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人間と偽って暮らすトラウマ持ちの魔女、番の竜人に拐われましたがそれなりに幸せです  作者: 立花 みどり
第一章

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それはまるで審問

今回ちょっと長め

「リゼ、に一つ謝らないといけないことがあるんだけど」

「?」

「ヴッ」


 頭にはてなを浮かべるリゼが愛おしすぎて、セドリックから変な声が漏れる。


「近々、ロイドがリゼに会いにくる」

「ロイド様?どうして?」

「決まりなんだ」

「決まりなの」

「そう」

「じゃあいいよ」


 リゼはあっさり了承する。王族が訪ねてくるのに断る理由はない。まあ、エレインならば多少遠慮したいところではあるが。


「リゼは、ほら、あまり他人が好きじゃないと思ったから」

 

 セドリックは最初に話した触れられたくない、一目に立ちたくないというリゼの願いを気にしているようだ。


「別に触れられるのがダメなだけで、人と会うのがダメなわけじゃないから大丈夫。別にロイド様と挨拶で握手とかハグが必要なわけじゃないよね……?」

「そんなことしたら触れた面を削ぎ落とすよ」

「じゃあ大丈夫」

「ほんと…?」


 セドリックは不安なようだ


「私は、本当に人に触れられるのがダメなの。あと、その原因に関わった人に会うのがダメ。でもそれ以外ならなんでも大丈夫なんだよ。たとえば誰かが急に目の前に現れて、「平民がセドリック様と仲良くするな」とたくさん暴言を吐いても平気だよ。触られなければいいの。この感覚は理解するのが難しいかもしれないけど」


 もしも本当にそんな人がリゼに接触したならば、セドリックは本人と止めなかった側近と警備に関わるものを全員罰するだろう。


 「何が言いたいかと言うと、繊細な部分は確かに繊細だけど、それ以外ば鈍感だってこと。だから気にしないでいいし、セドリックが気を遣い過ぎなくても大丈夫だよ」


 セドリックの考えを知らないリゼは微笑んで手を握った。

 

 最近は少しずつ、リゼから触れてくれることが増えた。それが嬉しくて、セドリックはリゼを抱きしめた。


***


「こんにちは」

「……こんにちは」

 

 数日後にロイドは訪ねてきた。背後には魔族の護衛を一人だけ連れている。来る、とは聞いていたけれど、思ったより急に来たのでびっくりしていた。

 なんかこう、事前に知らせとかないのか。


「初めまして、リゼ嬢。叔父上から話は聞いています。私はこの国の第一王子であり、あなたの番の甥であるロイドです。以後お見知り置きを」

「初めまして。あ、リゼです。セドリックの番です」

 

 王太子に対してこんな挨拶で大丈夫かとは思ったが、今のリゼに語れることはこのくらいしかない。一応人間の平民だから。


 ロイドは見事に『理想の王子様』のような見た目をしていた。

 金髪に碧眼。角はセドリックよりも淡い青色。所々に金が混ざっているのか、光を浴びてキラキラして見える。整った容姿に優しそうな笑顔。背は高く体は適度に鍛えられている。絵本の王子様はロイドををモデルにしたのではないかと思うくらいに。


「こちらは護衛のシド」


 ロイドは背後に立つ護衛を紹介する。


 ーー護衛は魔族なんだ。


 シドの肌の色とツノを見る。魔族の特有の褐色の肌に深い色の角が生えていた。竜人のツノは色鮮やかな場合が多いのに対して魔族のツノは黒や藍色といった深い色合いをしている。


「初めましてシド様。冬の夜空を詰め込んだような素敵な角ですね」


 リゼはシドの角を褒める。シドは一瞬驚いたような表情をする。


「ありがとうございます。リゼ様も秋を思わせる素敵な髪色です」


 これは魔族の初対面の挨拶である。相手が魔族だった場合は角を褒める。魔族ではなかった場合は髪色を褒める。大体定型句が決まっていて、季節に例えて褒めることが多い。


 そしてこれは魔族の中でも高位の貴族しかしない挨拶なのだが、リゼは気づいていない。

 過去の習慣から無意識に「人間の平民では到底ありえない挨拶」をしてしまっていたのだ。


 実際、シドは高位の貴族である。魔族の中でも『心眼のダンタリオン侯爵』として有名だ。侯爵家に生まれたものは嘘を見抜く瞳を持つ。(ちなみに侯爵家はこの呼び名が恥ずかしくて気に入らないと思っている)

 シドは侯爵家の四男で、フレド国に留学していたところをロイドに熱心に口説かれ、今は護衛として仕えている。


 リゼはシドを見た瞬間に彼がダンタリオン侯爵家のものだと気づいた。濃い藍色に星空のような煌めきが混ざったツノは珍しい。それにシドは現当主の特徴を多く受け継いでいる。シドとは面識はないものの侯爵とは何度か顔を合わせていた。


「今日僕たちがリゼ嬢を訪問した理由は聞いてる?」


 ソファに座りながらロイドが尋ねる。リゼも促されて正面に座る。


「少しだけ」

「王族に番ができた時の決まりなんだ。竜族は他の種族より番に執着する傾向が強い。特に叔父上は長らく番を探していたからね」

「はい」

「この決まりの理由なんだけど、たとえばリゼ嬢がとても悪い人だったとして、番である叔父上に『皇帝を殺してくれ』と頼んだらどうなると思う?」

「実行するんですか……?」

 

 実の兄なのに?


