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【完結】魔王な彼の悪女研究(続編)  作者: 露原そら
第二章 アナクラシア編
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2-13 女王と堅物(sideミリアル)

エリィ達が瘴気が充満したゼライアカンパニーの中へ突入して暫く経った頃。

治療の準備を万端にした私とサミュエルは、少し離れた場所から結界をじっと眺めていた。


「………まだ、かな」


「…………信じて待つしかないだろう」


エリィたちが結界の中に突入してから、二時間半は経っただろうか。

依然紅い瘴気は薄まることはなく、どちらかというと、濃くなっているように見える。


「っやっぱり、今からでも私も中和薬飲んで中に……」


「馬鹿言うな。俺たちの役目は瘴気が消えたあとの医療行為だ。共倒れしたら誰も助けられない」


「……そう、だね………」


分かってる。

そんなの100も承知だ。

ただ、居ても立っても居られないだけで。


やり場のない気持ちを押し止めるように、グッと手を握る。


「………ミリアル、止めろ」


「何を……?」


「血が、滲んでる」


はっと自分の手をみると、爪が食い込んで赤く内出血していた。

震える手を、無理矢理開いたり閉じたりする。


ふいにサミュエルが私の手を取って傷を撫でると、そのまま手を握った。


思っても見なかった行動に、ポカンとしてサミュエルを見る。


「握るなら俺の手を握れ」


「……っは!?いや、あの……」


「お前の手よりは丈夫だ。一応傷つかないように保護魔術もかけた」


………なんだ、そういうこと……?


まさかの事態に慌てたが、特にそういう意図は無かったみたいだ。

飄々とした表情のサミュエルを見て、なんだか残念な気持ちになる。



…………残念な気持ちってなんだ。



サミュエルの手を握ったまま、誤魔化すように、再び結界の中で揺らめく紅い瘴気に目をやる。


その時、さっきよりもずっと濃い紅い瘴気の煙が、濛々と激しく立ち昇り始めた。


「な、にあれ……!」


流石に、あの濃さは……!


