義父の思惑10
霧山の家を後にして車はゆっくりと雑木林の中を抜けて、左手に某洋酒会社の高級酒をかたどったロゴを眺めながら町中へ下りてゆく。
越村はハンドルを握りながら奥さんと取り替えるシステムキッチンの説明した。いつもとは違って社長は珍しく上の空で聞きながら返事をして、堪らず声を掛けた。
「社長、どうしたんですか」
ウ〜ンと腕組みをして奥歯を噛み締めるような口元をした。
「君は」
社長はいつも仕事ではこういう言い方で家では越村君だ。婿養子ではないが実質は妻の実家で暮らせばそうなる。表札だけは石塚の横に越村と表記されてるがほとんど入り婿でこれは沙苗さんの希望だ。
「君は、大学では山岳部だそうだなあ」
今さら知った上で念を押すか。思い当たるのは霧山しかない。
「霧山とは、流し台は妻任せで適当にされてほとんど山の話を聞かされたよ」
大学時代の澤村さんと一緒に登った話だ。
澤村さんは雲の動きを読み取るのが上手く、天才的な勘の持ち主だそうだ。剱岳登山でそれを実感した。霧山は別の三人で立山を縦走して剱沢小屋に向かった。穂高の経験で霧山も澤村さんから雲の動きについては相当勉強して聞かされても自然現象がそんな規則どおりに動かない。それは長年の経験に基づいて培われるものだ。それでも見落としはないがそこに自尊心が働き、この天気なら大丈夫だと霧山は過信する癖が付いてしまった。穂高で澤村さんに救われたにも拘わらず、功を焦ってまた同じ過ちをした。焦りが強いと判断力が弱くなる。此の分岐点をかなり危険な方にウェイトを置いて成果を求め続けた結果、登山経験が豊富な霧山でもリーダーシップに大きな疑問が付き纏う人物になった。




