響子の友人の奈弥・3
「宮沢賢治はつまらないことでくよくよするところが弟に似ている。ねえ、あなたもそうなんでしょう。だから弟の面倒見がいいのがその確たる現れ」
「それじゃあ話が早い。澤村さんもそうなんですよ。彼の利害を超越した人間性に囚われたんです」
それを義父はどうして気づけない。全てを商機に結びつけたがる発想のメカニズムから脱却出来ないのが悔やまれる。
「まあいいわ。そんな受け止め方しか出来ない奈弥って子に、どうして会わなけゃならないのよ」
「もうそこで既に偏見がもたげてますね。奈弥ちゃんは石塚の別な面を見付け出して、一見の価値はあるはずです」
「洋樹さん。あなたってどうしてそんなのんびりと人を見られるの。上手く丸め込まれるタイプなのかしら」
「それも奈弥ちゃんに会ってからその疑問に答えるよ」
「まあッ。随分とその子の肩を持つのね」
北穂高山荘では彼女の肩を持つより、石塚の話で盛り上り、そこで呑んだビールが議論を彷彿させた。
「一体そこで弟の何を話したのよ」
いささか不満気味に訊ねられた。
北穂高山荘は北アルプスではもっとも標高が高い所にある。しかも山荘のテラスのテーブル席では北アルプスの山々を俯瞰して呑むビールほど、至福に満ちたひとときは滅多にお目に掛かれない。槍ヶ岳から大キレットを越えて来た友の為に、この日はオーナーも奈弥ちゃんに特別休暇を与えてくれた。
「そこで、俺が、高い所は遊園地のゴンドラに乗るのさえ拒む奴が居る」
という話から石塚が話題になった。高い所だけでなく世間との調和には頑なに同調しょうとしない。ここで響子さんと奈弥ちゃんとで、意見が真っ二つに割れて越村が調整役になった。
「そこで奈弥って云う子は、何て言ったの」
それは本人に会えば、彼女なりに真剣に石塚を見ていたと分かる。




