避難
結界へ向かう途中。
瓦礫の影から、ふいに声が響いた。
「蒼星!!」
(……え?)
「……お父さん!?」
振り返った先。
埃まみれのまま立っていたのは、父だった。
その後ろから、母も駆けてくる。
「蒼星……っ!」
「お母さん……!」
次の瞬間、強く抱きしめられた。
「よかった……本当に……」
(……あったかい)
さっきまで張り詰めていたものが、一気にほどける。
「……うん」
小さく頷く。
(ちゃんと、生きてる)
父が、少し離れた場所にいる氷の青年に目を向けた。
「君が一緒にいてくれたのか」
「別に、大したことは」
「助かった。ありがとう」
父はしっかりと頭を下げる。
青年はは少しだけ困った顔をした。
「……やめてください、俺も助けてもらいましたから」
蒼星は、そんなやり取りを見ながら――
少しだけ笑った。
さっきまでの恐怖が、少し遠くなる。
「ここは危ない。避難所へ行こう」
父が周囲を警戒しながら言う。
蒼星は頷いて、一歩踏み出す。
その瞬間――
視界が、少しだけ揺れる。
(……あれ)
足元が、ふわっと浮くような感覚。
時間の流れが、ほんの少しだけズレる。
(……さっきの、せい?)
自分の手を見る。
わずかに震えている。
「おい」
ぐっと腕を掴まれる。
「ふらついてるぞ」
「あ……」
氷の青年だった。
「……大丈夫です」
「いや、大丈夫じゃないだろ」
即答。
蒼星は少しだけむっとする。
「ほんとに平気」
「……そうか」
それ以上は何も言わない。
でも、手は離さないまま。
(……優しいのか、雑なのか分かんない)
そんなことを思いながら、歩き出す。
瓦礫の道を、慎重に進む。
(さっきの感じ……)
頭の奥が、少し重い。
(能力のせい?それとも時間いじったせい?)
(……これ、使いすぎたらどうなるんだろう)
誰にも言わないまま、胸の中で考える。
しばらく歩くと建物が見えてきた。
その周囲を淡い光が包んでいる。
「結界……?」
蒼星が手を伸ばすと、指先に柔らかい抵抗。
膜みたいな感触。
「……避難所はここだ。俺はまだ避難しきれていない人がいないか外に探しに行ってくる。この中は比較的安全だから、じゃあまた」
青年が静かに言う。
「あの…!ありがとうございました!」
少年は一瞬だけ黙って――
それから、少しだけ笑った。
その笑顔を残して街中の中に、消えていく。
(あ…名前聞きそびれちゃった)
蒼星は、その背中をしばらく見ていた。
(……また、会えるかな)
理由は分からない。
でも――
そう思った。