「実行するよ。それが親であろうと何であろうと。番の願いが第一なんだ。だから王族や要人に番ができた場合は身辺調査を行う決まりなんだ」


 なるほど。リゼは頷く。

 リゼが悪い人だった場合、この国は一気に傾いてしまう。


「勝手で申し訳ないけどリゼ嬢の過去を探ってみた。もちろん叔父上の許可はもらってるよ。渋々だったけど。君の名前や住んでいた街から素性を探ってみた。王家のあらゆる力を使ってね。でもリゼ嬢のことはなにもわからなかったよ」


 それはそうだろう。

 リゼだってもう何十年も本気のかくれんぼを続けてきているのだ。


「わかったのは叔父上と出会った街にきて二年くらいが経ったということ。それ以前の足取りは分からず。いくつかの主要な都市と交通の要所でも聞き込みをしたけど目撃情報はなしだ」

「ずっと田舎で暮らしていましたから」

「うん、叔父上から聞いてる。身を隠してたってね。それにしたって随分本気で身を隠していたようだね」

「まあそれなりです」


 それなりに、本気で。


「見たところ君は悪い人じゃなさそうだけど素性は知れない。だからいくつか質問をして、本当に君が安全かどうか判断したいんだ」


 リゼは昨日のセドリックを思い出す。「リゼを疑ってるわけじゃないんだよ」「どうしても決まりなんだ」「ごめん、嫌だよね」なんて申し訳なさそうにしょげていた。


 でもリゼ自身は訪問に納得している。

 そりゃそうだと思う。突然素性の知れない平民の女が「番です」という理由だけで王弟と離宮にこもり出したら、誰だって警戒すると思う。特に皇帝が倒れて政務を代理しているこの状況ならなおさらだ。


 今のところ、リゼの素性はこの上なく怪しいという自覚はある。王族の番だ。セドリックと籠っていた間にリゼのことを調べただろう。でも、どれだけ調べても2年以上前の情報は出てこないはずだ。そういうふうに暮らしてきた。

 過去が一切わからない、魔術の使える人間の平民。表舞台に立ちたくないし、誰にも触られたくないと言う。うん、事実だけ並べればまあまあな不審者である。


 構わないですよ、と言ってリゼは笑った。ロイドとシドは一瞬意外そうな顔をして、「そういうことならば」と質問を始めた。


「質問を始める前に。今日ここで会話したことは僕、シド、君、叔父上、……もしも目が覚めたら父上、それ以外の人物に共有されることはない。この部屋には結界を張る。外で控えている護衛にも聞こえない。だから安心して答えて欲しい」

「わかりました」


 ありがとう、というとロイドは手をパン、と叩いた。その瞬間、部屋が結界に包まれるのがわかった。


「じゃあまずは身の上から。君の名前はリゼ。人間の国で暮らす平民。そうだね?」

「はい」

「魔法は使える?」

「いいえ」

「魔術は?」

「それなりに」

「魔術を使って、叔父上を殺すことはできる?」

「セドリックの強さが分からないからわからないです」


 正直に答える。嘘は言っていない。


「犯罪に手を染めたことはある?」

「いいえ」

「家族構成を教えてもらえる?」

「両親と弟が二人います」

「仲はいいの?」

「はい」

「連絡は取り合ってる?」

「ごくたまに」

「家族に犯罪者はいる?」

「……いいえ」


 ジョエルは犯罪者だけど、彼は家族ではない。


「君に弱みになりそうなものはある?」

「あります」

「それは何?」

「言えません」


 過去の話は、そこから来る体質は、完全に弱みだ。でも今はその話はしたくない。少なくとも、セドリックよりも先にこの人に言いたくない。


「……じゃあもしも、君のその弱みを誰かに握られたとしよう。それを利用して僕や叔父上を害するように言われたらどうする?」

「……そうですね、」


 言葉を切ってリゼは考える。


 目を伏せて、少しだけ想像をしてみる。本当は考えたくもない。できれば忘れ去りたい記憶だけど、常に頭の中にあり、人生の中で大半を埋め尽くしてしまった従兄弟のことを。


 ーー『リゼ、大好きだよ、帰ろう。番?僕がいるのに?不要だろう、消してあげるよ。ええ?消されるのは嫌なの?本当にリゼはわがままだなあ。可愛いよ。じゃあ、リゼが彼を消すんだ。そうすれば僕は消さないよ。ね、リゼ、できるよね』


