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第六話 選択


「陸が見えたぞ!」

 誰が言ったのだろうか、その言葉が聞こえると皆先を争って甲板に出ようとした。ルルの港を出て三週間。久しぶりに見る土は誰の目にも快いものだった。

ヌールの甲板に居並ぶ海の男たちの中には、お互いに笑い合うルイスとアルフォンソの二人の姿があった。まだ完治はしていないものの、アルフォンソの傷は日に日に快方に向かっていた。彼らが夢にまで見た新大陸、それがもう、二人の目と鼻の先にまで近付いて来ていた。

新大陸の玄関口であるサンミエールの港に一行は入港する。この港はルルとは違って海港だった。切り立った崖の合間にあり、喫水が深い大型船も安心して停泊できる天然の良港である。唯一にして最大の欠点は、規模がこれ以上拡張できないことであった。

四隻それぞれが桟橋の横につけ、港で待っていた男にロープで船と陸とを結びつけてもらい、最後に投錨する。それから姿を現した官吏に港湾使用料を納め、停泊許可証を発行してもらう。そうしてようやく、彼らは懐かしい大地へと足をつけることができるのだ。

そこへ踏み出す一歩は、ルイスとアルフォンソの二人にとっては意味のある一歩だった。二人一緒に新大陸を踏みたかった彼らは、ほとんど皆が降りてしまうまで甲板の上で待っていた。彼らの前には船と桟橋を結ぶ幅の広い板がある。まかり間違っても踏み外すことはないだろう。あとはただ、前に歩を進めるだけなのだ。

「行くぞ」

「うん」

 二人は一歩ずつ、歩調を合わせてその板の上を行く。ゆっくりと、しっかりと、ひとつひとつ踏みしめながら。そして最後の一歩を終えたその時、彼らは遂に新大陸へとたどり着いた。

「アル、着いたんだよな」

「うん、着いたんだよ」

「ここが新大陸なんだ。やった! やったぞ!」

「うん!」

 感極まった二人は桟橋の上で快哉を叫んだ。アマルゴの町を離れてから三十五日。長い旅だった。死ぬような思いさえもした。だが、今の彼らにとってはもはや何もかもが楽しいことだったように感じられた。

「何をしているんだ、お前たちは」

 手を取り合い飛び跳ねて喜ぶ二人を見て、苦笑しながらルカーノが船から降りてきた。あの提督らしい格好のままだったが、いかんせん再び無精ひげがはびこってきていたその顔では、あまり威厳というものは残っていないように思えてしまう。

「ここはまだ桟橋だぞ。喜ぶのなら、向こうだ」

 そう言ってルカーノが指差した先には白い浜辺が広がっていた。桟橋の付け根はそこにある。サンミエールの市場はまだ整備されておらず小さいため、砂浜には大量の木箱と麻袋が並べられており、波が砂を洗うそばで種々の取引が行われていた。ユースフたちも今そこに積荷を運んでいる最中である。

「そうだね! じゃあルカーノさんも行こうよ」

「ああ。だが、少し待ってくれ」

「え? どうして?」

「いいものを見せてやろう」

 ルカーノはにやりと笑い、今度は更に遠くを指差した。砂浜の先には市場が開かれ、その更に先には町がある。背の高い建物は少なく、それのほとんどが平屋で木製のつつましやかな家だった。計画されて造られた町らしく町の中心を真っ直ぐ伸びる一本の道が貫いている。一体何があるのだろうかと思ってルイスとアルフォンソは遠くへ視線を向けた。

 ふと、地響きのような音がすることにアルフォンソは気がついた。徐々にそれは近付いてきている。よく目を凝らせば町の向こう側の空に土煙が広がっているのが分かる。それもまた眺めている内に、その濃さを増していっているように見えた。

