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人間と偽って暮らすトラウマ持ちの魔女、番の竜人に拐われましたがそれなりに幸せです  作者: 立花 みどり
第一章

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反撃は一瞬


「シドは私についてきて」


 飛び込んできたシドとレインに指示する。


「リゼ様、私も……!」

『ついてこないで。レインはここに残って』


 魔力をこめて、言霊でレインの行動を制する。魔法が使えなくても言霊は使える。言葉に魔力を乗せて命じればいいだけだから。命じられたレインは動けなくなり立ち止まる。


「ごめんね。シドも反抗しないで。しても無駄だから。ついてきて。セドリックと会うための手伝いをちょっとしてくれればいいから。ね」


 その時レインとシドがみたリゼは、見たことのない顔で笑っていた。


 ごくり、と息を呑むシドを連れてリゼは屋敷の出口へと向かった。

 屋敷の敷地を覆うように、何層にも結界が張ってある。外部からの侵入者を防ぐのが目的だ。だから逆に屋敷の内側から外に出る分にはなんの制約もない。


 誰もいない門を開け、結界の外に出る。


 屋敷の外には何人かの竜人が待機していた。まさかリゼが自分から屋敷から出てくるとは思っていなかったらしい。竜人たちは驚いた顔をしている。あるいは漏れでる魔力量に驚いているのかもしれない。

 驚いている竜人たちの顔を見ると少しだけ気持ちが落ち着く。ふう、とため息をついて魔力を調整した。あまり驚かれては誰も相手をしてくれなくなってしまう。


「あなたたちがあまりにもしつこいから、出てきたけど?」


 固まってしまってどうにもならない彼らに話かける。

 すると彼らはハッとした表情で、懐から紙を取り出して破いた。その瞬間、リゼと彼らの足元に魔法陣が広がる。移動スクロールだ。


 ***


 体が浮遊する感覚がして、やがて落ち着く。移動スクロールによる移動が終わり、リゼとシドは古く薄暗い部屋にいた。部屋を軽く見渡せば、長らく使われていない貴族の部屋に見えた。


 ここはどこだろう。


 部屋の奥に何人かの人影が見えた。真ん中の女性には見覚えがあった。感じる魔力にも覚えがある。


「お久しぶりですね、エレイン様」

「お前は本当に忌々しいわね、叔父様があんなに身を削って甲斐甲斐しく守っていたというのに、のこのこと出てきてどういうつもり?」

「忌々しいのはそっちでしょう?」


 セドリックと会えなくしているのはそっちだろう。あなたたちのせいで、私は番に会えない。


 エレインは堂々と返答するリゼに一瞬驚く。この国で、こうも堂々と口答えする者はいない。適当に理由をつけて目の前からいなくなるか、すり寄ってくるかのどちらかだ。

 けれど驚いたのは一瞬で、平民に、それも人間に言い返されたことに腹を立てる。


「本当に生意気だわ」

「まあ、今日は生意気をしにきたから。……シド、エレイン様以外の竜人が8人いるけど、どれくらい相手できる?」

「エレイン様以外であれば大丈夫です」

「そう、じゃあ任せたわ」

「……っ 舐めた真似を!お前たち!」


 言うなりシドとエレインの後ろに控えていた竜人たちが飛び出す。何人かがリゼに向かってきたが、セドリックに渡されていた守りの魔道具により弾かれ吹っ飛ばされる。


 剣がぶつかる音、魔法が繰り出される音、誰かが潰れる音、いろんな音がする。

 けれどエレインとリゼは互いから目線を逸らさない。


「お前を始末するために毒を用意したのよ。シナリオも考えてある。叔父様が不在の間、お前はそこの魔族と恋に落ちるの。駆け落ちしようとするの。でも叔父様の番である以上それは許されない。だから二人でここで心中する。お前は知らないだろうけど、この城はかつてそうやって心中した王族の古城なのよ。きっとこれで叔父様も納得してくださるわ」


 そんなわけあるものか。

 リゼがセドリック以外に懸想することもありえないし、心中と聞いて「じゃあ仕方ないね」と納得するわけがない。そもそもシドを連れてこなかったらどうするんだ。誰に唆されたのかしらないけれど、シナリオを立てるならもっと説得力のあるものにしてほしい。所詮は彼女もコマの一つなんだろう。だからといって許すつもりはないけれど。