「どうしよう、あれじゃ、中和薬は……!!」


「落ち着け、見ろ!」


震える身体を落ち着かせながら再び結界の中に目をやる。


さっきまで濛々と立ち昇っていた瘴気が、じわじわと溶けるように消えていく。


少しして、そのまま瘴気は溶けるように消え、結界もふわりと消えてなくなった。


「消……えた………」


「行くぞミリアル」


ハッとしてサミュエルを見上げた。


「一瞬でもあの濃度だ。瘴気中毒になっている可能性が高い。一刻を争う。気合い入れろ」


「……っそうね、分かった」


「迎えだ、準備は万端か?」


見ると空から精霊獣の白馬が猛スピードで迫ってくる。

明らかに緊急事態を匂わせるその様子に、気を引き締める。


「もちろんよ、やってやるわ」


「……そうだ、その意気だ」


珍しく笑いを含んだようなサミュエルの声に、おやと思って思わず顔を見上げた。

サミュエルはふっと柔らかく笑っていた。


「やっといつもの調子が戻ってきたな」


「っは、はぁ!?」


『サミュエル様ー!ミリアル様ー!!』


ヒュウと白馬が目の前に舞い降りた……かと思ったら、身体がふわりと浮いた。


『ちょっと無理して運びます!何とかして捕まって下さい!』


「ひゃあ!?」


そう思ったときには空の上だった。


思わず手元のなにかにしがみつく。


「…………役得ということでいいか?」


「何がよ!!」


「………まぁいい、すぐ着く。あそこだ」


半壊……というか殆ど壁ばかりになった建物のの中から、火の玉がボゥ、と上がった。

恐らく所在を知らせる為のものだ。

精霊獣は真っ直ぐにそちらへ降りていく。


火の玉を上げたのはリューカス殿下だった。


その近くに、ついさっき瘴気中毒になって倒れていた男が、また倒れている。


離れたところにブランディーヌ嬢と……半身の無い男が倒れていた。

恐らく、あれはゼライアカンパニーの社長だ。

何が起こったのかは分からないが、おぞましい光景に背筋が冷える。


とにかく、治療だ。

白馬がリューカス殿下の元へ降り立つ。


白馬がキラリと輝きながら消え……精霊の民のルディアが、ぐらりとふらついた。

すぐさまリューカス殿下がその身を支える。


『ルディ、ごめん……遅くなった』


『だ、大丈夫……それより治療……』


『アホか!後はプロに任せて、早くごはん食べなきゃ』


『だいじょうぶ、今は、いらない……』


『………いらない?』


リューカス殿下が青ざめる。


『………浄化、したの?』


『す、こし……』


『……………』


そういえば、精霊の民は血の力を使うとものすごく空腹になるときいた。

それなのに、「ごはんがいらない」というのは、かなりまずい状況なんだろうか。

浄化はきっと、何らかの精霊術なんだろうけど……

困惑する私のところに、タナトスの様子を見終わったサミュエルがやって来た。


『こっちは、大丈夫そうだ。一時的に魔力切れになったようだが、解毒薬のタイミングも良かったようだ。胃壁もちょうど損傷部に施していた保護魔術があったから、特に損傷はない。酸欠か何かも合わさって気を失ってるだけだ。……ブランディーヌ様も問題ない。どちらかというと………殿下のほうがまずいだろう』


そう言うとサミュエルはリューカス殿下に歩み寄る。

よく見ると、少量だが袖口に血がついている。

喀血するほど中毒になったのに立っているのか。

恐らく相当魔力が多いんだろう。

身体の方は、キツイだろうに。


ルディアがハッとしてリューカス殿下を見上げると、青い顔をしたリューカス殿下は少しふらついて膝をついた。

そして何かの魔術を解除すると、医療魔術をかけようとするサミュエルの手をガッと掴み、床下を指差した。


『っ俺はいい、早くあの床下へ!』


『床下!?』


慌てて覗き込む。


床下は暗く、深くだだっ広い空間になっていた。

こちら側の光が差し込むその中に、ルヴァイとエリィが向かい合うように倒れている。


「エリィ!!ルヴァイ!!!」


私が叫び終わらないうちに、ガッと抱えられた。

サミュエルが私を抱えたまま、床下へふわりと着地し、すぐさま二人に駆け寄る。

まずい、二人とも喀血している。

急いで全身分析をかける。


「しっかりしろ!クソ、気道確保、気管保護完了!ミリアル、魔力値読み上げ!」


「っ魔力値は20以上!解毒薬が効いてる!胃の損傷有り!保護して!」


「よし、あと少しだ………」


サミュエルが二人へ同時に医療魔術を使っている。

凄い、そんな事できるの。

驚きつつも気を引き締める。


「輸血は……ギリギリ、大丈夫。良かった……魔力値はさっきから徐々に増えてきてる。内蔵の損傷はルヴァイが胃壁上部と中部に各一箇所、エリィは胃壁上部一箇所と、気管が少し……どれも止血と保護はしっかりされてるわ。うん、大丈夫………このまま、魔力回復薬を投与するけどいい?」


