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時還のシャーナ (じかんのシャーナ)  作者: 青葉 星


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目覚め


朝のニュースは、昨日よりもはっきりしていた。

『政府は、本現象に対し緊急指針を発表しました——』

画面には、見慣れたはずの政治家の顔。けれど、その表情には余裕がなかった。

『国民は原則として自宅待機、もしくは指定された避難所への移動を行ってください』

『現在、避難所の安全確保を最優先に——』

言葉は整っているのに、どこか追いついていない。

蒼星あおいはテレビを見つめたまま呟く。

「……避難所」

父が腕を組む。

「このまま家にいるのも危険かもしれん」

母も小さく頷く。

「人がいる場所の方が、安心ではあるわね……」

沈黙が落ちる。

兄、神代かみしろ なぎはまだ帰っていない。

でも——

「……行こう」

父が決めた。

「戻ってきたら、避難所に来るはずだ」

蒼星は一瞬だけ迷ったが、頷いた。

「うん」

準備は最低限だった。

水、食料、貴重品。

そして、スマートフォン。

家を出る。

外の光は、相変わらず空を満たしていた。

昼なのに、昼じゃない。

空そのものが淡く燃えているみたいな光。

それでも昨日より、人の姿は多かった。

同じように避難所へ向かう人たち。

誰もが、不安そうな顔をしている。

「……増えてる」

蒼星が呟く。

「みんな同じこと考えてるんだろうな」

父が答える。

しばらく歩くと、小学校が見えてきた。

指定避難所。

そのはずだった。

けれど——

「……え」

門の前で、足が止まる。

人、人、人。

校門の外まで溢れかえっている。

怒鳴り声。

泣き声。

押し合う人たち。

「入れません!定員を超えています!」

係員の声がかき消される。

「ふざけるなよ!どこ行けばいいんだ!」

「子どもがいるんだぞ!」

混乱はすでに限界だった。

「……無理だな」

父が低く言う。

母は蒼星の手を強く握る。

「危ない、離れないで」

そのとき。

後ろから、誰かが押した。

「っ!」

体が前に倒れる。

足がもつれる。

その先には、人。

このままだと——

踏まれる。

そう思った瞬間。

「……やめて」

声にならない声が出た。

届かない。

止められない。

そのはずだった。

——ぐにゃり、と。

空気が歪む。

蒼星の周囲だけ、わずかに世界がズレた。

押してきた人の動きが、遅くなる。

「……え」

蒼星の手の先で、空間が薄く裂ける。

透明な膜のようなものが広がる。

次の瞬間。

ドン、と鈍い音。

押し寄せてきた人の流れが、そこで止まった。

まるで、見えない壁にぶつかったみたいに。

「……なに、今の……」

誰かが呟く。

蒼星自身も、理解できていなかった。

ただ——

「……守れた」

倒れていた人が、無事に起き上がる。

それだけは、分かった。

同時に、強い倦怠感が押し寄せる。

膝が揺れる。

「蒼星!」

母が支える。

「大丈夫!?今の……」

父も周囲を警戒しながら近づく。

蒼星は息を整えながら、小さく言う。

「……わかんない」

でも。

手のひらを見る。

さっき確かに、“何か”を作った。

触れられない距離を、変えた。

「……私」

胸の奥がざわつく。

ニュースの言葉がよぎる。

“能力に目覚めた人間”

そのとき初めて、はっきりと理解した。

「……ある」

自分にも。

“何か”がある。

避難所の喧騒は、まだ続いている。

でも蒼星の中では、別の変化が始まっていた。


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