「さあ、来たぞ」

 ルカーノは嬉しそうにその手をぱんぱんと鳴らした。土煙の正体が姿を現す。サンミエールの町を貫く道の上を、騎乗の人が猛然と進んで来た。一人だけではない。何十人も居た。いや、もしかしたら百人を超したかもしれない。町の人々は彼らがやって来るとすすんで道を空けた。その仕草には嫌そうに思っている節がまるで感じられない。彼らは市場もあっという間に通り過ぎると砂浜にまでやって来る。そしてルカーノたちの居る桟橋の根本を中心にして、半円状の陣を布いて立ち止まった。姿を現してからそこに至るまでがあまりに早く、そして一切の淀みなく行われた為、ルイスたちはすっかり呆気に取られてしまっていた。

「どうだ? 素晴らしいだろう? 流石だよ」

 自慢げに言ってのけたルカーノに返す言葉も見つからず、二人はあの彼らが乗っているものは一体何なのだろうかと思っていた。彼らは馬を見たことがなかった。

 ふと、騎馬の集団の先頭に居た男が馬から降り、(かち)になってルイスたちのもとへとやって来た。ルイスは警戒するべきかと思ったが、ルカーノの様子を見る限りそれは必要がなさそうと判断する。歩いてきた相手は、ルイスたちと二歩の距離で立ち止まる。その顔を見てルイスとアルフォンソは驚いた。その彼はルカーノによく似ていたのである。

「久しぶりだな」

「ああ。変わりないか?」

「もちろん」

「それはよかった。だが、そのひげは何とかならないのか? 提督閣下の名が泣くぞ」

「そっちこそ。この大仰な出迎えももういいんじゃないのか? されて気分が悪いわけではないが」

 ルカーノとその男はそう親しげに言葉を交わした。ルカーノの深みのある声とは違い、男の声は少しかすれている。日焼けを抜きにしてもルカーノが黒めの肌をしているのに対し、男は逆に日焼けを入れ込んでも、そこの砂浜のように白い肌を持っていた。それなのに二人の間に醸し出される雰囲気は他人のそれとは思えない。

「そいつらはどうしたんだ?」

「ルルから乗せてきた。新大陸に行きたいと言っていたのでな」

「何だって? いつの間に客船も始めたんだ。聞いてないぞ」

「違う。アルゲントゥムの話を知っていたんだ。それが船賃さ。実際は多めに払ってもらってしまったけど」

「アルゲントゥムの? なあ、今度はどうだったんだ? 使えそうな情報だったのか?」

「非常に興味深かったよ。おかげで今度こそ確信できた。アルゲントゥムは存在する」

「よかったじゃないか! 兄さん、おめでとう!」

「え? 兄さん?」

 ルイスは思わずそう言ってしまっていた。ルカーノと男の視線が彼に向けられる。

「そうだ。こいつは私の弟だ。今はサンミエールを拠点に騎兵団を率いて、まあそうだな、色々とやっている。オルミーガ、こいつがルイス・アロンソ。で、あっちがアルフォンソ・オリオールだ」

「ちょ、ちょっと待ってよルカーノさん。(オルミーガ)? 流石に嘘でしょ? 何がどうしてそんな名前なの?」

「えーっと、ルイス、だったか。じゃあルカーノはいいのか?」

「いや、そっちも気になるけど」

「気になるけど、何だ?」

「本名だって言われたし、何よりルカーノさんが気に入ってるって言ってたからいいと思ったんだ。でもオルミーガでしょ? そんな名前絶対に好きじゃないでしょ。俺だったら絶対にお断りだよ」