「あぁ、大丈夫だ………良かった」


サミュエルが、ふぅと安堵の息を吐き出す。


「一旦上に戻ろう。リューカス殿下の治療と、状況把握だ」


そしてまた抱きかかえられて、ふわりと飛び上がる。


「………サミュエル、魔術で飛んだりできたのね」


「当たり前だ。俺にできない魔術はない」


相変わらずの淡々とした様子でそう言い放つと、また私を床上にそっと着地させた。


優しげな仕草なのに完全に事務的なその表情に、やっぱり残念な気持ちになる。


……どうした私。しっかりしろ。


ペチンと頬を叩いて状況把握のためにあたりを見渡す。


崩れ落ちた天井。

抜け落ちた床は2階分ぐらいありそうだが、元々が高い天井だったからか、残った壁がかなり高く見える。


リューカス殿下の処置をサミュエルに任せ、ブランディーヌ嬢の方へ向かう。


『大丈夫ですか?診察したところ身体に異常は無さそうですが、違和感あれば教えて下さい』


『………いえ、大丈夫です』


そう呟いたブランディーヌ嬢は、悲しげに沈んだまま、床に転がる半身の無い男の死体に注がれていた。


『……ゼライアカンパニーの社長、ですか』


『えぇ………消えた半身は魔族の身体になっていました』


『っは!?魔族の……身体!??』


信じられないことを聞いて、再びその死体に視線を戻す。


確かに、消えた体の境目には、不自然に縫われたような跡が残っていた。

縫合の跡だろう。

そのおぞましい事実を知り、どんな事を行ってきたのかを想像して身震いする。


『一体……ここで、どんな実験をしていたんだ………』


呆然としている私に、ブランディーヌ嬢はふっと悲しげに笑いかけた。


『彼は、本当に優秀な医療研究者だったんです。なんの知識もない私には分かりませんが……きっと、想像以上に知的好奇心を揺さぶられてしまったんでしょうね』


『……お知り合い、だったんですか』


『同級生です。随分昔ですが』


そう言うとブランディーヌ嬢は、抜けた天井の先の青い空を見上げた。


『………でも、これで良かったと思います。彼を止められて良かった。ありがとうございました、ミリアル女王陛下』


『やめて下さい、もう過去のことですから』


苦笑いした私に、ブランディーヌ嬢は、力が抜けたようにふふっと優しく笑いかけた。


「ミリアル!二人とも目覚めた、また床下へ降りるぞ」


サミュエルの声にハッと振り返り、床下へ続く扉へ駆け寄る。

見ると寝転がったままの二人は、しっかり手を繋いだまま、似たような苦悶の表情でこちらを見上げていた。

そっくりなその様子に、思わず笑ってしまう。

仲良しか。


またサミュエルに抱きかかえられ、魔術でふわりと床下に降り立つ。


半泣きのエリィが、寝転がったまま私を見上げた。


「ミーちゃん〜〜〜!胃が痛いっっゲホゲホ」


「無理に喋るなエルリーナ。お前は気管も損傷してる。処置は済んだが暫く絶対安静だ。ルヴァイも一緒に、二人仲良く2ヶ月ほど消化の良い食事で過ごしてもらう。……もちろん禁酒だ」


