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人間と偽って暮らすトラウマ持ちの魔女、番の竜人に拐われましたがそれなりに幸せです  作者: 立花 みどり
第一章

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報告


 セドリックが執務室で仕事をしていると、リゼとの面会を終えたロイドとシドが戻ってきた。

 

「ただいま戻りました」

「おい、思ったよりも長くないか?リゼに触れてないだろうな」

「長くはないですよ。それに触れてませんって。叔父上の番にそんなことするわけないじゃないですか……。わかってるくせに……」


 セドリックは大量の書類から目を離さないまま、ぶつくさと文句を言う。その口調はリゼと二人でいる時とは大違いだ。


 辛辣な叔父を見ながら、ひ弱そうな平民の娘を思い出す。

 平民の娘の割には肝が据わっているようだった。竜人の王族を前にしても怯みもせず、目も逸らさない。真っ直ぐに見つめ返してきた。


 ロイドは執務室のソファに座る。叔父を見れば「早く話せ」と言わんばかりに睨んできた。シドに紅茶を入れるよう頼んで、今日話した内容を共有する。


 案の定、リゼが追われているという話をした時にバキッとペンが折れる音がした。


「誰に追われてるんだ?」

「知りませんよ。でもかなり言いたくなさそうだったので掘り下げませんでした。叔父上も、そんな大事な話を僕伝いに聞きたくないでしょうし」

「当たり前だ」

「まあ時が経てば教えてくれるんじゃないですか?まだ出会ってひと月かそこらでしょ。こっちがゴタゴタしてるって話した後に自分の複雑な事情なんて話しづらいですよ」


 そういうとセドリックはううん、と唸って黙ってしまう。

 シドは二人分の紅茶を入れて戻ってきた。


「シド、お前的には彼女はどう見えた?」

「嘘はついてませんでしたよ。堂々としすぎているとは思いましたが」


 それはセドリックも思っていた。妙に状況を受け入れるのが早いなと。


「そう言えばお前、最初挨拶された時にびっくりしてなかったか?あれはなんだったんだ?」

「あれは、……リゼ嬢が魔族式の挨拶をしたので驚いていたんです」

「魔族式の挨拶?」


 王族だけど知らないぞ、とセドリックとロイドは不思議そうにしている。


「高位の魔族の間だけの、古い挨拶なので。互いの角を褒めるんですよ。大抵季節の何かに例えることが多いですね。かなり正確な挨拶だったので、知り合いに高位の魔族がいるのかもしれません」

「魔族か……、お前以外に交流がないな。高位の魔族って言ってもかなりの数がいるだろう。特定するのは無理だな」

「知り合いに高位の魔族がいるのであれば、ある程度異種族に慣れているのかもしれませんね。我々を見ても怯えませんから」

「そうだな」


 いつか全てを話してくれるだろうか。あとどれくらい話せば全てを教えてくれるだろうか。

 できれば生まれた瞬間から、今に至るまで全てを聞きたいくらいなのに、見つけた番は二年より前については謎に包まれすぎている。


 本気で探ることもできなくはない。でももし本人に秘密で調べたとなればリゼは嫌がるだろう。

 それは避けたい。


「いつか全てを話して欲しいな」

「ですねえ」


 秘密の多すぎる少女を思って、三人は小さく息を吐いた。



***


「リゼ!」


 ロイドとリゼの面会の後、セドリックは早めに離宮へ戻ってきた。


「お帰り」

「大丈夫?嫌なことはなかった?つらくない?体調は?触られてはいないよね?」


 矢継ぎ早に質問して、返事を待たずにリゼの体を抱きしめて匂いを嗅いでいる。誰かがリゼに触れなかったか確認しているようだ。

 セドリックは鼻がいいらしい。誰にも触れていないのに、ある程度一緒にいると匂いで誰といたかがわかってしまう。


「よかった。匂いはついてないね。ごめんね、流石に他の男の匂いがついているとあまり気分が良くなくて」


 それはピネからも聞いていた。ので実はセドリックに会う前に一度湯浴みを済ませて念入りに体を洗ってある。


「大丈夫、少しおしゃべりしたくらいじゃなんともないよ。それより夕飯は食べた?まだなら一緒に食べよう。今日はセドリックと食べたくて待ってたの」


 いつもはこの時間だと先に食べてしまっている。

 だけど、今日はなるべくセドリックと時間を共にしたい気分だった。


 少し不安で、少し寂しい。

 理由はわかっている。少しだけジョエルのことを思い出したからだ。


 その不安を感じ取ったのか、単純に嬉しかったのかセドリックは破顔するとリゼを抱え上げてピネに食事の準備をするように伝えた。

 ピネが準備をしてくれている間、セドリックは座ってリゼを膝の上に抱えていた。リゼは何も言わずにセドリックに抱きついて待った。セドリックの甘い匂いを嗅いでいるとひどく安心する。


 ご飯を食べて、寝支度を済ませて寝室のベッドに横たわる。セドリックはいまだにリゼに軽いキス以外はしてこない。

 けれどお互いが番であることを強く認識していた。当たり前のようにリゼはセドリックの方を向いて、セドリックはそんなリゼを抱き寄せた。セドリックの少し高い体温が心地いい。


「今日は疲れたでしょ、おやすみ」

「ん」


 そして二人は眠った。


 

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