記念日9
結局沙苗さんも突き詰めれば、父との受け止め方に依っては理解度に開きが出来た。
「別所さんとお義父さんとの付き合いは長いの?」
「四人の社員の中では飛び抜けているの。なんせあたしが物心ついた頃には居た。でも兄はあたしより四つ上で、兄は少しは知ってると思う。他の三人はあたしが子供の頃なので入社時から憶えている」
榎原、矢島、上尾の三人のうち一番若い上尾さんは七つしか離れてない。あたしの高校時代に入社してよく憶えている。一番面白い人だ。越村もこの人とは一番歳が近い所為か込み入った話もしても、沙苗さんと一緒に話題になる。榎原さんと矢島さんは四十代半ばとあって矢張り世間話より仕事の話ばかりだ。結婚後の入社で一年近いが、みんな外回りが多くて朝の朝礼と夕方帰社した時しか顔を合わす機会がなく、そんな突っ込んだ話はしていない。しかもほとんどが別所さんに付きっ切りで、他の三人とは詳しくない。
「上尾さんはそんなに難しい人でなく冗談が多くて、偶に顔を合わしても、だいたい人柄は解るが、問題は榎原さんと矢島さんだ。此の二人は朝夕しか会わず、しかも挨拶以外は余計なことを言わなくていつもピリピリしている」
「そうね、あたしも気の利いた冗談を言ってくれる上尾さんと対称的で、年も離れている所為か説明してもらわないと理解しにくい冗談を言われ、あとで別所さんにあれどう言う意味って聞くのよ。その点は澤村さんはアルバイトで色んな仕事をして、おじさんの駄洒落でも付いていけるけど、あたしは共学でない学生時代を送って、年配のおじさんの駄洒落には付いていけないわね」
それでも別所さんは、あたしが物心付いた頃からいる人だから、子供の頃は面白い話を聞かせてもらっても、社長の娘と従業員で、差し障りのあることは言わない。それで此のおじさん二人で困ったときは、父と同様にこれも別所さんに訊くように越村は云われた。