すると、二人揃って唖然とした表情になった。

面白すぎる。

仲良しか。

エリィが掠れた声でわめき始めた。


「信じられない!2ヶ月禁酒!?絶対嫌よ!!」


ルヴァイは難しい顔で悩むと、ハッとした顔で何かをひらめいた。


「……胃壁の保護魔術ぐらいなら、俺でもなんとか覚えられるんじゃないか?」


「ふざけるな。医療行為は医師免許がないと許されない」


不機嫌に眉をひそめたサミュエルが一蹴する。


「自分に対しての医療行為は?」


なおも諦めないルヴァイの質問に、サミュエルは少し考えると、私を振り返った。


「…………ミリアル、すまん、法的にはどうだ?俺にはわからん」


「そんな法律あったかな………」


というか、何でそんなこと真面目に考えてるんだ。

この人たちバカじゃないのか。


何だか気が抜けて……安心して、エリィの横にヘナヘナと座り込む。


エリィの顔色が少し戻ってきてる。


……良かった、ほんとに良かった。


「……ミーちゃん」


ぽつりとエリィの声が聞こえて顔を上げると、涙を浮かべたエリィが、私の手をそっと握ったところだった。


「ありがとう……助けてくれて」


「っバカね!当たり前でしょう!!」


うっかり自分の涙腺も崩壊して、エリィにめちゃくちゃに抱きつく。


「ふふ、ミーちゃんとサミュエルが来てくれたとき、あーきっともう大丈夫だーって、すごくほっとしたんだよね」


「何言ってんのよ!こっちはこのまま死ぬんじゃないかって気が気じゃなかったんだからね!」


「ふふ、ごめん……」


「エリィのバカ!!!」


「っっミーちゃん!!苦しい〜〜〜!」


気がつけばエリィの顔をギューギューに胸の中に埋めてしまっていた。

本当に邪魔だなこの胸。


少し気持ちが落ち着いて、不貞腐れながらエリィを開放する。


………ルヴァイがなんだかニヤリとしてこちらを見ていた。


「サミュエルもやってもらえば?」


「胃壁保護が要らないようだな」


「ごめん、悪かった」


即謝りするルヴァイに、顰めっ面のサミュエル。

そんな嫌な顔しなくてもいいのに。


余計拗ねた気持ちになって、息も絶え絶えなエリィをツンツンイジる。

なんだかホッとして、どっと疲れが出てきた。

治療が落ち着いたら今度は事後処理と外交だ。

大国アナクラシアを救ったんだから、きっちりとエラマルシアを盤石にする見返りを貰って帰らないと。

まだまだ、私の果たす責任はある。


そうしてこの先のことを考えていたら、はぁというサミュエルのため息が聞こえて我に返った。

サミュエルは立ち上がり、エリィとルヴァイを見下ろすと淡々と口を開いた。


「……さて、じゃあ、お前たちの搬送の手配ができるまで、暫くここで待ってろ」


「え」


「仕方ないだろう、俺たちだけで運べないからな」


そう言うとサミュエルはまた、ふわりと私を抱き抱えた。


「近くで他に治療が必要な者がいないか調べている。体調に異変が出たら叫ぶなり何なりして知らせろ」


「えっこんな状況で叫べる!?」


「二人もいるんだ。仲良く助け合って何とかしろ」


そう言うと二人を床下に残したまま、私を抱きかかえて、またふわりと飛び上がった。

そして優しく床に降ろされる。


「……ほんとに付いてなくて良かった?」


「近くにいれば大丈夫だろう」


「まぁ……でも、他には、死体だけなんじゃ………」


少し離れたところを見渡すと、ちらほらと全身白い服の者たちが倒れているのが見える。

薄い布の隙間から見える顔は、どれも赤黒く変色していた。


この後の事後処理を考えると、嫌でも厳しい気持ちになる。


「………辛いか」


「え?」


「さっきから、辛そうだ」


サミュエルの方へ視線を戻すと、思ったより心配の滲んだ顔をしていた。

その優しさと心配が入り交じる表情に、思わず息が止まる。


サミュエルは、少し悩むように俯いた。


「……悪いが、知っての通り俺は人の気持ちはあまり良く分からない。もし今俺がミリアルにしてやれる事があるなら、教えてほしい」


そして再び上げた顔は妙に甘く、切なげに見えた。


うそ、待って、やめて。

何その顔。

ちょっと、これは私がどうしていいか分からない。


そんな私を見て、サミュエルは怪訝な顔になった。


「なんだ………どうした?さっきまで青い顔してたのに、今度は赤く」「っさいわね!!黙りなさいよ!!」「……は?」


一気に不機嫌そうになったサミュエルがメガネをクイッと上げる。


「何なんだ。親切にしていたつもりだが、何がいけなかった」


「な、何もかもよ!!」


「何もかも……だと!?詳しく説明しろ、それじゃ分からん」


「馬鹿じゃないの!!!」


このカタブツ男が。


半壊した建物のなか、ギャーギャーと私達の声が響く。


ピチピチと、紛れ込んだ鳥の声が妙に平和だ。


戻ってきた、平和な時。


きっと、私が素直になれるのは、もうちょっと先。


読んで頂いてありがとうございます。


いいねブックマークご評価してくださった方ありがとうございます!

とても嬉しいです!


「あらあらまぁまぁうふふふふ」と親戚のおばちゃんのようにニヤけた方も、

「えっ!?サミュエルは!?どういうつもりなの!?わざとなの!?」と詰め寄りたくなった方も、

ぜひブックマーク、

☆下の評価5つ星☆から応援頂けると嬉しいです☆彡


いよいよ次回最終話です!!

明日完結予定ですので、ぜひまた遊びに来てください。

ご覧頂きありがとうございました!

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