営業に出る2
「なんせ会社の車は全部オートマ車で、あんな見事な運転見たのは何十年ぶりやろうか」
「別所さんが免許を取った頃は、教習車にオートマ車はなかったですね」
「そや、まだなかった。あれはギヤチェンジがなくて楽だが値段が高すぎて敬遠されて、それが値段が下がり出すとみんなオートマ車切り替えだして、今じゃあ特別天然記念物扱いなのが沙苗さんには癪に障るんだろう」
「沙苗さんは天の邪鬼なんですか」
「おかしなところで負けず嫌いなんだ。三、四年も付き合って解らん事もないやろう。最も好きならそんなもん気にならんか」
「でも車の免許を取ったとたんに、沙苗さんはいつも助手席で、運転は僕ばっかりでした」
「ホウ。ものも考えようで、それだけあんたの運転を信用されているんだよ」
車は山科を通り抜けて此の先は滋賀で、脇道に入りそうもない。
「エッ! どこへ行くんですか?」
「滋賀県の近江八幡や。あの安土城のあるとこや」
「市内じゃあないんですか」
「キッチンをリフォームしたいという客が居れば何処でも行く。そのために君も免許を取ったんやろう」
「でも、まだ学生でしたよ」
「それでも費用は社長が出してるんやろ」
ハア、それで社長は免許を取らせたんか。学生時代はまだ就職活動も一年先なのに沙苗さんより先に見込まれた。
「社長もええ娘婿が出来てひと安心やろう」
「これでは、車は必需品ですね」
「そうや」
「他の三人の運転はどうですか?」
「上尾は若いだけに、少し飛ばすが妻帯者の二人は安全運転だよ」
丁度県境の逢坂のカーブに差し掛かった。越村は慎重を期して速度落としてゆっくり廻った。別所さんも感心している。滋賀県に入ると拓けた近江平野に出て田園風景を眺めながら走った。