 頭の中のジョエルが囁く。想像上の彼でしかない。けれどリゼには、彼がそうするだろうと言う確信が持てた。

 囚われていた半年の間、彼はリゼに執着し続けた。もしもリゼに番が見つかったとわかれば、間違いなく害するだろう。

 

 ーーそれは嫌だ。たとえ、セドリックに二度と会えずとも。また辛い目にあったとしても。


 本能的にそう思った。自分のせいでセドリックが傷つくのは耐えられない。


「もしも、本当にその時がきたら私はここから居なくなるでしょう。二度とここにはこない。セドリックとも会わない。それで私が死ぬというならそれもいいでしょう」


 それが一番セドリックを守る手段なら。私はそれを厭わない。そんな選択をする気がする。

 セドリックを害するのを止めるためなら、ジョエルを愛するふりだってしてみせる。心が引き裂かれようとも、熱が出ようとも、それでセドリックが無事なら私はそっちを選ぶだろう。


 ロイドとシドが息を飲む。


「それは、……まずいな。叔父上が大暴れするだろうね。この国が更地になる」

「私の事情に誰かを巻き込むつもりはありません。それが番であっても」


 セドリックがどんなに強くても。隠してくれれば、それでいい。もしも見つかったら、その時は自分だけで対処したい。じゃないと、セドリックが傷つく。それは耐えられない。


「番である叔父上に相談したいとは思わないの?助けて、って言えば叔父上はそれこそ全てを投げ打って助けると思う。そうしたくはならないの?」


 助けて、と言って。ジョエルと相対して。

 もしもセドリックが傷つくようなことがあれば、リゼは自分を許せないだろう。

 ジョエルはリゼを手に入れるために簡単に、無関係な他者でさえ傷つける。それも大量に。それを知っている。ジョエルは危険だ。ネジが飛びすぎてる。


「助けを求める予定はありません」

「……そっか」


 ロイドは少し寂しそうな顔をする。

 番としては助けを求めるのが正解なのかもしれないな、と思う。でも、もう一度考えてみても、やっぱりそれはできそうになかった。


 リゼはふう、と深く息を吐く。


「私の弱みは、すでに聞いていると思いますが、他人に触れられると体調を崩してしまうことです」


 空を見つめながら話すリゼを、ロイドとシドは静かに見つめる


「とあるきっかけがあって、この体質になりました。きっかけについて、今は話したくありません。……が、原因になった人物がいます。その人はいまだに私を探しています」

「それは……」


 沈黙が流れる。


「だから隠れて暮らしているんです。彼は、……異常です。常識が通用しません。倫理観もない。だから私が見つかって、その人が私の周りの人に対して何をするか、正直予想がつかない。ブレーキがないから。だから巻き込みたくないし、助けを求める気はないです。番ならなおさら」


 ごめんなさい、今話せそうなのはここまでです、とリゼは謝る。


「できれば、詮索しないでください。見つかったら私はまた逃げなくちゃいけません。私のことを隠していてください。それが私なりの最大限の『助けて』です」

「……そうか」

「私はセドリックの隣にいても大丈夫そうでしょうか」


 厄介な問題を抱えているものだなと思う。


「正直に言うと、まあ、この会は形式的なもので、たとえば君に犯罪歴があったり、脳みそがお花畑であったとしても叔父上と引き離されることはないよ。監視がつくくらいだ。で、今回君の話を踏まえても、別に叔父上と引き離すことはない、というか引き離したほうが危険だ。王城が木っ端微塵になる可能性がある。叔父上が暴れて」


 あのセドリックがそんなことをするのが想像できない。


「叔父上は君には優しいかもしれないけど、元々厳しくて冷たい人だよ」

「そうなんですか?」

「そうだよ」


 やはり想像はできない。


「まあ、君には僕の方からも護衛をつける形になるだろうね。誰を、何人つけるかは叔父上と相談だけど。ああ、エレインの件は聞いてるんだっけ?」


 苛烈なロイドの妹。


 「そう。君の複雑な事情に加えて、僕の愚かな妹が何をするか分からないからね。レインに加えて警備は増やす予定なんだ。ただ適当に増やしても裏切り者が出る可能性があるから、誰をつけるか検討中でね。妹は直情的で苛烈なんだけど、後ろについている貴族がこざかしいからね。なるべくいろんなことに対応できる護衛をつけるつもりだよ」


 思ったよりも手厚い。


「じゃあ私は今までと変わりなく過ごしてていいんですか」

「うんいいよ」


 リゼはほっと息を吐いた。

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