記念日7
デザートになれば、これで胃の方は納得させて馴れ初めをじっくり聴ける。でも沙苗さんが云うには、烈しい張った切ったでなく、どこにでも有る社内恋愛物語で、屹度あなたは退屈する。
「そう言えば父が貴方を早くに認めてしまって、あたしたちの交際も盛り上がりに欠けたけど」
「いや〜、沙苗さんとは十分な恋の駆け引きをした」
「あら、そうかしら」
デザートに出たフルーツに絡まるシャーペットを、スプーンで掻き上げている。次に赤く色づいた大粒の苺が顔を見せると、彼女は細い指先でつまみ上げて食べ出した。
「じっと見てるけど、あたしの食べ方がおかしい ?」
「いや、綺麗な指に見取れてしまった」
「綺麗なのは指先だけ?」
「いいや、お義母さんも綺麗な顔立ちをしていた。特に沙苗さんの場合はその瞳が好きだ。新月から四日目の月のように目尻が下がらず、ある程度の角度を持って両瞼にストンと切れ込むように合わさっている。その中心から輝く瞳に魂が吸い込まれた」
「そんなこと言われたの、初めて。でも、どうして三日月じゃないの」
「三日月は切れ長すぎて閉じ込めた憂いを感じる。あッ、それで閃いた。ひょっとしてお義父さんはお義母さんに一目惚れしたんじゃないのかなぁ」
当たりとばかりに、ウフフと薄笑いを浮かべた。
「お父さんはそんなことはひと言も喋らない。でもお母さんは入社して直ぐに受け付けに廻されたのよ、そこでグラっと来たの」
「受付嬢なの?」
「ううん、違う、けど、暫く人寄せのパンダにされちゃったって言ってた」
「セクハラだ! いったいどんな会社なんだッ」
デザートを食べ終わり珈琲を頼んだ。親から勘当されるほど、悩む恋のヒロインのような両親の恋愛を沙苗さんは思い描いたが、驚くほど平凡な恋愛に余り話したくない余興として語り出した。




