営業に出る5
「そうやって動いて見せてくれれば、キッチンから食卓への受け渡しのイメージがし易いわね。此の前のパンフレットではどれだったかしら ?」
今回は越村の身体を張った実演に近い説明を受けて、ダイニングテーブルに座り直してパンフレットを見せた。
「彼の実演に近いキッチンはこれかしら ?」
商品写真の上に華麗な人差し指をしなやかに押し留めた。示した指先をなぞって顔を起こすと婦人と視線が合ってしまい、慌てて越村はそれですと肯いた。
「この場所ではこれがお薦めなんですのね」
スナックのホステスに似た柔らかい物腰で、彼女は越村に念を押すようにもう一度訊ねてくる。
「ええ、奥様の溌剌とした動きにはこのキッチンがピッタリですね」
「別所さんに比べて、女性にたいしてお上手なもの言いなのですのね」
「彼はまだ新婚で、気分が抜けきらないところがありますから……」
「あらッ、そうなのッ」
益々身を乗り出すようにあれこれと聞かれて訪問セールスは終わった。
顧客の家を出て近江八幡の国道を東に向かって走っていた。
「どうだ」
「いゃあ、今日は驚きました」
独りで営業に出て、二ヶ月間は先輩たちの指導マニュアルに沿って、事務的なセールス会話に従事していた。だが今日のご婦人には参ったようだ。
「どうだ、あの奥さんはいつも気難しい人で、中々納品するキッチンが決まらずに、施工業者からせっつかれてたんだ。それが今日は打って変わって決めてもらってホッとしたよ」
これで三回目の訪問になると、別所さんは向こうに着くまで困り果てていた。それが越村のお陰ですんなりと決まった。設置するキッチンが決まらなければ台所付近の間取りが出来ない。しいてはダイニングルームそのもののリフォームがはかどらなかった。




