営業に出る4
目的のリフォーム中の家に着いた。場所は滋賀の近江八幡市だ。駅前を中心にして住宅街が広がり、その外側に長閑な田園地帯が広がっていた。国道を通り市内を抜ける手前から脇道に入り、ブロック塀で区切られた一戸建ての家並みが尽きる辺りに、玄関の一部をリフォーム中の家があった。家の反対側は田圃で、近所の限られた車しか通らない道路の片側に寄せて車を停めた。
仮設の玄関から声を掛けると四十前後で、新興住宅街にしては垢抜けした社長夫人の資質が窺える主婦が出て来て、越村はいささか調子抜けした。でも社長夫人がこんな建て売りの分譲住宅に住むはずもない。石塚社長の家は明治からありそうな新政府の役職の家だ。此の家はどう見てもご主人は一流会社の課長が中小企業なら部長辺りだろう。いや、ひょっとしたら重役の娘さんで、駆け落ち同然にこの家に嫁いで来たのかも知れない。
今回のリフォームの趣旨に似合うシステムキッチンを当社に依頼された。案内してもらった台所は三回目だが、まだ以前の古い流し台が据え付けてある。
「床と壁を張り替えて、隣のダイニングルームの壁を取っ払い、出来た料理の受け渡しを楽にしたいそうだ」
中々決まらない流し台とダイニングルームを、越村は交互に何度も見比べた。以前に相談を受けた奥さんの眼差しの違いに、別所は昭和生まれの引け目を感じた。
「どや、どんなんがええッ」
平成生まれの越村に期待を込めて問うた。
「そうですね、今の流し台は狭すぎるし、もっと広めの方が料理の受け渡しがスムーズに出来て奥様も楽でしょう」
これには目を見開いて頷かれた。
「そうか、矢っ張り若いもんの意見は聞くもんやなあ」
年の差を意識したのか別所は眉を寄せた。
奥さんにアピールすると具体的に聞かれてた越村は、何度も行き来して、
「此処はこうなり、此処はこう謂うふうになってと、いちいち流しとダイニングを往復しなくても、盛り付けたお皿を持ったまま振り向けば受け取ってもらいます」
実際に動いて手真似までして、主婦に説明する熱意が受けた。別所さんが前回に披露した数種類のパンフレットは、どれも実際の使い勝手が想像できずに決まらなかった。




