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人間と偽って暮らすトラウマ持ちの魔女、番の竜人に拐われましたがそれなりに幸せです  作者: 立花 みどり
第一章

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反動


 ロイドとフレデリックが目を覚ました。シドから詳細を聞き、実行犯の余罪や他の協力者を調査するための指示をまとめているうちにかなりの時間が経っていた。


 セドリックは、リゼが発熱したその日のうちに素早く離宮を整えた。

 公爵邸に帰すことも考えたが、そうするとまたしばらく会えなくなりそうで、体調の悪いリゼには申し訳ないが離宮で過ごしてもらうことにした。


 リゼに会いに行けるようになったのは、ロイドとフレデリックが目覚めて三日後のことだった。見かねたロイドがセドリックとの交代を申し出た。ロイドの体調について医者からお墨付きが出たのも大きい。


 ロイドへ手短に引き継ぎを済ませると足早に離宮へ向かう。


 部屋に入る前にフィンに状況を確認する。

 少し前に嘔吐したらしい。けれど使用人に着替えとタオルと水だけ指示すると再び閉じこもってしまったと。リゼを看病できるのは自分しかいないのに、そばにいられなかったことが悔やまれる。胸が苦しい。でもきっとリゼがもっと苦しい。


「……リゼ?」


 静かにドアを開け、ベッドを見るがリゼはいない。けれど気配はする。だとすれば、

 ソファを覗くと、薄着のままリゼが震えながら丸まって寝ていた。


「……ッ」


 触れるとかなり熱が高い。慌てて抱き上げて部屋を出る。


「セドリック様!リゼ様は……」

「かなり熱が高い。この部屋以外に寝られる部屋はあるか?」

「用意してあります」


 フィンが予備の寝室へと案内する。

 部屋の移動を想定していたのか、シーツも新しく、水やタオル、それから解熱剤まで用意されていた。


「あとは僕が看病するから」

「はい。……あの、」

「どうした?」

「すでにレイン様やシド様から報告が行っているかもしれませんが、ここ最近番狂いの症状が出ているようでした。お忙しいとはわかっているのですが、可能であれば極力おそばにいて差し上げてください」