「だからルー! 人の名前馬鹿にしたら駄目だって! ごめんなさいオルミーガさん。謝ります。お願いですから、怒らないで下さい」

 そんな調子の二人を見て、オルミーガは声を上げて笑い出した。ルカーノも明後日の方向を向いて、含み笑いをしていることを隠そうとしている。

「ははは、面白い奴らだな、お前ら。それがよくアルゲントゥムの話を知っていたもんだ」

「まったくそうだな。幸運に感謝する他ない」

 なぜ笑われているのかルイスには分からなかったが、ふと彼は聞こう聞こうと思っていた疑問を思い出す。

「あ、そうだ。ねえルカーノさん、そういえばどうしてアルゲントゥムの話をあんなに聞きたがったの? 分かりにくくて退屈でつまらない御伽話なのに」

「そういえば確かに。ルカーノさん、お願いです。教えて下さい。そういえばさっきアルゲントゥムは存在するとか言ってましたけど、そうなんですか?」

「おっと、すっかり話しそびれていたか。よし、今まで私が調べてきたことを全部話してやろう」

 そう言うと、ルカーノは桟橋の先端に向けて歩き出す。ルイスとアルフォンソは彼に付き従う。

「まず、私の目的だ。私の目的は財を築くことでもなければ、海賊を皆殺しにすることでもないし、世界中を探検しつくすことでもない。だが、私は今言った全てをやっている。それらは目的の為の手段なんだ」

「で、その目的っていうのが?」

「アルゲントゥムだ。波渡る島アルゲントゥム。それを発見することが、私の目的だ」

「でも、あれは昔話です。どうしてそれが本当にあるって言えるんですか?」

「最初はあると思っていなかった。だが、世界のあちこちの海を渡るうちに、私はあることに気がついたんだ。アルゲントゥムの話に非常によく似た昔話や御伽話が、世界中のいろんな場所に残っていたんだよ」

 ルイスとアルフォンソに語り出したルカーノは、二人が覚えている限り、一番活き活きとしているように見えた。その兄をオルミーガは微笑を浮かべて眺めている。

「それらの話の共通点は、ある時何の前触れもなく山のような島が現れ、陸地を攻撃し、そして再び唐突に姿を消してしまった、という三つのものが挙げられる。この三つはどの話にも含まれていた」

「アル、そうだっけ?」

「うーん、僕の知ってるアルゲントゥムは、いきなり現れていきなり消えたのはそうなんだけど、特に何もしてないと思いますよ」

「そうだ。だが、私の知っているアルゲントゥムの話を合わせると、その三つを全て揃えることになる」

「え? どういうことなんですか?」

「私は陸地を攻撃する話と、どこかへ消え去ってしまう部分しか知らなかった。だからお前が教えてくれたあの話はこの上なく興味深かったんだ。実際に歌ってみようか。そうすれば、私が何を言いたいかは分かってくれるはずだ」

 ルカーノは一息に言ってのけると、咳払いをひとつして喉を整える。そして深く息を吸い、口を開いた。



ある朝児()らはどよめきし

水際(みぎわ)を囲い果てを指す

示す先には山が在り

水面(みなも)に浮かぶ山が在り

遥けき雲を頂きて

(よろず)の鳥をはべらせし

吹きそよぐ風絡み合い

震える木々は凄まじき


やがて我らは気付きたり

それは島なり山でなし

初めて見るや根なし島

波を砕きて海を行く

白銀(しろかね)の塔咲き乱れ

朝日の(もと)に輝けり

誰言うとなく皆知れり

()の島の名はアルゲントゥム


とどろき渡る天の声

降り注ぎたる黒き岩

()むこと知らぬ槍の雨

埋め尽くしたる赤き砂

地を覆いゆく死の叫び

最後の望みぞ走ること

逃げる能わぬ者多数

還らぬ命千二百



月が沈みて陽が昇り

彼の島煙となりにけり

波の便りに導かれ

いずこなりへと消えにけり

されど我らはその名を(つた)

ゆえに我らはその名を告げる

彼の島の名はアルゲントゥム

波渡る島アルゲントゥム



 ルカーノの暖かい声は、風に乗ってサンミエールの港に響き渡った。ルイスたちもそれを聞いて、何となくではあったが彼の言いたいことを理解できた気がしていた。

「これでどうだろうか? ユースフたちと話し合って、この順序がおそらくもっとも原典に近いだろうということになった。そしてこれならば、他の話との整合性も十分にある。夢泡沫(うたかた)のシルバリア、災い運ぶジルベール、海浮かぶ森プラーター、二度と帰らぬラールジャン」

