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1-10 友情(sideレイミリア)

「おはよう〜!」


「……おはよう」


ルヴァイが一人でいるところをみつけて上機嫌で近づく。

今日も素っ気ないが、とりあえず大丈夫だ。

にこやかに話しかける。


「この間お願いしてた、私にも歴史教えてって話、考えてくれた?」


「他あたって」


「えぇ、酷くない?エリィには教えてるのに」


口を尖らせて拗ねたようにルヴァイを見上げる。


ちらりと周囲を見ると、友人たちもこちらをチラチラと見ているようだ。

今日のところはとりあえず問題はないけど。

みんなには、ルヴァイは人前だと恥ずかしがってるのか素っ気ないけど、二人の時だと優しいよ、と言ってある。

後はいつも通り、このまま外堀から埋めていけばいいかな。


ぐいっと近づいて、首を傾げてルヴァイの顔を覗き込む。

大体の男はこのポーズに弱い。


「ねぇ、なんでエリィだけ特別扱いするの?」


「……エリィが特別だから」


「はぁ?」


思ってたのと違う発言がルヴァイの口から飛び出して、思わず本音の声が口から飛び出て慌てて笑顔で取り繕う。

エリィにしてはだいぶ上手くやっているようだ。

身分を弁えないその態度が頭にくる。

早めに手を打っておこう。


「……ルヴァイ。その」


困ったような、悲しい顔をする。


「エリィは、サミュエルといい仲なんだよ?聞いてないの?まさか……また、エリィ、二股かけようとしてるんじゃ……酷い……」


ルヴァイがちらりと目線をこちらに向ける。

よし、この調子だ。


「あんまり言いたくないんだけど……エリィ、悪女って呼ばれてるでしょ?もし、ルヴァイが思わせぶりな態度とられてるんなら……私、ルヴァイには、傷ついて欲しくない」


これまでこうしてエリィに近づく男を遠ざけてきた。

慣れ親しんだやり方はスムーズだ。

だって、男の人ってこういうの好きでしょう?


そうして自然な流れでルヴァイの腕に手を添えようとして、何かでパチンと弾かれた。


驚いてフリーズする。

え、何?まさか魔術で防御された?