「……わかった。気にかけてくれてありがとう」

「交代で誰かしら控えておりますので、何かあればお呼びください」


 そう言ってフィンは戻って行った。

 高熱で息の荒いリゼを寝かせ、汗を拭いてやる。


 少し前から番狂いの症状が出ていたのはシドとレイン、それぞれから聞いていた。ロイドが倒れたことを聞いたのがきっかけで行動を起こしたことも。


 竜人であるレイン、それからエレインを制するほどの魔力量を持っているのは知らなかった。


 ロイドとシドがリゼに質問をした時、リゼは人間の平民と答えた。そしてそれは嘘ではなかった。が、今回のことを考えると人間かどうか怪しい。

 別にどんな種族であっても、愛おしく、かけがえのない唯一の半身であることには変わりはないが。番に隠し事されているのはなんとなく落ち着かない。


 魔力量にしても、ロイドとフレデリックを目覚めさせたことについてもだ。


 ーー目が覚めたら全て教えてくれるだろうか。


 目の前にいるのにまだまだ遠い存在に思える。確かに手に入れたはずなのに、よそ見をしていたらいなくなってしまいそうだ。

 そうなったらきっと、今度こそセドリックが耐えられない。


 うなされるリゼの手を握る。


 ーー大丈夫、リゼはここにいる。



「……セドリック?」


 手を握って祈るようにしていると、目を覚ましたリゼがセドリックを呼んだ。


「リゼ!大丈夫?」

「……だいじょばない」

「お水、飲める?」

「ん」


 水を注いでコップを渡すが、力がうまく入らないのかリゼは水の入ったコップをぼうっと見つめて動かない。


「リゼ、少しごめんね」


 セドリックはリゼからコップを奪うと、自身の口に含み、リゼに飲ませた。抵抗することなくリゼはそれを飲み込む。

 口移しで飲み込んでくれることに一瞬喜びを感じながらも、触れた唇の温度に驚く。


「明日、医者を呼ぼう」

「やだ、やめて」

「でも、」

「いい、いらない、やめて……。お願いだから」

「……」


 力の入らない体で精一杯いやいやと首を振る。


「それより抱きしめて。そっちの方がいい。おねがい、一緒に寝て欲しい。つらいの。体より心がつらい」


 弱い力で引っ張られる。セドリックは抵抗せずに素直に隣に寝転がった。リゼの熱い体を抱きしめる。初めてここに来た時も、こうしてリゼを抱きしめたことを思い出した。


「寒気は?」

「だいじょうぶ……このまま、」


 それだけ言うとリゼは再び眠りについた。セドリックはそんなリゼを抱きしめ、空が明るくなるまで背中をさすった。


 リゼの高熱は次の日も下がらなかった。

 顔色は昨晩より落ち着いたものの熱がとにかく下がらなかった。


 リゼが医者に見られることを拒否したため、医者には見せなかった。その代わりセドリックが症状を口頭で説明して薬を処方してもらう。


「リゼ様の場合、心因的なことが原因のようですから今のところ解熱剤を出すくらいしかできませんね。番であるセドリック様が常にそばにいてください。番の精神回復にはそれが一番効果がありますから」

「わかった」

「一応、精神的に落ち着かせる薬もありますが、リゼ様の場合トラウマの原因がわかりませんからね。もし原因をお話できるようになったら、改めてご相談ください。私の弟子に精神的なケアを得意としているものがおりますので」

「ありがとう」

「回復されるまでは私もこの離宮に控えております。いつでもお呼びください」


 医師はそう言うと部屋を出て行った。


 セドリックはリゼの眠るベッドへと潜り、再びリゼを抱きしめた。まだ熱が高かった。


***


 リゼは熱が下がるまではほとんど目を覚まさなかった。たまに目を覚ましたかと思えば、セドリックを求めるのみ。セドリックがそばにいることを確認するとまた意識を失って眠る。食事も水分も取らず、ひたすらセドリックを求めた。


 間違いなく番狂いだった。そして王家の事情をどうにかすることに頭がいっぱいで、リゼをここまで追い詰めてしまったことを毎日後悔した。

 罪滅ぼしをするようにとにかくリゼに尽くしたくて、セドリックまでも食事を取らずずっとリゼの横で彼女を抱きしめた。


 リゼの熱が下がったのは倒れてから七日後だった。


 熱が下がるとようやくご飯を食べられるようになった。少しだけ痩せてしまったリゼにセドリックは給餌を行う。リゼの好物だけを集めた食事を用意して。


「セドリック、熱下がったからお仕事いっちゃう?」


 目が覚めてもセドリックに対する寂しさは治らなかった。


「いかない、いかないよ」


 最後に公爵邸で見た頃よりも随分と甘えたになってしまった番に、苦しくもあり喜ぶ自分もいた。そしてそれを浅ましく思う自分も。


「回復するまで休んでいいって言われてるから。熱は下がったけど回復はしてないでしょ?少なくともあと5日は休もう。城内もまだ落ち着かなさそうだし」

「ん」

「はい、リゼの好きなリゾットだよ。食べられる?」

「あ」


 リゼが口を開ければセドリックがご飯を運ぶ。そういえば給餌も久しぶりだな、と思った。


「離宮にいる間はお世話は僕がやるからね」

「うれしい」


 初めてこの離宮に来た時はびっくりしたお世話。けれど今のリゼにとってそれはとても嬉しかった。


 その後三日ほどぶり返したり治ったりを繰り返し、結局セドリックが安心できるほどに回復したのは発熱から三週間後だった。

 セドリックは常にリゼのそばにいて看病した。


 ご飯を食べさせ、服を着替えさせ、入浴の世話をし、散歩にも抱えて連れて行く。当然眠る時は寝返りを打てないほど抱きしめて。そうしてようやくリゼは体も精神面も回復したのだった。



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