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【完結】魔王な彼の悪女研究(続編)  作者: 露原そら
第二章 アナクラシア編
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2-1 変死体(sideミリアル)

「胃が……痛い………」


ルヴァイがお腹を抑えて机に突っ伏している。

そして、エリィが冷たい目でルヴァイをじぃっと見つめている。


「…………飲んだでしょ」


「ごめんなさい」


「ダメって言ったでしょ」


「900年間、腹なんて壊さなかったのに……」


「もう不老不死じゃないんだから!気をつけて!」


「普通の人間って大変なんだな……」


ぐったりしているルヴァイの頭をペシペシと叩くエリィ。

随分ルヴァイに遠慮がなくなったなと思う。

ていうか。


「なんだろう、私どこから突っ込んだらいい?」


思ったより呆れた声が自分の口から出る。


あれから約三週間後。

無事退院したルヴァイがこっそりロッケリーニを飲んだらしく、エリィはご立腹だ。


「エリィ……これ、いつ治るの………」


「あと2、3週間だと思ってたんだけど、今日痛がってる様子をみるとあと一ヶ月はかかるわね」


「…………嘘だろ……」


永遠の時を生きていたはずのルヴァイは呪いが解けて普通の人間になった。

つまり、病気にもなれば怪我もする。

約900年間痛くも痒くも無かった男は、久々の胃痛に苦しんでいる。


「胃はね、時間かかるのよ」


残酷なエリィのコメントに萎れた様子のルヴァイは、暫くしてパッと顔を上げた。


「あれだ、胃の表面を保護する魔術あったよな」


「残念ながら高度な技を持った医療魔術師じゃないとあれはできません」


「なんで?」


「見えないところに魔術をかけるのは大変なのよ」


「見えるようにすればいいだろ」


「その魔術だって普通の人には難しいのよ」


「魔導具使えば?」


「…………どんな?」


そうしてヨタヨタと部屋を出ていったルヴァイは、何か新しい魔導具を持ってきた。


「これをこうしてこっちを見たい方向に向けたら映るだろ」


「うーん、深さは?」


「ここをこうして……」


「もう少し鮮明じゃないとなぁ」


「それならこっちの素材をあれに変えたらいいかな。高いけど」


今度は二人で新しい医療魔導具の開発を始めた。

もうルヴァイもこの研究室の人間でいいんじゃないだろうか。

まぁ、魔導具開発の道具はここには一切ないんだけど。


とにかく仲良さそうな二人を置いてエリィの研究部屋を出る。

この大学では、職業研究員になれば一人一部屋もらえるようになっている。

ダラダラと自分の部屋に向かう。


「あれ、サミュエル何してんの?」


「午後の部屋の掃除をしていた」


「いつも安定して真面目だね……」


ほうきとチリトリを持ったサミュエルはなんだかシュールだ。

サミュエルは結局新調したらしい銀縁眼鏡をクイッとあげた。


「お前は部屋の掃除ちゃんとやってるのか」


「え」


「ここには召使いはいないからな」


「あぁ、まぁ……それなりに」


「ほう。じゃあ失礼する」


「っちょっと待っ………」


ガチャリと私の研究室を開けたサミュエルが天を仰いだ。


「想像……以上だ………」


効果音をつけるなら、ぐちゃぁ!だろうか。

紙の束でできた地層が積み重なっている。


「………紙の整理が嫌いなのよ」


「それでよく研究できるな」


「一応どこに何があるのかは全て把握できてる」


「頭の使い方がおかしい」


はぁ……とため息を吐いたサミュエルが、ギラリと銀縁眼鏡を光らせて私を見た。


「やるぞ」


「え、何を」


「この惨状を俺が目撃しておいて放って置くわけがないだろう。片付けるぞ」


「は!?もう夕方だけど!嫌だ!」


「お母上にこの惨状をお伝えしてもいいか」


「悪かったわ。今すぐとりかかりましょう」


元高位貴族のサミュエルは母上とも面識がある。