「………俺は別に善人じゃない」


想像以上に冷たい表情。

ほんのり紅い瞳が冷たく細められる。


「これ以上余計なことをしなければ見逃す。さっさと消えろ」


「な、何言ってるのルヴァイ、流石に酷すぎじゃない?」


悲しそうで困ったような顔を作る。

何を見逃してくれるつもりなのだろうか。

まさか、あの件はバレてはないと思うんだけど。


「……エリィが傷つくのは俺の本意じゃない。だから、今はまだいいが」


ピリピリとした空気に思わず後ずさる。


「これ以上俺の女に何かしたら許さない」


ルヴァイは冷たい表情で言い放つと、そのまま立ち去ってしまった。

行く先を目で追うと、ちょうどエリィが医学棟から出てきたところで、二人は何か言葉を交わすと、なんとルヴァイがエリィの手を取って歩き始めた。

どう見ても恋人同士なその様子に愕然とする。


「信じ……られない……」


遠目に、ほんのり頬を染めたエリィが見えて、ふつふつと黒い気持ちが湧き上がる。


身分も外見も自分の方が優れているのに。

何故私だけがこんなに惨めな思いをしなければいけないのだ。

何もかも……そうだ、何もかも、エリィや革命家の父親が悪いのだ。


黒い気持ちで二人の去った医学棟の前を睨んで考えていると、ちょうどサミュエルが医学棟から出てきた。

さっきルヴァイとエリィの様子を見てキャアキャア騒いでいた子たちが、サミュエルをチラチラ見て何か話している。

サミュエルは、少し寂しげな空気をまとっている。



そっか。

そうしよう。

私は次のやることを思いついて、心の中でこっそりと笑った。




翌日。

講義の後、早速クラスの友人達に囲まれた。


「ねぇねぇ、やっぱりあの二人ってそういうことなの!?」


「きゃー!!なんかいいね!!」


「朝、カフェで二人で朝ごはん食べてるところ見かけたけど、幸せそうでニヤけちゃったわ〜」


「何ていうんだろう、組み合わせもいいよね?クールビューティーなカップルみたいな??」


何を言ってるんだ。

想像と違うコメントが多くてうんざりする。

ほんとこの子達も見る目がなくてむかつく。

何も分かってない。

はぁと黒いため息を吐きそうになるのを堪えて、悲しそうな顔を作る。


「でもさ……酷いよね?あんなに思わせぶりなことして、結局見た目のいいルヴァイのほうに行っちゃったってことでしょ?」


「え?なになに?誰の話し?」


「ほら、この間までサミュエルといい仲だったのに……可哀そうじゃない」


友人たちが顔を見合わせる。

それから、しまった、というように手で口を覆う。


「……っごめん、これ、言ったらだめなやつだった」


「ちょっと!そこまで言って内緒にするとかないでしょ?教えてよ!」


「………その、あんまり、言わないで欲しいんだけど……エリィはサミュエルよりルヴァイのほう格好いいから、乗り換えるって……」


「……最低じゃん」


「ほんとに?」


「やっぱり悪女っていう噂本当だったってこと?」


みんなが眉をひそめる。

ふふ、いい調子だ。


「サミュエル、ずっとエリィのこと好きだったでしょう?エリィも思わせぶりな態度ずっと取ってたし……多分今、二股かけてるんじゃないかなって、心配で……」


「は!?そんなことある!?」


「だってこの間、サミュエルが親密な感じで何か手渡してたよ?」


「っそれ、私も見かけたことある!」


みんな段々とそれっぽい様子を頭に描き始めた。

これでいい。

ほんの少しの噂話でも、徐々にそれが効いてくるはずだ。

不信感を募らせて、さっさと破局したらいい………



「エリィがそんな器用な真似できるわけ無いでしょう」


突然、巨乳の美女が割り込んできた。

誰こいつ。

こんなハイレベルな女、この講義とってた?


「なによ、私が誰だか分からない?これならわかる?」


女がゴソゴソ取り出した大きな黒縁メガネをかける。

何もかも違うけど、この顔は、まさか。


「っミリアル!?」


「ご名答。今日はお出かけ予定だからオシャレしちゃったけど、こんなに気付かれないと私もショックだわ」


ツヤツヤのプラチナブロンドに、大きく潤んだ碧眼。更に巨乳。

なにこれ。

反則じゃない。

格好もいつもの薄汚れた白衣じゃなくて、上等な服を着ている。

知らなかったけど、こいつも元貴族だったのか。

早く取り入っておけばよかった。


じゃなくて、しまった。

ここは上手く切り抜けないと……


「でも、そんなわけ無いってなんで分かるの?サミュエルがエリィのこと好きだったのなんて、みんな知ってるじゃない」


「だからサミュエルが可哀そうだって?むしろそんなふうに思われる方が屈辱的なんじゃないの?」


何こいつ。

クラスの子達も怪訝な顔で様子を伺い始めた。

ちょっと、困るんだけど。

余計な事言わないで欲しい。


とにかく、一番悲しそうな顔をしてみる。


「ごめん……だって、サミュエルがあんまりにも可哀そうだから。だって、ずっとエリィのこと好きだったんでしょ?見た目で乗り換えられるなんて、それこそ本当に可哀そうじゃない。もっと、みんなで応援して、助けてあげたかったなって………」


突然、ゴウ、という音と共に突風が巻き起こってプリントを吹き飛ばす。

乱れた髪を抑えて慌てて周囲を見渡したら、サミュエル本人が鋭い目付きでこちらを凝視していた。


「サ、サミュエル……」


「ふざけるな」


サミュエルの周りがピリピリしている。


「助けてあげたい、だと?」


メガネがパリンと割れる。

サミュエルはゆっくりとそれを外した。

冷たい鋼のような瞳が私を射抜くように見ている。


「確かに俺は人付き合いも上手くなければ洒落っ気もないが。だからといって人の情けを借りて好きな女をモノにするほど落ちぶれてはいない」


「……っな」


「大体なんだ、この低俗な話は。見目の話もしていたが、そんなものは金と時間をかければどうにでもなるだろう。エルリーナはそんなものだけで優劣を判断するような女でもなければ、貴様に貶されるほど馬鹿ではない。」


鋼のような瞳が冷たく、少し悲しげに細められる。


「あいつは二股なんて器用な真似は出来ないし、俺とのそんな事実も無い。そしてそんな道徳に反した行動をするほど愚かではない。仮にも俺との議論についてこれる程の学の持ち主だ。せめて貴様ももう少し学生らしく学を深めてから貶す方法を検討するんだな。あまりにも低レベルだ」


「は、はぁ!?バカじゃないの!?」


「……なんだ、反論はないのか?」


「っそんなカタブツだから他の男に好きな女を取られるのよ!」


「…………そうだな」


急にしおらしく切ない顔をしたその姿に、周りの女子たちが涙を浮かべたり頬を染めたりしている。

えっ、なにこれ。

嘘でしょう?


ミリアルが巨乳を揺らして、ペシッとサミュエルの頭を叩いた。


「なにする」


「そんな身体張らなくていいから。ほら、行こう」


「もういいのか?」


「………」


はぁ、とため息を吐いたミリアルが、すっとふざけた空気を消して強い視線で私を見た。

何か強い、威厳のような圧力を感じてたじろぐ。


「これ以上ふざけた真似をするようであれば私も黙っていない。汚い噂話ぐらいであればまだいいが、万が一他にも嫌がらせや身体を傷付けるような真似をしているのなら今すぐ止めることだ。これ以上こいつらを掻き回すのは止めろ……社会から抹消されたくなければな」


「な、に言って……」


「……行くぞサミュエル」


ぐいっとサミュエルを連れてミリアルが講堂を出ていく。

それに釣られるように、クラスの子達もさざ波のように私から離れていった。


次の授業はもうない。

静かになった講堂には、私だけが取り残されていた。


読んで頂いてありがとうございます。


いいねブックマークしてくださった方ありがとうございます!

とても嬉しいです!


「レミィ……低俗な奴め」「ミーちゃん何者?」と思った方も、

「サミュエルたん(;_;)」と切なくなった優しいあなたも、

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