光の終わり
あの日から、一週間が経った。
最初の数日は、ただ時間が流れていくだけだった。
外には出ない。出られない。
テレビとスマートフォンだけが、世界と繋がる手段だった。
それでも、少しずつ分かってきたことがある。
「......整理するぞ」
父が低い声で言う。
リビングの空気は張り詰めていた。
「まず、俺の力だが一危険が来る"前”に分かる。
方向も、なんとなくだがな」
「避けられるの?」
蒼星が聞く。
父は首を横に振る。
「いや、分かるだけだ」
短く、はっきりとした言葉だった。
「.....でも、それだけでもすごいよ」
母が言う。
だが父は苦く笑った。
「分かっても、止められなきゃ意味がない」
その一言で、空気が少し重くなる。
母は気を取り直すように、手を前に出した。
何もない空間。
そこに、ふわりと水が現れる。
ぽたり、とコップに落ちる。
量は少ない。細い糸のような水。
「私は......これくらいね」
少しだけ困ったように笑う。
「飲み水くらいにはなるけど」
「十分だよ」
蒼星はそう言った。
そして一自分の番だった。
「......私のは」
言葉を探す。
うまく説明できない。
ただ、手を前に出す。
集中する。
空気が、わずかに切れる。
そこに、見えない”穴”が生まれる。
直径は手のひらほど。
向こう側は暗い。だが"空間"があるのが分かる。
「......これ」
父と母が息を呑む。
蒼星は、その穴にそっと指を入れる。
冷たい。
でも、現実とは違うどこか。
「どこに繋がってるんだ?」
父が聞く。
蒼星は首を振る。
「......分かんない。でも、多分......どこでも作れる」
それ以上は、まだ分からない。
だが一つだけはっきりしている。
これは一他の二人とは違う。
テレビの音が場を切り替える。
『現在確認されている異常現象についてー』
画面には各地の映像が映る。
『動物のモンスター化が確認されています』
「今確認されてるモンスター化は哺乳類です』
蒼星の胸がわずかに痛む。
まだ、帰ってこない家族。
何も言えなかった。
『また、モンスターは光を避ける傾向があり一現在は上空の発光現象により活動が抑えられている可能
性が一』
母が窓の外を見る。
「......でも、光弱くなってるわね」
蒼星も外を見る。
確かに、あの空の光は日に日に薄くなっていた。
そして、その日の夜。
ニュースが大きく変わる。
『彗星は現在、地球から離れつつありますー」
空の映像。
光は、ほとんど消えかけている。
.......終わるのか?」
父が呟く。
誰も答えない。
そして一
光が消えた。
その瞬間、空気が変わる。
「......来る」
父の声が低くなる。
確信を持った声だった。
蒼星の心臓が跳ねる。
次の瞬間一
ドンツ!!
近くの建物の壁が内側から吹き飛んだ。
粉塵の中から現れたのは、異常な形をした何かだった。
四足の形。だが明らかに異常。
筋肉が歪に膨れ上がり、関節の位置がずれている。
目が複数に分かれ、呼吸のたびに体が軋む。
「......あれが......」
その瞬間悲鳴とドス黒い咆哮が聞こえてくる。
「私たちも逃げなきゃ!」
蒼星は父に向かって言うと、
「いや、今ここ付近に危険な気配はない。動かない方がいい。」
蒼星とは別に父は冷静だった。
そして、すぐに静かになる。
「......え......?」
蒼星が呟く。
玄関から外に出ると、大きな氷の塊が見えた。
逃げて来た人だろうか。ちらほらと氷の塊が見える方から人が来る。
「あの…!何があったんですか?」
蒼星は近くにいた女性に聞いた。
すると女性は少し興奮気味にでも怯えながら答えた。
「誰かが、バケモノを氷で倒してくれたんです!今避難所の方にバケモノが集まってて。能力を使える人たちが戦ってくれてます。私はまだ使えなくて、隣の中学校の避難所に結界を張れる人がいるらしくそこに行こうと思います」
その言葉を聞いてはっとする。
蒼星は自分の手を見る。
さっきの空間。
まだ小さい。
まだ不安定。何ができるかもわからない。
でも一守るためには助けるためにはやるしかない。
小さく呟く。
「これで、やるしかないってことだよね」
静かに手を前に出す。
空気が、再び切れる。
小さな空間が二つ生まれる。
一つは目の前。
もう一つは、モンスター現れた方向。
見えないだけで、繋がっている感覚がある。
「わかる。.....届く」
その言葉は、確に変わり始めていた。