 呆れたリゼの表情には気づかず、エレインは得意げにドレスの隙間から小瓶を取り出す。それはリゼにとって見慣れた、忌々しい色の毒。


「……魔族の血、ですね」

「そうよ。お前ったら並の竜人なら倒れるくらいの毒を盛ったのに死なないんだもの。あれで死なないんだからもうこれしかないじゃない。これはどんなに毒に耐性があっても無駄。保護魔法だって貫通する。力の強い竜人ですら死なないように維持するのが限界。お前は人間だから、すぐに死ぬでしょうね」

「一つ確認なのですが、陛下とロイド様も、エレイン様が手にかけたのですか?」


 実の父と兄を。


「いいえ。私はこれを手に入れて欲しいって言われたから手に入れただけ。実際に私が使うのはお前が初めてよ」

「そうですか。……あなたは、その毒がどうやって作られているかも知らないんでしょうね」


 リゼの声は、戦う音でかき消される。


 リゼにとって魔族の毒は因縁の毒だ。


 なぜならそれはジョエルが作った。

 リゼを監禁し続けるために、作ったものだから。自分がいなければ生まれなかった、死に至らしめる毒。

 製法は各国のごく一部の者だけに通達されている。これは作る過程でも多くの命を奪うのだ。だからこそ所持すら認められていない。


 リゼはエレインに向かって歩き、目の前に立つ。エレインはリゼが自分に勝てるはずがないと思っている。ここに呼び出した時点で勝利を確信している。たとえシドが他の竜人を抑えたとしても、シドはエレインに勝つことができないから。だからリゼが近いてもまるで動じない。


 エレインの手元から魔族の毒を奪う。意外と力は入っていなかった。簡単に奪えた。


 そしてリゼは見せつけるように目の前でゆっくりとそれを飲み干した。この毒がエレインの手にある限り面倒なことになる。

 ……であれば死なない自分が飲み干してしまったほうがいい。


「お前、自殺志願者なわけ?」

「いいえ?」


 戦闘の音が次第に止んでいく。シドがあらかた倒し終えたのかもしれない。リゼとエレインは静かに見つめあっている。


「……お前、どうして死なないの」

「さあ。これが偽物なのでは?」

「そんなはずないわ!きちんと試したもの!」

「……そう」


 試したと言うことは誰かが死んだと言うことだ。

 エレインにとって命は軽いんだろうか。命を軽々しく扱う人は嫌いだ。


「おかしい、おかしいわ。お前、なんで死なないの」

「運がいいんでしょうね」

「もういいわ、お前は直接私が始末する」


 エレインが目を見開き、リゼに向かって手を伸ばす。


『動くな』


 エレインの腕を、リゼは言葉だけで制した。

 言霊。エレインを制することのできる単純で強いことば。


「なに!?……人間風情がわたくしより魔力が多いと言うの!?」

「そうかもしれませんね」

「お前はここで死ぬの!死ぬべきよ!!叔父様は私と結ばれるのが正しいの!!!」

「……はあ。少し静かにしてください」


 リゼはエレインの手に触れた。

 普段は自分から他人に触れるなんて絶対にしないことだ。動けなくなったエレインの首に触れて、彼女の体に自分の魔力を無遠慮に大量に流し込む。


「……ぁ」


 瞬間、エレインは白目を向いて倒れた。彼女はリゼの膨大な魔力を受け止めきれずに気絶した。いわばひどい魔力酔い状態だ。

 力の強い人は、いざこうして自分よりも強い力に襲われた時、意外と対処できないものだ。魔力を流す間、ほんの一瞬の間だったけれど何も抵抗されなかった。


「シド、エレイン様を拘束してくれる?……ていうか、拘束できる?」

「……あ、はい、大丈夫です」


 戦いを終えたシドは呆然とリゼをみていた。


「私を移動スクロールで連れてきたことと、傷つけようとしたこと、毒殺しようとしたこと、この毒が入っていた瓶があればきっと反王政派を捕まえる理由にはなるよね?」

「はい、もちろんです」

「彼らを縛ったらそこにまとめて」

「はい」


 エレインを含め、この城にいた者たちは全員気を失っている。


「さて、セドリックに会いに行きたいのだけど、一体ここはどこなのかしら」

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