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人間と偽って暮らすトラウマ持ちの魔女、番の竜人に拐われましたがそれなりに幸せです  作者: 立花 みどり
第一章

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我慢の限界


「リゼ様!大変です!」


 その日は激しい雨が降っていた。竜人の国は比較的気候が穏やかで、激しい雨が降ることは珍しい。リゼは窓辺に座って雨を眺めていた。

 番狂いの症状により、口を開けば苛立った口調でセドリックに会えないことを責めてしまいそうで、口を閉ざして静かに過ごしていた。


 そんな中、レインとシドが慌てて部屋に入ってくる。

 こんなに慌てているのは食あたり騒動あらため毒殺騒動以来初めて見るかもしれない。


「どうしたの」


 苛立ちを抑えようとするあまり、リゼの声は無機質だ。


「……ロイド様が、毒に倒れました。セドリック様が事前に指示された通りこれから第五段階まで引き上げます。ここからは籠城戦になります」


 ーー籠城戦、またセドリックに会えないってこと?


「どれくらいでセドリックに会える?」

「今は……なんとも。ロイド様の身柄は陛下と同じく安全な場所に保護したとお聞きしました。セドリック様はこれから調査と公務を行うことになります」

「帰ってこない?」

「しばらくは」

「そう……そうなの」


 ーーそう、そのつもりなの。本気なのね。


 ぷつん、とリゼは何かがキレるのを感じた。

 自分の奥底から絶え間なく煮えたぎる感情が湧き起こる。今まで必死に押さえていた怒り、苛立ち、番を求める感情。それがジリジリと表面の向かって競り上がってくる。

 リゼはもう、それを止めない。


「わかった。少し一人にしてくれる?」


 これからの作戦を立てるから。


***


 作戦を立てると意気込んだものの、リゼは冷静さを欠いていた。

 セドリックを最短で取り戻すことしか頭にない。


 そのためには何をすべきか。何ができるか。何を犠牲にできるかを考える。考える、考える。……考えようとしたけれど、リゼにはあまり理性が残っていないようだ。短くため息をついた。

 セドリックにしばらく会えないということだけが確定してしまった。しばらくってどれくらい?ロイドがいても全然会えなかったのに、セドリックだけになってしまった今、いつ会えるというんだろう。


 ……邪魔だなあ。


 エレイン様が、その背後に立つ貴族たちが、私たちの邪魔をするすべての者たちが。邪魔だ。彼らを排除すればセドリックに会えるだろうか。ロイドも、陛下も、起こしてしまえばセドリックは公務から解放されて一緒の時間を過ごしてくれるだろうか。自分以外のことを考えずにいてくれるだろうか。


 このまま何年もセドリックに会えないというのは耐えらない。


 セドリックが予想した通りリゼは番狂いによって死ぬことはないだろう。だってリゼは死なない体なのだから。でも精神が持たない。セドリックが想定しているよりリゼの精神は脆い。じっとしてられるほどの余裕がない。


「排除しよう」


 そうしよう。

 耐えられない。セドリックに会えない?これ以上?もう狂ってるのに?これ以上何を我慢すればいいというのか。

 彼らが私を排除したいというならば、私に会いたいというならば会ってあげよう。そして教えてあげよう。君たちでは私を排除することなんてできないということを。魔法が使えなくても、相手を倒す手段はたくさんある。たくさん探した。いっぱい身につけた。だから大丈夫。蹂躙できる。


 思考を巡らせている間に、感情を抑えきれずに魔力が漏れ出す。

 

 ーーパキン


 途中、魔力量を誤魔化すためにつけている、魔力抑制の魔道具が壊れる音がした。

 あ、壊れちゃいけないのに。魔力量が多いって、人間ではありえない量だってバレちゃうのに。なんで隠してたんだっけ。でも隠している限りセドリックには会えない。じゃあ仕方がない。


 リゼは漏れ出る魔力を止められない。もう何十年も魔力を大量に消費してこなかったから、有り余るほどにある。

 保護魔法をかけていない家具は壊れ、窓ガラスはガタガタと揺れる。でもそれを気にする余裕すらない。

 音を聞きつけてレインとシドが部屋に入ってくる。

 自分に向かって二人は何かを言っているが、リゼの耳にはそれが入ってこない。


 リゼは完全にキレていた。

 


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