼できる相手であっても他言無用。いいですね?」

「わかった」

「わかりました」


 シドとレインもそれぞれ頷いてくれた。


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