こんな弱みを握られるとは。

母上には絶対に知られたらいけない。

間違いなく締め上げられる。


暫く書類をバサバサと整理していると、エリィとルヴァイがひょっこり部屋を覗きにきた。

仲よさげなその雰囲気に、ちらっとサミュエルを見る。

淡々としているけど、大丈夫だろうか。

イチャイチャし始めるんじゃないぞと、ひやひやする。


「ミーちゃんが片付けるなんて……明日は槍が降るかもしれない」


「失礼ね!私だって片付けるわ!」


クスクス笑いながらエリィが何か私に手渡す。


「これ、ミーちゃん宛の荷物、私の方に間違ってきてたよ」


「あぁ、ありがとう」


東の国アナクラシアからの荷物だった。


封を切ると、手紙と調査データ、そしておどろおどろしいスケッチが出てきた。


「また変死体か」


「送り主はアナクラシアの主要航路が通る港街の領主か……」


覗き込んだサミュエルに説明しつつスケッチを見せる。


「原因不明らしくて、最近何か知らないかって連絡が来るんだよね。一例だけじゃなくて最近増えてるみたいで、放っておけないって……」


サミュエルは首を傾げて難しい顔をした。


「……こんな症例は見たことないな。見たら忘れないだろ、これは」


「そんなに?」


エリィに手渡すと、なぜかはっとしたような顔でスケッチをみて、データを読み始めた。


「………これ、前の症例もあるの?」


「あぁ、これ。ちょうど整理整頓したとこだからすぐに出てくるよ」


「普通だ」


ドヤ顔をしたらサミュエルに突っ込まれた。

なんなんだ。

不満げにエリィに別の紙の束を渡す。


「なに、エリィ。見たことあるのこれ」


「………ちょっと、待って」


また難しい顔でスケッチを見て、データを読む。


「………ルヴァイ、これ」


暫くスケッチをじっと見ていたエリィは、入口の方で離れてぼんやりと立っていたルヴァイに声をかけた。

魔術部のルヴァイが知ってるとは思えないけど、年の功だろうか。

ルヴァイもなぜ自分に意見を求められてるんだろうと首を傾げている。


エリィは、なんだか言葉を選びながら口を開いた。


「私……すごく古い記憶で、これに似たの、見たことある気がする」


紙を手渡されたルヴァイは、スケッチを見て目を見開いた。

それから別のスケッチにも目を走らせて、呆然とした顔でエリィを見る。


エリィは、不安げな様子でその死体の特徴を抜粋して読み上げた。


「全身が赤黒く変色した肌と変色した眼、消化管や肺の損傷と出血跡。毒物の検出や内臓以外の外傷は無し。死後数日経ったものばかりだから断定できないけど……」


「………これは、どこで」


「東の国アナクラシアだって………」


ルヴァイがまた呆然とスケッチに目を落とす。


「ごめん、エリィ。説明して?伝染病?」


「………ううん。伝染病じゃない。確証は持てないんだけど……」


エリィはちらりとルヴァイを見てから、私を真っ直ぐに見て告げた。


「……長時間、瘴気に晒された死体だと思う」


「っな………」


ルヴァイからスケッチを奪い返して見る。

全身の、赤黒い、変色。


「瘴気は身体の各部位から吸収され、体内に蓄積していく。特に消化管から体内に入り、魔力と結合する。だから損傷は基本的に消化管か肺だ……外皮に、ここまで瘴気が結合するなんてことある?」


「だから、長時間だろうって。瘴気だらけの土地で亡くなって横たわっていた人たちは……みんなこんな風に、赤黒く染まっていたわ」


そんな、まさかと否定できる要素を探す。

必死でルヴァイの体内の瘴気の研究をしてきたこれまでの知見と照らし合わせる。

でも、見れば見るほど、肯定する要素ばかりが目につく。

ただ一つおかしい点に気付いて、はっと声を上げる。


「瘴気の色は、こんなに赤黒くないじゃない」


「……生きている人間に瘴気がとりこまれたら、ルヴァイのように鮮やかな紅の色になっていたけど……亡くなった人たちは、みんな赤黒くなっていた気がするの。魔力が枯渇して反応できなくなると、鮮やかな色が失われるのかもしれない」


