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時還のシャーナ (じかんのシャーナ)  作者: 青葉 星


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6/15

助ける勇気

蒼星は、ゆっくりと息を吸った。

怖い。

正直に言えば、足が震えていた。

あの化け物を前にして、戦える気なんてしない。

逃げたい。

家の中に戻って、何も見なかったことにしたい。

――でも。

「……誰かが戦ってるんだよね」

小さく、確認するように呟く。

さっきの女性の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

“能力を使える人たちが戦ってくれてます”

蒼星は唇を噛んだ。

「……だったら、私も」

強いわけじゃない。

特別勇気があるわけでもない。

人の目だって気になる。

失敗したらどう思われるか、そんなことばかり考えてしまう。

でも――

「見てるだけは、やだ」

その言葉は、小さかったけど、はっきりしていた。

父が蒼星を見る。

「……行くのか」

止める声ではなかった。

ただ、確認するような低い声。

蒼星は少しだけ迷って、それでも頷いた。

「うん……でも、前に出るんじゃなくて」

「できること、やる」

父は一瞬だけ目を細めて、それから短く言った。

「……無茶はするな。危なくなったらすぐ戻れ」

「うん」

母は何も言わず、蒼星の手をぎゅっと握った。

その手は少し冷たくて、でも優しかった。

「……気をつけて」

蒼星は小さく笑った。

それから一歩、外へ出る。

空気が違う。

静かだけど、どこか張り詰めていて、

遠くからは低い唸り声と、何かが壊れる音が聞こえてくる。

蒼星は手を前に出した。

「……さっきと同じ」

意識を集中させる。

空間が、裂ける。

一つ。

目の前。

もう一つ。

“向こう側”――獣のいる方角。

見えないけど、確かに繋がっている。

蒼星は、そっと近くにあった小石を拾った。

「……いけるかな」

小石を、穴の中に落とす。

次の瞬間。

――ガンッ!!

遠くから、何かにぶつかる音が響いた。

蒼星の目が見開かれる。

「……今の……」

届いた。

確実に。

心臓が一気に速くなる。

「……これ……」

ただの“穴”じゃない。

距離を、無視できる。

その時――

「危ない!!」

遠くから誰かの叫び声。

反射的に顔を上げる。

通りの先。

瓦礫の陰から、さっきのような異形の獣が飛び出していた。

その先には――

倒れて動けない、誰か。

蒼星の頭が真っ白になる。

(無理――)

(間に合わない――)

そう思った瞬間。

体が、勝手に動いた。

「――っ!!」

空間を開く。

一つ、目の前。

もう一つ――“あの人のすぐ横”。

位置を、強くイメージする。

ズレたら終わりだ。

怖い。

でも――

「お願い……!」

蒼星は手を突っ込んだ。

冷たい空間の中。

感覚だけを頼りに、“向こう側”へ腕を伸ばす。

指先に、布の感触。

「――掴んだ!!」

そのまま、力いっぱい引く。

次の瞬間。

倒れていた人の体が、ぐっと引き寄せられるように消え――

蒼星の目の前に、転がり出た。

「え……?」

引き寄せられた本人が、呆然とした声を漏らす。

直後。

さっきまでその人がいた場所を、

獣の爪が叩き潰した。

コンクリートが砕け、破片が飛び散る。

蒼星は息を止めたまま、それを見ていた。

数秒遅れて、全身が震え出す。

「……た、助かった……?」

目の前の人が、震えながら呟く。

蒼星は、うまく声が出せなかった。

ただ、何度も頷く。

心臓がうるさい。

怖い。

怖かった。

でも――

「……できた」

小さく、そう呟いた。

その目は、ほんの少しだけ変わっていた。

弱いまま。

怖いまま。

それでも一歩、踏み出した目だった。

遠くで、再び咆哮が響く。

戦いは、まだ終わっていない。

蒼星は、震える手をもう一度前に出した。

「……次、どうする」

自分に問いかけるように。

それでも、その声は――

さっきより、少しだけ強くなっていた。

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