「ま、まあ、分かったよ。でもどうしてそれでアルゲントゥムが本当にあるって分かるの?」

「簡単な話だ、ルイス。アルゲントゥムは世界のあちこちを動き回っていたんだ。まさに波渡る島だよ。そして姿を現した先々ではいつも同じやり方で略奪を働いた。朝にいきなり現れ、問答無用で攻撃を仕掛け、食料や人間を奪い去ると一晩たりともそこに止まらず消え去ってしまう。いつも同じだ。だから世界の色んな場所で似たような話が残ったんだ。どの話でも歌われる島の名前は異なるが、しかしそれが指し示すものはひとつしかない。すべてアルゲントゥムのことを指しているんだ。アルフォンソ、お前のおかげで確信できた。ありがとう」

 ルカーノはそう言った。綺麗さっぱりルイスたちの疑問を解決してくれた彼であったが、しかしさらなる疑問が舞い降りる。

「じゃあ、貿易をやってるのは探検の資金集めの為?」「その通りだ」

「海賊退治をやってるのはどうしてなんですか?」

「評判をよくしておけば、意外なところから意外なものが手に入ったりする。お前たちのように、な」

「それだけじゃないでしょう、兄さん」

「まあ、そうだな。だがそれはいいだろう。とにかく大事なことは、アルゲントゥムがやはりこの世界のどこかにあることが明らかになったということだ。探しても最初からない、なんていうわけじゃないんだ。希望が湧いてきた。必ず見つけてみせる。子供の頃から憧れ続けてきた。絶対、この手に掴んでやる」

 拳を作って、ルカーノはそう強く言った。その表情は底抜けに明るくて、ルイスたちは思わず彼が提督であることを忘れてしまいそうになった。

「提督! 提督!」

 ユースフの声が聞こえた。彼は何かしらの紙を一枚持って桟橋を駆けてきている。

「どうした、ユースフ」

「積荷の売値です。向こうはこれで出してきました。あ、団長、お久しぶりです」

「久しぶり。相変わらず忙しそうだな、ユースフ」

「慣れてしまいましたよ、もう」

 ルカーノは渡された紙を上から下まで見渡した。そして、それをユースフに返すと言う。

「十分だろう。これで頼む。後で私も直接行くが、契約だけはもう済ませてしまってくれ」

「分かりました。では」

 ユースフはルカーノとオルミーガに向けては胸に手を当てて、ルイスとアルフォンソにはひらひらと軽く手を振った後に陸地へ向かって走って行った。

「じゃあ、兄さん。俺もそろそろ」

「何だ、もう行くのか?」

「今日は後三つ村を回らなければならない。だがそれが終わったらサンミエールに戻ってくる。宴席を準備させよう。しばらくゆっくりと休んでくれ。また後で」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」

 オルミーガも浜辺の方へと戻っていった。彼は馬に跨ると、来たときと同じように、部下を引き連れてサンミエールの町を後にした。

「さて、ルイス、アルフォンソ。お前たちもそろそろ行くといい」

「え?」

「これは餞別だ。大事に使え。これだけあれば一月は暮らせるだろう。その間に、どうやって生きていくかちゃんと決めておけよ」

 ルカーノはポケットに手を突っ込むと、そこから一ダルクズ金貨を二枚取り出し、一枚ずつルイスとアルフォンソに渡した。

「ルカーノさん、これって」

「気にするな。さっきも言っただろう? お前たちがアルゲントゥムの話を教えてくれたおかげで、私は他の何にも代え難い希望を手に入れられたんだ。本当に感謝している。そんなものでは払いきれないほどにな」

