2-12 弛緩(sideタナトス)
「………さん!タナトスさん!!」
はっと目を開くと、号泣したメラフィーヌが俺を揺さぶっていた。
状況が読み切れなくてあたりを見渡す。
ボロボロの建物は天井が無い。
機械だらけの三本の柱が青空に向かって伸びている。
ふらつく頭を叩き起こしながら身体を起こすと、メラフィーヌがぎゅっと抱きついてきた。
呆然としながら頭を撫でる。
紅い霧も煙もない。
柱の中にあった魔界への境目も綺麗サッパリ無くなっていた。
静かになった建物の中に鳥が入り込んでいて、ピチピチと妙に平和な音を奏でている。
「やっと起きたの」
リューカスがやれやれと言う顔で俺を覗き込んできた。
「え……どうなったの?」
「ほら、あれ」
リューカスが指差した先には、半身が消えて無くなったライエ・ゼライアが横たわっていた。
それをブランディーヌ様がなんとも言えない顔でじっと見ている。
「………核、破壊できたんだ」
「ギリギリね。ルヴァイ様の魔術の精度は凄いよ」
「お前がさっさと粉微塵にしたら良かったんじゃないの」
「そしたら俺の結界乱れてお前死んでたよ」
「………は?」
「みんなの周りに薄く結界張って、風の魔術で瘴気を弾いてた」
「嘘だろ。いつから」
「ライエ・ゼライアと戦い始めた辺りから。あの濃度を直に浴びたら中和薬もすぐに無くなるって、エルリーナが部屋に入る前に教えてくれた。……タナトスは一番先にあの部屋にいたから、ほんとにギリギリだったよ」
「…………そ、っか……」
それを聞いてまたメラフィーヌが号泣し始めた。
一日に何度も心配させてしまった。
お腹の子に影響がないか心配しながら、メラフィーヌを優しく撫でる。
「意識失う前、咄嗟に胸の魔導具で解毒薬を自分に投与したでしょ?あれがないと本当にやばかったと思う。魔導具仕込んでくれたエルリーナに感謝だね」
そう、出発前。
中和薬が切れて瘴気中毒になった時に、少しはマシかもしれないと胸元に仕込んでくれたのが解毒薬を身体に注入する魔導具だ。
叩けば魔術式が発動して、身体に解毒薬が注入される。
原理は簡単だが、今までこんな医療系魔導具なんて無かった。
この国に来る途中で思いついてパパっと魔王に作ってもらったそうだ。
その発想力に本当に感謝だ。
そこまで思ったところでハッとした。
「っ魔王とエルリーナは!?」
「…………」
リューカスが無言で床の扉を指差す。
まさか。
そんな。
泣きじゃくるメラフィーヌをそっと引き剥がし、フラフラと立ち上がる。
魔族と瘴気に振り回され、呪いに900年も翻弄された二人の最後が、瘴気中毒だなんて。
そんなの、そんなのあんまりだろう。
信じられない思いで膝をつき、床下に視線を向ける。
『信じられない!2ヶ月禁酒!?絶対嫌よ!!』
『……胃壁の保護魔術ぐらいなら、俺でもなんとか覚えられるんじゃないか?』
『ふざけるな。医療行為は医師免許がないと許されない』
『自分に対しての医療行為は?』
『…………ミリアル、すまん、法的にはどうだ?俺にはわからん』
『そんな法律あったかな………』
陽の光が差し込む床下のタンクの中で、魔王とその仲間たちが外国語でギャーギャー言い合っていた。
魔王もその女も、顔色は悪いが元気そうだ。
あと何故かしっかり手を繋いでいる。
仲良しか。
気が抜けて、はぁとため息を吐く。
「ふふ、お酒好きなのね、ルヴァイ様とエルリーナさん。元気になったらお見舞いでお父様オススメの高級ウイスキー贈ってあげようかな」
メラフィーヌが涙声で笑いながら俺の隣にしゃがみ込んだ。
なんだかその様子にホッとして、メラフィーヌを抱き寄せてその首筋に顔を埋める。
「ふふ、ちょっとタナトスさん、くすぐったい」
「……ちょっとだけ」
「恥ずかしいですから!」
「あとちょっと」
「ダメだ」
リューカスの声に一気に興ざめして、うんざりした顔を上げる。
リューカスも俺に負けず劣らず、イライラした顔をしていた。
「見た感じ魔力もだいぶ戻ってきてるみたいだし、このまま事後処理頼める?俺は早く帰ってルディと子供たちの様子が見たい」
「あ、ルディア大丈夫かな?」
「……さっきリッキーでミリアル様達をここに送り届けてくれたけど、かなり青い顔してたから、さっきカルバディス卿の家に強制送還した」
「………また餌付けすんの?」
「煩い。お前もうルディの話題は口に出すな。減る」
「ばかじゃねぇの」
「………じゃあ、あとは任せたから」
そう言うと、リューカスはくるりと背を向けてドアへ向かった。
ふと違和感を感じて、口を開く。
いつものリューカスなら、風の魔術で飛び上がって天井穴から抜け出し、一目散にルディアのところへ駆けつけるはずだ。
「飛んでかねぇの?」
「………道中視察しながら帰る」
少し振り向きざまに答えたリューカスの袖に、血の汚れがついていたのが見えてハッとする。
よく見たら、顔色も悪い。
……俺よりも、重症だったんじゃないか。
「………ゆっくり休めよ」
「お前だろそれ」
そう言って可笑しそうに笑ったリューカスの顔が昔の顔と重なって、なんとも言えない懐かしい気持ちになった。
リューカスが出ていった扉を見て、ふぅとため息を吐く。
「……タナトスさん」
「うん、ありがとう。大丈夫。メラフィーヌこそ、体調大丈夫?」
俺の様子を伺うメラフィーヌの頭をそっと撫でる。
メラフィーヌは泣きはらした顔をしながら、優しく笑った。
「はい、もう色んな事が起こりすぎて何もかも吹っ切れました」
ニコリと笑うメラフィーヌの笑顔。
いや、待て。
この顔。
口しか笑ってない。
「っあの、メラフィーヌ……?」
「タナトスさん、パパになってくれるんですよね?」
「も、もちろんだよ!」
「ふふ、良かった。じゃあこれから、色々頑張りましょうね。……お仕事も、パパになる為のお勉強も」
なぜだろう。
さっきの瘴気よりも強力な、怒りのオーラが見える気がする。
ボロボロの建物の中。
俺は魔族よりも魔王よりも恐ろしい未来の妻に、この日絶対服従を誓うこととなった。
読んで頂いてありがとうございます。
いいねブックマークしてくださった方ありがとうございます!
とても嬉しいです!
タナトスはどうやらメラフィーヌの尻に敷かれて生きていくことになりそうです。
「リューやっぱり友達思い!泣ける!」と思ってくれたリュー派のあなたも、
「俺も親になる勉強したなー」と懐かしい思い出に浸ったミドルなあなたも、
ぜひいいねブックマーク、
☆下の評価5つ星☆から応援してくれると嬉しいです☆彡




