義父の思惑11
この頃には澤村さんは登山を断念しても、霧山に会えばアドバイスや忠告はしていた。それでも口では言えないが第一線を退いた者の言葉は霧山にはありがたみがあってもお互いその場限りで、忘れることはないが功名心ばかりが先走ってしまった。
「どうも霧山は澤村を煙たがった。それを感じ取って彼も早々と身を引いた」
もっとも澤村も、これ以上登山に打ち込めるほど金銭的余裕も底をつきかけて、大学を出て公務員になった。その頃には霧山は単独登頂に精を出していた。
「なぜ霧山は単独登頂に固執したか解るか?」
それは社長からも本人からも澤村さんからも聞いているのに。越村は何で今更という顔をした。
「霧山は単独登頂よりサポータ隊アタック隊でがっちりチームワークを組んだ連中を指揮して登りたかった。それは今でも捨て切れていなかったそうだ」
「でもそんな話どころが、そんな雰囲気を微塵も見たことがないって、霧山を知る者は異口同音に言っているのに……」
「そこだ、その気持ちを殺して今まで登って正直疲れたそうだ」
「それは自業自得でしょう」
そう言ってしまえばそれまでだ。計画を立てる段階では綿密にかなり慎重に頭の中ではいつも組み立ても、危険を感じれば断念して引き返す勇気を養う判断を自ら潰し続けて益々危ない男になった。
「去年の事故は己の精神の行き詰まりを求めた結果だと本人は白状した。何故そこまでなったか。冒険家とは名ばかりでその実態はボロボロに病んだ精神の持ち主だった。去年の事故は天が自分に下してくれたものだと悟り、今は穏やかになってこれからの人生を充実させたいと頑張るそうだ」
「そうですか。これで店を引き継いだ石塚については問題ないでしょう」
「そんな話を聞かされても本人はどうもピンとこないんだ」
社長は趣味らしい趣味を持っていなければ無理も無い。さぞかし山の話には退屈したのだろう。