 ルカーノは彼らの肩に手を乗せ、語りかけるようにゆっくりと言葉を紡いだ。

「それじゃあ元気で暮らせよ。また会おう」

 ルカーノはそう言い残すと、ゆっくりと桟橋を歩いていった。アルフォンソは初めて見る金貨を物珍しさに眺めていたが、ふと横を見た拍子にルイスの異変に気付く。

「ルー?」

 ルイスは折角もらった金貨のことなどまるで頭の中にないようで、眉間にしわを寄せ、両手で拳を作って何かを考え込んでいる様子。しかしそれが何かまではアルフォンソには見て取れなかった。

「なあ、アル」

「どうしたの、ルー?」

「アル……ごめん! 本当にごめん!」

 突然そう叫んだルイスは先程もらった一ダルクズ金貨をアルフォンソに押しつけた。こんな大金を落とすわけにもいかず、アルフォンソが頑張ってそれらを手中に留めようとしているうちにルイスは桟橋の上を風のように走り出していた。

「ルカーノさん!」

 ルイスはそう叫び、前を行く男を呼び止める。ルカーノが振り向いた時には既に、ルイスは彼の真正面に立っていた。

「どうした、ルイス」

「お願いだ、俺をあんたの船に乗せてくれ!」

 その申し出にルカーノは驚き、アルフォンソは耳を疑った。

「なぜだ? ここはもう新大陸だぞ。お前の行きたかった場所じゃないのか?」

「そうだけど、でも、そうじゃなくって。俺が新大陸に行きたかったのは、そこだったら俺が認めてもらえる場所があると思ったからで、つまり……」

「居場所が欲しかった、ということか?」

「そう、多分そうだと思う。でも、この三週間ルカーノさんの船に乗ってて、本当に楽しかった。ずっとあそこに居たいと思った。だから、お願いだ」

「本気か?」

「ああ」

「楽しいことばかりじゃないぞ。海賊と戦うことだってこれから何十回だってあるだろう。もっと酷い戦いになることもあるかもしれない」

「それでも構わない」

「本気なんだな?」

「本気だ」

 ルイスの目はまったく嘘をついていなかった。船旅が楽しいからとかではなく、ただただそこに居たいから。そんなことを言われては、ルカーノに断るすべは残されていなかった。しかし、どうしてもひとつ言わなければならないことが残されている。

「分かった。いいだろう。ルイス、お前を船に乗せよう。だが、アルフォンソはどうするんだ?」

 ルカーノがその名を口にすると、ルイスはゆっくりと振り向いた。アルフォンソは早鐘のように鳴る心臓に耐えながらそのルイスの目を見る。

「ルー、僕は、じゃあどうすればいいの?」

 彼はルイスに怒っているわけではなかった。しかし、あまりの不安に押し潰されそうになってしまっていた。独りだけでこの新大陸に放り出されてしまったら、どうやって生きていけばいいか全く彼は分からないのだ。今までそうだったように、これからもルイスが導いてくれると彼は思っていたのだ。

「教えて、ルー。僕は、どうすれば……」

「アル」

 ルイスはアルフォンソに歩み寄り、両の掌で彼の手全てを包み込むようにする。

「お前がどうして欲しいかは分かる。だけど、それはできない」

「何でさ。ルー、お願いだから、教えてよ。僕は独りにならなきゃならないの?」

「それは分からない。なあ、アル。もうそろそろ、俺とかルカーノさんに付き従ってばっかりじゃだめだ。自分のやりたいことを、自分の運命を、自分で決めるんだ」

「嫌だ。そんなこと……できないよ」

「いや、できる。思い出すんだ。あの時、俺を助けてくれた時、誰がお前にそうするよう言ったんだ? アル、お前だろう? お前自身が決めたんだろう?」

 今にも泣きそうな顔をするアルフォンソに、これまた鼻声のルイスはそう告げた。ルイスがアルフォンソに向かって一緒に来てくれと言えば、二人ともわざわざ涙を流すことはないだろう。だが、これがそういう単純な話でないことをルカーノは分かっていた。彼は何も言わずに二人を見守る。ルイスはアルフォンソの返事をじっと待つ。そして、遂にその口が開かれた。

「ルー、決めたよ。僕は――」


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