久しぶりの
王城で終わらない公務を処理し続けるセドリックはその瞬間思わず立ち上がった。
「……リゼ??」
リゼが屋敷から出ていく気配がする。その瞬間、どこか遠いところに飛ばされたのもわかった。番を感じ取る器官が弱いリゼは知らないが、本来は番の大体の居場所がわかるようになっている。そうでなければこの広い世界で唯一の番を探すことなど不可能だ。
書類の山の中で、急激に遠ざかる番の気配に焦る。
ーー攫われた!!!
屋敷には侵入できないようにしていたはずなのにどうしてリゼの気配が消えゆくのかセドリックにはわからない。その瞬間に書類仕事のことは全て消し飛び、頭の中は「番」のことで支配された。
感情が昂り漏れた魔力で部屋中が荒れる。
ーーまずは屋敷に行こう。手がかりが必要だ。
転移魔法を展開し、セドリックは公爵邸へと飛んだ。
***
飛んだ先はまずリゼの部屋だ。リゼが家にいる間、大半を過ごす部屋。移動して家具が倒れ、壊れやすいものは割れてしまっているのを見る。
ーー襲撃があったのか??
にしては他人の形跡がない。この部屋に残っているのはリゼの濃い気配だけだ。
「セドリック様…!!」
部屋を確認しているとレインが入ってくる。レインだけだ。
「状況を報告しろ」
「リゼ様はシドを連れて自ら屋敷を発ちました」
「……っ!!なぜ止めなかった!」
「リゼ様の言霊により私は動きを封じられ、シドのみを連れて行かれました。……おそらく番狂いの症状で精神的に不安定になられているようでした」
「……っ 屋敷を出た後は…!!」
「エレイン様一派の竜人と移動スクロールで転移しました。屋敷の魔法使いたちが転移先を割り出しています」
「連れてこい!!」
セドリックは普段出さないような怒鳴り声を上げて魔法使いを呼んだ。行き先を聞くなりすぐさま転移の魔法陣を展開する。
転移先は今は使われていない王家所有の古城だった。数世代前の皇帝の番が、あろうことか護衛騎士に惚れて二人で心中した、いわく付きの城。
王家所有の場所に転移したと言うことは間違いなくエレインがその先にいると言うことだ。ギリ、と強く握った手のひらから血が滴る。
リゼに何かあれば確実に狂う自信があった。
***
「リゼ!!!!!!」
セドリックが廃城に転移した時、部屋にはリゼとシド、それから拘束されたエレインとその一派たちがいた。
「セドリック、セドリックなの??」
薄暗い部屋でリゼはつぶやく。
「リゼ、僕だよ」
リゼはセドリックの姿を見るなりその胸に飛び込んだ。
ああ、待ちに待った番だ。うれしい、うれしい。
甘い匂いを胸いっぱいに吸い込んでいると、ここ最近ずっと荒んでいた気持ちが少しずつ薄らいでいく感じがする。頭の中で暴れ回る怒りや焦り、不安が少しずつ落ち着く。暴れ回る魔力が静かに沈んでいく。
「ねえ、リゼなんともない?」
「ない」
「顔を見せて」
「いや。離れたくない」
顔を見せるなら少し体を離して見上げないといけない。けれどその少し体を離すということができそうにない、久々の番、離れたくない。
セドリックは短く息を白と諦めたようにリゼを抱きしめた。
「怪我はない?」
「ない」
「シド」
「本当にありません」
「セドリック、セドリック、ここにエレイン様含めて私を襲った人を捕まえたし、証拠も握った。これでどうにかなる?」
「……」
セドリックは困惑してシドを見つめる
「事実です」
シドは答える。
「ありがとう、どうにかなるよ。でも危ないことはしないでほしいな」
セドリックがリゼの頭を撫でると、抱きしめる腕にさらに力が入った。
リゼと過ごせるようになるために必死で働いていたつもりが、どうやらこんなことになるまで寂しく不安な思いをさせていたらしい。その事実を目の当たりにしてセドリックは胸が締め付けられる。
早く片付けるのももちろん大事だが、もっとリゼのことを省みるべきだった。
あまり人に会いたくないと言っていたリゼが、ここまで大胆に動くとは予想ができなかった。
ましてやエレインと対峙させるなんて。
エレインたちはリゼを亡き者にするためにここに呼び出したに違いない。どういうわけかエレインは気を失っているが、万が一リゼが本当に殺されてしまっていたかと思うと苦しい。
思わずリゼを強い力で抱きしめ返す。
「無事でよかった」
「ふふ」
強い力で抱きしめられてリゼは嬉しそうだった。
「セドリックは、みんなを連れて王城までとべる?」
「転移魔法でってこと?できるよ」
「じゃあ飛んで」
番の頼みには弱い。
たとえどんな意図があるのか確認できなくても。
セドリックは状況が飲み込めないまま、その場にいた全員を連れて王城に飛んだ。




