営業に出る1
二月前には越村も一人で営業に廻され、今は建設中の五階建てマンションのモデルルームを任されていた。朝礼が終わり榎原さんと矢島さんが営業に出たところで、上尾さんに呼び止められた。
「何ですか急に」
「越村君、君がやってる高野に建築中のマンションに設置するシステムキッチン、あれマンションの入居予定者から評判がいいのに、何でか社長から代わるように言われて、今日は俺が行くさかい」
「え! ぼく、どうするんですか」
詳しいことは別所さんに聞いてくれ、とサッサと行ってしまった。二人のパートのおばさんが事務机の椅子に座り、パソコンのモニター画面と睨めっこしている。それをぼんやり見ていると、社長に呼ばれた別所さんが「待たしたなあ、今日からまたわしと廻ることになった」と戻ってきた。
「何でですか?」
まさか沙苗さんがもう手を廻したのか。
「さあ、判らん。社長に言われただけや」
それだけ言うと、裏に四台置ける来客用のガレージに一台だけ残っている別所さんのワゴン車に向かった。
今日は社長に言われたのか、別所さんがワゴン車の助手席に乗った。エッと思うまもなく運転席に座らされた。今日は店を出て別所さんがひと月前から担当しているリフォーム中の家に行かされた。
「越村君はいつ運転免許を取ったんや」
「大学生の時に、社長に援助してもらって取りました」
さよか、ほなぁ行こかぁと、天王町の店を出て白川通を下がった。
「一昨年卒業して、車の運転は二年ぐらいか。丁度ええ。それより沙苗さんの運転はマニュアル車だけあって凄いだろう」
「乗ったことあるんですか」
「みんな出払って、どうしても遠方のお客さんがキッチンをリフォームするのにうちのシステムキッチンを頼まれて、沙苗さんに乗せてもらった。まあ、山道をエンジンブレーキだけで登り下りするさかい、見取れてしまった」
車は蹴上から三条通に入り山科に向かう。




