営業に出る3
「榎原さんも矢島さんもですか」
「どっちか言うと、矢島の方が運転に関しては慎重やなあ、仕事もそんな感じやけど、説明が下手や」
矢島にはまだ小学生の子供が二人居て、可愛いくてしゃあないらしく運転もかなり慎重だ。
「矢島は運転に気を取られて現場に着くと一遍に緊張から解き放され、どうもお客さんの説明に熱が入らん。榎原はその逆で、子供は下が高校生で上は大学生やさかい完全に子供から手を離れ、その分仕事に精出して頑張ってる」
「じゃあ榎原さんの方が仕事は上手いんですか」
上手い下手と言うより頻繁に台所を使う奥様が何を望んでいるか。と言う社長の着眼点に注目したらしく、使い勝手の良いシステムキッチン作りに一生懸命やった。その結果が今に出ている。美味しい料理を食べさせたいという女性の気持ちを、いかに掴むかに依って売れ行きが左右される。まあ沙苗さんの気心を掴めばその点は申し分ないやろう。と別所さんは言うが、彼女はそう簡単に納得しそうもない。台所事情より家族、特に弟の石塚の動向に掛かっている。
「まあ強引すぎてちょっと荒っぽい。絶対このキッチンの方が使い勝手が他の物よりいいですと売り込むのはいいが一生もんや。もっと相手の言い分を聞いて、台所事情に合った物を勧めるべきや。そこが榎原は気が利かん奴や。自分のペースでキッチンをリフォームさせて苦情も来ないところを見ると、みんな我慢して使っているようや」
「榎原さんは丸め込めるのが上手いんですか」
「なんとも言えんが、そこへ行くと後々のフォローもしっかり効かしているのは矢島の方だ。会社では此の二人には長短付けがたい。もう一年以上居ればお客さんはどっちがいいか、君がこの二人の長所を取り上げて工夫すれば、売り上げは確実に伸びると期待している」
別所さんは仕事の話ばかりだ。これではふた月前と変わらん。沙苗さんはどう説明したのか気になる。