「……………」


「……血液のようだな」


サミュエルがぽつりと呟いた。


データとスケッチを見て、これ以上の否定要素を見つけられずに、ルヴァイを見る。

暫く俯いて考えていたルヴァイは、苦しむような声で呟いた。


「………確定は、できない。だが……エリィの言うとおり、瘴気にやられた死体とかなり特徴が一致してるのは……間違いない」


「…………アナクラシアの者と連絡を取ろう」


信じられない思いを引きずりながら、腹をくくる。


「疑わしいのであれば、それを潰すために動こう。エリィ、父親の議会長に連絡を取る。私から連絡していいよね?」


「うん、もちろん。お願い」


「……みんな、一緒に話してくれる?瘴気となると、ここにいる四人以上に詳しい人はいないから」


「わかっ………」


ルヴァイが腹を抑えた。

サミュエルがちらりとそれを見る。


「………見せてみろ」


「いや、でも……」


「俺もお前の主治医だ」


そう言うとサミュエルは問答無用で魔術式を展開した。


「損傷の大きかった胃壁上部がまだ治癒の状態が悪い。飲食物もあるだろうが、治りが悪いのは瘴気の癒着もあるだろう」


「癒着……?」


「見ろ、胃壁の色価のデータだ。この部分だけ異様に赤の要素が強い。炎症の色にしては異常だ。この紅の目のように毒性を抑えても一部の色は残るんだろう」


「…………」


エリィが心配そうに数値を見ている。

サミュエルがちらりとエリィの様子を見た。


「保護魔術をかけておいた。他の部位は問題もないからこれで治癒するだろう。引き続き消化のいいものを食べて過ごせ。……ミリアル、議会長を呼ぶんだろう。俺も行く」


「えっちょ……」


突然話を切り上げたサミュエルにぐいと引っ張られて部屋を出る。


廊下をスタスタ進むサミュエルは足が早くてその表情を見れない。


「………あの二人と一緒にいたくなかった?」


思わず聞いてしまって少し後悔した。

この不器用な男は、自分を傷つけないような回答などできないだろう。


次の言葉を探そうと焦るが、その前にサミュエルはピタッと足を止めた。


なんだか不思議な顔で私のことを見ている。


「え、なに?」


「………別にそんな事はなかった」


「そう、ならいいんだけど」


妙にじぃっと見られて少し身を引く。

何なんだ。


「……………どちらかというと」


「なに?」


「お前が気にしてそうなのが気になった」


「えぇ?」


訝しげに首を傾げる。

サミュエルはそんな私を見て、ふ、と笑った。


「!?っちょっと!今笑ったサミュエル!?」


「笑ってない。行くぞ」


そうしてまたズルズルと廊下を進む。


よく分からないけど、でも、急がないといけないのを思い出した。


瘴気が、またこの世界のどこかに。

信じたくないが。



私は他国と連絡を取るために、急いで議会長であるエリィの父親に連絡を取りに向かった。


第二章も見て頂きありがとうございます!


いいねブックマークしてくださった方ありがとうございます!

とても嬉しいです!


第二章はアナクラシア編……別の作品と同じ世界線で書いてみました!

『森の賢者と太陽の遣い』のアナクラシア番外編では、この先のお話を別の視点で読むことができます。

同時に投稿予定ですので、もっと楽しみたい方はそちらもぜひご覧ください!

※アナクラシア番外編から見たい方用に、番外編冒頭にざっくりわかるキャラ紹介加えました

※順番に気をつけて投稿していますが、ネタバレ許すまじという方は、先に本作完結まで読んでから『森の賢者と太陽の遣い』へ行ってください。


「へー気が向いたら森の賢者の方にも行くか」と思ってくれた寛大な方も、

「ふふ、世界線が一緒なのはかなり前に気づいていたぜ」という稀有なマニア様(崇めます)も、

ぜひブックマーク、

☆下の評価5つ星☆から応援よろしくお願いします☆彡!!!


☆『森の賢者と太陽の遣い〜期間限定二人暮らしから始まる異文化恋愛〜』

下のリンクコピペか、目次の作者名「ソラ」を押して出てくる作者ページから飛べます!

https://ncode.syosetu.com/n2031hr/


☆活動報告更新しました!両作品のリンクについて書いています。

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